反動形成とは何か?心理学における「反動形成」の定義と自我の防衛機制としての「逆転」との性質の違いとは?防衛機制とは何か?⑤
前回書いたように、現実の社会生活などにおいて生じる様々な不快な感情や記憶を無意識の領域の内へと押し戻してふたをしてしまうことによって、意識の領域から排除してしまう自我の防衛反応のあり方である「抑圧」と呼ばれる心の働きが生じる際には、
意識の側においても、自分自身の認識や行動のレベルをいったんより未成熟な幼児的な発達段階へと戻すことによって、そうした現実の状況に直面することを回避しようする「退行」と呼ばれる心の働きが現れることがあるのですが、
こうした「抑圧」と呼ばれる心の働きに伴って生じる様々な自我の防衛機制のあり方としては、「退行」と同様に有名なものとしては、「反動形成」と呼ばれる心の働きを挙げることができると考えられることになります。
そして、
こうした「反動形成」と呼ばれる心の働きと似通った性質を持った防衛機制のあり方としては、ほかに、「逆転」と呼ばれる心の働きも挙げられることになるのですが、
それでは、
「反動形成」と呼ばれる防衛機制の働きは、心理学においては具体的にどのような心の働きを表す概念として定義されることになり、
こうした「反動形成」と「逆転」と呼ばれる二つの防衛機制の働きの間には、具体的にどのような意味の違いがあると考えられることになるのでしょうか?
心理学における「反動形成」の定義とそれに基づく態度や行動の具体例
まず、
精神分析学などの深層心理学の分野において、自我の防衛機制のあり方の一つとして分類されている反動形成(Reaction formation)と呼ばれる心の働きは、一言でいうと、
無意識の領域の内に抑圧されている欲求や衝動を意識や行動に現れないように押さえ込んでおくために、あえて、そうした本来の欲求や衝動のあり方とは反対の傾向を強調した行動や態度をとる心の働きとして定義することができると考えられることになるのですが、
より具体的には、例えば、
心の内では本当は嫌っている相手に対して、あえて必要以上に親切で丁寧な対応をとることによって相手への憎しみの感情を隠そうとするといった行動や、
本当は女装や化粧といった女性的な振る舞いをすることに強い興味を持っている男性が、普段はその反対に過度に男らしさを強調する振る舞いを見せることによって、そうした自らの心の内に存在する女性的な要素を打ち消そうとするケースなどが、
こうした反動形成と呼ばれる心の働きに基づく態度や行動の例として挙げられることになると考えられることになります。
心理学における「逆転」の定義とそれに基づく行為や指向の具体例
そして、冒頭でも述べたように、
こうした「反動形成」と呼ばれる防衛機制の働きと、非常によく似通った性質を防衛機制のあり方としては、「逆転」と呼ばれる心の働きも挙げられることになるのですが、
こうした心理学における自我の防衛機制のあり方の一つとして位置づけられる「逆転」(Inversion)と呼ばれる心の働きは、一言でいうと、
無意識の領域の内に存在する抑圧されている感情や欲求を本来のものとは正反対の感情や欲求へと変化させることによって、倒錯した形で受け入れようとする心の働きとして定義することができると考えられることになり、
具体的には、例えば、
本来は相手に対して強い愛情を抱いていたはずの人物が、その欲求が満たされないことが分かると、今度はその相手に対して憎しみの感情をぶつけることによって倒錯した形で自らの愛情を満たそうとする行為や、
周りの人々に対するサディスティックな攻撃衝動を抑え込んで生きてきた人物が、そうした生来的なサディズムの傾向を、プライベートにおいては、それとは正反対のマゾヒズム的な指向へと転換させることによって自らの内なる欲求を満たそうとする心の動きのあり方などが、
こうした「逆転」と呼ばれる心の働きに基づく行為や指向の例として挙げられることになると考えられることになります。
「反動形成」と「逆転」という二つの自我の防衛機制のあり方の具体的な性質の違いとは?
それでは、
こうした「反動形成」と「逆転」と呼ばれる二つの心の働きの間には、具体的にどのような性質の違いがあると考えられるのか?ということについてですが、
例えば、
本当は心の底から嫌っている相手に対して、そうした憎しみの感情を押し殺すための反動形成として、あえて慇懃無礼にあたるような馬鹿丁寧な態度をとっているようなケースでは、
そうした嫌っている相手の態度が当人が我慢することができる一定の許容範囲を超えてしまった場合などには、
もともと自分の心の奥底の無意識の領域に押さえつけていた本来の衝動を抑えきることができなくなってしまうことによって、突然態度を豹変させて、本来の憎しみの感情が露わとなり、そうした嫌いな相手に罵詈雑言を吐いて大喧嘩へとつながってしまう場合などもあると考えられることになります。
それに対して、
「逆転」の場合には、そうした元々の欲求や感情自体が正反対の感情や欲求へと質的に変化していってしまうことになるので、
そうした心理的ストレスが一定の許容範囲を超えるようなレベルへと達してしまった場合においても、無意識の領域の内にあった本来の感情や欲求が直接顔を出してくるようなケースは比較的少ないと考えられることになり、
例えば、
サディスティックな攻撃衝動を抑え込むなかで自分の心の内で変化していったマゾヒスティックな指向が高じて自らの死へとつながるような深刻なダメージを身体に負ってしまうことがあるというように、
そのような場合は、むしろ、正反対のものへと変化させられた後の感情や欲求がさらにエスカレートしてしまうことによって、危機的なトラブルへとつながってしまうケースなどが危惧されることになると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
精神分析学などの深層心理学の分野においては、「反動形成」と「逆転」と呼ばれる自我の防衛機制のあり方は、それぞれ、
「反動形成」は、無意識の領域の内に抑圧されている欲求や衝動を意識や行動に現れないように押さえ込んでおくために、あえて、そうした本来の欲求や衝動のあり方とは反対の傾向を強調した行動や態度をとる心の働き、
それに対して、
「逆転」は、無意識の領域の内に存在する抑圧されている感情や欲求を本来のものとは正反対の感情や欲求へと変化させることによって、倒錯した形で受け入れようとする心の働きとして定義することができると考えられることになります。
そして、
こうした「反動形成」と「逆転」と呼ばれる二つの自我の防衛機制のあり方の具体的な性質の違いとしては、
「反動形成」の場合には、心の内に押しととどめられた元々の欲求や衝動は、無意識の領域に抑圧されたままの状態で残り続けていくことになるのに対して、
「逆転」の場合には、そうした心の内に押しとどめられた元々の欲求や感情自体が正反対の感情や欲求へと不可逆的な形で質的に変化していってしまうことになるといった点に、
両者の心の働きのあり方の具体的な性質の違いを見いだすことができると考えられることになるのです。
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次回記事:心理学における「投射」あるいは「投影」と呼ばれる心の働きの具体例と自己と他者の境界の不明確性の問題、防衛機制とは何か?⑥
前回記事:退行とは何か?心理学における病的退行と創造的退行との違いとは?防衛機制とは何か?④
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