I love youはフランス語では何て言うの?文法的構造とリエゾンとエリジオンの違い
前回は、英語の”I love you“にあたるドイツ語・フランス語・イタリア語・ラテン語の表現の内、初めのドイツ語におけるIch liebe dich.(イッヒ・リーベ・ディッヒ)という表現について取り上げました。
そこで、二回目である今回は、
日本語の「私はあなたを愛しています」そして英語の“I love you“にあたるフランス語の表現である
Je t’aime.(ジュ・テーム)
という表現について、この文に含まれる個々の単語の意味と、その文法的役割、そして文全体の文法的構造のあり方について詳しく考えていきたいと思います。
フランス語のJe t’aime.(ジュ・テーム)の文構造
フランス語のJe t’aime.(ジュ・テーム)という文を構成するそれぞれの単語については、
文頭のJeは「私」を表す一人称単数の人称代名詞je(ジュ)の主語の形であり、「私は」という意味になります。
そして、後段のt’aimeの部分は、
二人称単数の人称代名詞tu(テュ)の直接目的語の形で「君を」を意味するte(トゥ)と、「愛する」を意味する動詞aimer(エメ)の一人称単数の現在形であるaime(エム)が、
後述するエリジオンと呼ばれる発音表記の規則に従って、teの語末のeの部分が省略されてアポストロフ(‘)に置き換えられたうえで発音上融合している形ということになります。
したがって、
全体としては、Je=「私は」、t’aime=「君を愛する」となり、
英語表現との対比では、上記のフランス語の文は、
Je=I、t’=you 、aime=loveという形で、英語の”I love you“という表現に対応していると捉えられることになります。
フランス語の語末における子音とeの発音の省略について
ちなみに、上記のフランス語の表現で、
Jeの発音がジェではなく、ジュであり、
aimeの発音がエメではなく、エムとなっているように、
書かれている本来のアルファベット通りではない発音になっているのはなぜか?ということですが、
それは、フランス語の発音規則においては、
通常、語末のeの発音は省略されるか小さくゥと発音されることになっていることが理由として挙げられることになります。
他にも、フランス語の発音規則では、語末のアルファベットの発音が省略されるケースが多く、
上記のeの発音省略の他に、語末の-es の発音も省略される、また、語末の子音字についてもc,r,f,lの場合を除いて発音が省略されるといった規則があります。
上記の発音規則に従って、例えば、
フランスの首都であるParisは、フランス語ではパリスではなく、語末の子音字sの発音を省略してパリと発音されることになりますし、
Charles le Grand(カール大帝、ゲルマン民族を統合し、西ヨーロッパ世界をほぼ統一すると共に、西暦800年にローマ教皇から西ローマ帝国皇帝を戴冠することよって中世ヨーロッパ世界の礎を築いたフランク王国の国王、シャルルマーニュ(Charlemagne)とも呼ばれる。)の発音については、
Charlesは語末の-esの発音が省略されて、シャルレスではなく、シャルル、
leは語末の-eの発音が省略されて、レではなく、ル、
Grandは語末の子音字-dの発音が省略されて、グランドではなく、グランと発音されることになり、
全体として、Charles le Grandは、シャルル・ル・グランと発音されることになります。
なんだかカタカタ表記で見ると、ルルル…となって発音するのに舌を嚙んでしまいそうですが、フランス語の発音規則に従うと、こうしたrやlの発音が連続して現れるケースがよく見られることになるのです。
リエゾン(liaison)とエリジオン(élision)の違い
そして、
上記のJe t’aime.(ジュ・テーム)というフランス語の文では、もう一つの発音上の問題として、t’aimeの部分の発音上の融合の問題が挙げられることになります。
前述したとおり、t’aimeの文法的構造は、「君を」を意味するte(トゥ)と、「愛する」を意味する動詞aime(エム)が結合して、前者のteの母音字eが消去されてアポストロフ(‘)に置き換えられたものということなるのですが、
これは、フランス語においては、エリジオン(élision)という発音規則に該当する現象とされることになります。
フランス語では、teとaimeにおける前者の語尾の発音e(ウ)と後者の語頭の発音ai(エ)のように、母音が連続して発音されることが嫌われるので、
teとaimeのように、はじめの単語の語尾と次の単語の語頭で母音が連続してしまう場合は、はじめの単語の語尾の母音字をアポストロフ(’)に置き換えてしまうことによって、語尾の母音の発音自体を完全に消去してしまう現象が見られることになります。
そして、
こうした母音が連続するときに、はじめの単語の語尾の母音の発音が完全に消去されてしまう現象のことがエリジオンと呼ばれる発音規則ということになるのです。
これに対して、
フランス語の発音規則の中では、より広く知られている現象としてリエゾン(liaison)と呼ばれる発音規則がありますが、
こちらは、次の単語の語頭の母音字の発音と結びつくことによって、通常の場合は省略されるはずの語末の子音字の発音が復活する現象のことを示す発音規則ということになります。
例えば、
「私たちは愛する」という意味を表すフランス語の表現は、nous(私たちは)+aimons(愛する※aimonsは「愛する」を意味する動詞aimer(エメ)の一人称複数の現在形)で
nous aimons. となりますが、
上記のフランス語の文におけるnousとaimonsは、
単独の単語としては、前述した語末の子音字の発音省略の規則に従って語末の子音-sの発音は省略され、それぞれnous(ヌー)とaimons(エモン)と発音されることになります。
しかし、
nousとaimonsが発音上結びつくリエゾンが生じることによって、
次の単語であるaimonsの語頭の母音ai(エ)と結びつくことによって、nousの語末のsの発音が復活して、s+ai(エ)でsai(ゼ)と発音されることになり、
全体として、nous aimons は、ヌー・エモンではなく、ヌゼモンと発音されることになるのです。
つまり、
リエゾンは、語末の子音が次の単語の文頭の母音と発音上結びつくことによって通常は発音されない語尾の子音字が発音されるようになる現象のことを示す言葉であるのに対して、
エリジオンは、語末の母音が次の単語の母音との発音上の衝突を避けるために、もともと弱くしか発音されない語尾の母音字が完全に発音されないようになる現象のことを示す言葉であるという点において、
両者の発音規則の違いがあると考えられることになるのです。
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次回記事:I love youはラテン語では何て言うの?文法的構造とデカルトの『方法序説』と『哲学原理』における主格のegoの表記の違い
前回記事:I love youはドイツ語では何て言うの?文法的構造と敬称のSieと親称のduの使い分けの問題
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