防衛機制の具体的な種類と分類のまとめ、心理学における代表的な二十四種類の防衛機制の定義、防衛機制とは何か?㉛
このシリーズの初回から前回までの一連の記事では、自我が様々なストレス状況から自分自身の心を守ろうとする働きである防衛機制と呼ばれる心の機能のあり方について詳しく考察してきましたが、
こうした一連のシリーズの最終回にあたる今回の記事では、これまでに取り上げてきた様々な防衛機制の種類の総まとめとして、前回までの一連の記事の中で取り上げてきた
抑圧、現状否認、逃避、退行、反動形成、分裂、隔離(孤立)、解離、知性化、逆転、自虐、投射(投影)、取り入れ(摂取)、同一化(同一視)、妄想、白昼夢、打ち消し(取り消し)、補償、置き換え(転置、転位)、昇華、合理化、孤立、身体化、転移、逆転移
という全部で二十四種類の自我の防衛機制の種類について、まずはそうしたすべての防衛機制の種類同士の関係を図示したうえで、
そうした関係図の内に含まれているそれぞれの防衛機制の定義と分類のあり方を改めて列挙していく形で、まとめて書いていきたいと思います。
「抑圧」と「現状否認」の定義と「逃避」から「退行」への進展
上記の図において示したように、様々なストレス状況から自分自身の心を守る自我の防衛システムである防衛機制の働きは、
まずは、「抑圧」と呼ばれる心の働きを基点としてはじめることになり、そこからさらに、現状否認や逃避、隔離や反動形成といった様々な派生的な防衛機制のあり方へと発展していくことになると考えられることになります。
上記の図のはじめに挙げた
「抑圧」(Repression)とは、不快な感情や記憶、実行が困難な衝動や欲求などを無意識の領域の内に押し込めて意識しないようにする心の働きとして定義されることになり、
それに対して、
「現状否認」(Denial)とは、目の前で起きている悲惨な状況などに耐え切れずに、心を閉ざしてしまうことによって、そうした現実の状況についての認識自体を拒否してしまう心の働き、
「逃避」(Escape、Withdrawal)とは、そうした過酷な現実の状況からより積極的な形で逃れるために、自分にとって心理的ストレスの原因となっている場所から物理的に遠ざかろうとしたり、そうした心理的ストレスの源となる対象からはまったく別の対象へと心理的に没入したりすることによって過酷な現状から目をそらそうとする心の働きとして定義されることになります。
また、こうした「逃避」と呼ばれる防衛機制の働きが進展していくと「退行」と呼ばれる防衛機制のあり方へと移行していくケースがあると考えられるのですが、
「退行」(Regression)とは、現在の自分にとって克服することが困難な問題に直面した時に、いったん以前の発達段階へと戻るという形でそうした困難な状況から逃れようとすることによって、子供時代に戻ったような行動や過去の行動様式に基づく行動をとるようになる心の働きとして定義されることになるのです。
「反動形成」および「分裂」の定義と「隔離」から発展する「解離」と「知性化」という二通りの道筋
そして、次に挙げた
「反動形成」(Reaction formation)とは、自分にとって受け入れがたい衝動や観念に対抗するために、あえて、そうした衝動や観念とは反対の傾向を強調した行動や態度をとることによって自らの衝動や欲望を制御しようとする心の働きとして定義されることになり、
それに対して、
「分裂」(Splitting) とは、認識の対象となる物事についての良い側面と悪い側面とを区別して互いに分け隔てていくことによって、自分の認識における良いイメージが悪いイメージによって否定されて脅かされることを防ぐ心の働きとして定義されることになります。
そして、その次に挙げた
「隔離」(孤立、Isolation)とは、自らの人格にとって受け入れがたい状況に直面した時に、自分の思考と感情、あるいは、行動と感情とを切り離して意識の領域から隔絶することによって、そうした状況や行為がもたらす心理的なストレスから逃れようとする心の働きとして定義されることになりますが、
