I love youはドイツ語では何て言うの?文法的構造と敬称のSieと親称のduの使い分けの問題
日本語で言うと「私はあなたを愛しています」といった意味になる表現、つまり、英語の“I love you“にあたる表現は、
ドイツ語では、Ich liebe dich.(イッヒ・リーベ・ディッヒ)
フランス語では、Je t’aime.(ジュ・テーム)
イタリア語では、Ti amo.(ティ・アモ)
ラテン語では、Te amo.(テー・アモー)
となります。
これらの表現における個々の単語の意味と全体の文法的構造は具体的にどのようなものになっているのでしょうか?
今回からの数回にわたって、
上記のそれぞれの言語の愛の表現において、個々の単語がそれぞれにどのような意味をもち、文法的にどのような役割を担うことによって文全体の意味が成立しているのか?というそれぞれの文表現全体の文構造のあり方について詳しく考えていきたいと思います。
ドイツ語のIch liebe dich.(イッヒ・リーベ・ディッヒ)の文構造
ドイツ語のIch liebe dich.(イッヒ・リーベ・ディッヒ)という文を構成するそれぞれの単語については、
まず、はじめのIchは「私」を意味する一人称単数の人称代名詞Ich(イッヒ)の一格(主語)であり、「私は」という意味になります。
そして、次のliebeは、「愛する」を意味する動詞lieben(リーベン)の一人称単数の現在形、
最後のdichは、「君」を意味する二人称親称単数の人称代名詞du(ドゥー)の四格(目的語)で「君を」という意味になるので、
全体として、Ich=「私は」、liebe=「愛する」、dich=「君を」となり、
英語表現との対比では、上記のドイツ語の文は、
Ich=I、liebe=love 、dich=youというように、英語の”I love you“という表現がそのままの語順で一対一対応で置き換わる形で成立している文であるとみなせることになるのです。
敬称のSie(ズィー)と親称のdu(ドゥー)の使い分けの問題
ちなみに、
ドイツ語では、日本語と同様に、聞き手に対して呼びかける二人称を表す言葉は、相手との人間関係や立場、状況に応じて複数あり、
「君」を意味する親称のdu(ドゥー)
「あなた」を意味する敬称のSie(ズィー)という二通りの表現が可能となります。
したがって、
「私はあなたを愛する」という文を直訳するならば、親称のduではなく敬称のSieの方を使って、
Ich liebe Sie(イッヒ・リーベ・ズィー)と言っても文法上は間違いではないと考えられるのですが、
敬称とは、相手を尊敬する表現であるとともに、人間関係の距離感としては、敬して遠ざけることによって適切な距離感を保つ意味合いを持つ表現でもあるので、
愛を語りかけるという極めて親密で、人間関係の距離感が近い関係を求める表現において、親称のduではなく敬称のSieの方を用いるのは多少不自然なところがある表現であるとも考えられることになります。
また、
ドイツ語においては、人称代名詞のsieは、大文字でSieと書かれると「あなた」または「あなた方」を意味する二人称の人称代名詞ということになりますが、
小文字でsieと書かれると「彼女」または「彼ら」「彼女ら」を意味する三人称の人称代名詞にもなってしまうことになります。
したがって、
書き言葉の場合には、大文字か小文字かで見分けはつくものの、話し言葉の場合は、「イッヒ・リーベ・ズィー」と言っても、
その「ズィー」が目の前の相手のことを指しているSie(ズィー)なのか、それとも相手も知っている別の彼女のことを指しているsie(ズィー)なのかという区別がつかないために、おかしな誤解が生じてしまう可能性まであると考えられることになります。
丁寧な言葉を選んで、相手に真剣な愛の告白をするつもりで、
Ich liebe Sie(イッヒ・リーベ・ズィー)と言っても、
その言葉を聞いた相手に、
sie(ズィー)っていったい誰のことかしら?もしかしたら、私の知り合いの隣のクラスのあの子のことが好きで、私に彼女との間を取り持ってもらいたいと相談しにきているのかしら?
などと誤解されてしまっては、笑い話にしかならないので、
やはり、目の前にいる思い人に向けて「あなたを愛しています」と語りかける時には、
Ich liebe Sie(イッヒ・リーベ・ズィー)よりは、Ich liebe dich.(イッヒ・リーベ・ディッヒ)の方がより適切な表現であると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:I love youはフランス語では何て言うの?文法的構造とリエゾンとエリジオンの違い
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