こうした隔離や孤立と呼ばれる心の働きは、そうした防衛機制の機能のその後の働き方の違いに応じて「解離」または「知性化」といった互いに様相の大きく異なる防衛機制のあり方へと発展していく場合があると考えられ、
「解離」(Dissociation)とは、人間の心が過度で深刻なストレス状況にさらされた時などに、意識の領域の内から自分自身の人格を形成している記憶や感情の一部を分離させて別の心の領域の内へと隔離してしまうことによって、人間の心全体として統合性が失われてしまう状態のことを意味するのに対して、
「知性化」(Intellectualization)とは、いったん意識の領域の内から遮断され隔離されていた感情や認識を人間の心における知性や理性の働きによって観念化しいく形で整理していくことを通じて再び自らの心の内に論理的な形で再統合していこうとする心の働きとして定義されることになるのです。
「逆転」と「自虐」および「投射」と「取り入れ」の定義と「同一化」の段階への進展
そして、次に挙げた
「逆転」(Inversion)とは、無意識の領域の内に存在する抑圧された感情や欲求を本来のものとは正反対の感情や欲求へと変化させることによって、倒錯した形で受け入る心の働きとして定義することができるのに対して、
「自虐」(Self torture)あるいは「自己自身への向け換え」(Turning against one’s own person)とは、他者が自分が相手に対して向けてくる感情を直接的には受け入れられない時に、そうした受け入れがたい感情や衝動を反転させて自分自身の側にぶつけることによって、自分自身のことを自ら罰するような形で心のバランスを保とうとする心の働きのあり方として定義することができると考えられることになります。
また、その次に挙げた
「投射」(投影、Projection)とは、自らの心の内に抑圧された欲求や感情を無意識のうちに他者の内へと投げ入れてしまうことよって、そうした自分にとって受け入れがたい欲求や感情を他者の側に転嫁してしまう心の働きのことを意味するのに対して、
その反対に、
「取り入れ」(摂取、Introjection)とは、他者が持っている価値観や感情をそのまま自分自身のものとして受け入れることによって、自分自身の人格や価値観を他者に依存する形で補強したり、外部との価値観や感情の衝突を回避したりする心の働きとして定義されることになります。
そして、こうした「取り入れ」呼ばれる防衛機制の働きがさらに進展していくと、それは「同一化」と呼ばれる防衛機制のあり方へと変化していく場合があると考えられ、
「同一化」(同一視、Identification)とは、他者が持っている優れた性質を自分自身の人格の内に取り入れたうえで、自分自身の存在をそうした他者の存在自体へと直接的に重ね合わせて捉えることによって自分自身の価値をさらに強力に高めていこうとする心の働きとして定義されることになるのです。
「妄想」と「白昼夢」そして「打ち消し」と「補償」の定義と「置き換え」から「昇華」への発展
そして、その次に挙げた
「妄想」(Delusion)とは、知覚や論理に基づくような客観的な根拠を持たない信念やイメージが勝手に本人の頭の中だけで形づくられてしまうことによって、そうした根拠のない不合理な内容の信念やイメージを現実のものとして主観的に確信してしまう心の働きとして定義されるのに対して、
「白昼夢」(Daydream)とは、本人自身は覚醒状態にあるにもかかわらず、それと同時に、一時的に夢の中にいるような意識の状態へと移行してしまうことによって、抑圧されていた様々な願望や衝動を空想の世界の中で満たそうとする心の働きとして定義されることになります。
また、その次に挙げた
「打ち消し」あるいは「取り消し」(Undoing)とは、自分自身の人格にとって受け入れがたい行動をとってしまった後になって、そうした行為がもたらす罪悪感や負の感情から逃れるために、その行為の償いとなるような行動をとることによって埋め合わせをしようとする心の働き、
「補償」(Compensation)とは、無意識の領域の内に抑圧されている欲求や感情などを、自分自身が持つ望ましい特性を強調することや、その反対に、自分自身が持つ欠陥や弱点を克服することによって充足させようとする心の働きとしてそれぞれ定義されることになります。
そして、その次に挙げた
「置き換え」(転置、転位、Displacement)とは、そうした無意識の領域の内に抑圧された欲求や衝動を、本来の対象とは異なる別の対象へと向け換えることによってもともとの欲求や衝動の充足を図ろうとする心の働きとして定義されるのに対して、
こうした「置き換え」と呼ばれる防衛機制の働きがより建設的な形で進展していくことになるとそれは「昇華」と呼ばれる防衛機制のあり方へと到達していくことになると考えられ、
「昇華」(Sublimation)とは、こうした「置き換え」と呼ばれる基礎的な防衛機制の働きが、芸術活動や学問的探究といった社会的な価値の高い活動へと向けられることによって生じるより高度な自我の防衛機制の働きとして定義されることになるのです。
「合理化」と「身体化」および「転移」と「逆転移」の定義と「抑圧」を基点とした多種多様な防衛機制のシステムの構築
そして、その次に挙げた
「合理化」(Rationalization)とは、自分の心の内に存在する満たされない欲求や不安などに対して、必ずしも事実にはそぐわないものの一見すると合理的に見える説明を与えることによって自分自身を納得させようとする心の働きとして定義されることになり、
「身体化」(Somatization)とは、無意識の領域の内に抑圧された感情や衝動が、意識における思考の働きを介さずに、直接的に身体面へと影響を与えていく形で顕在化していくことによって神経症や心身症などを引き起こしてしまう心の働きとして定義されることになります。
また、その次に挙げた「転移」と「逆転移」とは、両方とも精神分析学などの心理学的な治療の過程において現れる特殊な防衛機制のあり方であると考えられ、
「転移」(Transference)とは、そうした心理学的な治療の過程において患者が治療者に対して心を開いていくなかで、治療者側に対して深い愛情や依存心を抱いたり、その反対に、強い憎悪や敵対心を向けたりするようになるといった患者の側から治療者の側へと向けられる感情の転嫁のことを意味するのに対して、
「逆転移」(Counter transference)とは、そうした心理学的な治療の過程において強い影響力を持った患者側の心の状態に対して治療者側の心の方が深く感化されてしまうという患者と治療者との間の心理的な関係の逆転現象によって生じる治療者側から患者側へと無意識の内に向けられる極端な感情移入などの心の動きのことを意味する概念として定義されることになるのです。
・・・
以上のように、
人間の心が現代社会の内に存在する様々なストレス状況から自分自身の心を守ろうとする際に用いられる心の働きである自我の防衛機制と呼ばれる心の機能のあり方には、
上述した二十四種類の防衛機制のあり方に代表されるような多種多様な心の働きの種類が存在すると考えられることになります。
そして、冒頭で挙げた図において示したように、
こうした様々な防衛機制の働きは、そのすべてが「抑圧」と呼ばれる心の働きを基点として機能していくことになり、
人間の心の中では、そうした「抑圧」あるいは「現状否認」や「逃避」といったより基礎的な防衛機制のあり方から、「知性化」や「昇華」あるいは「退行」や「解離」といったより高度で複雑な防衛機制の働きへと徐々に発展していく形で、
数多くのバラエティーに富んだ防衛機制のシステムが構築されていくことになると考えられるのです。
・・・
次回記事:オバマ前大統領のマケイン上院議員の葬儀における追悼演説の対訳形式での全文和訳①最後に笑うアメリカの最も善き姿を体現する愛国者
前回記事:心理学における適応的防衛と不適応的防衛のあり方の違いとは?③特定の防衛機制の選好によって引き起こされる認知の歪みの偏り方、防衛機制とは何か?㉚
このシリーズの初回記事:防衛機制とは何か?①無意識の衝動や感情を統制するバックグラウンドシステムとしての自我の無意識的な働きに基づく心理的な防衛機能
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