サンドイッチの語源とサンドウィッチ伯爵の名前の由来とは?②サンドウィッチ村の由来と砂の上のロウソク
前回書いたように、
スライスしたパンに野菜やチーズ、ハムなどの肉といった食材を挟んで食べる食品であるサンドウィッチの語源は、第4代サンドウィッチ伯ジョン・モンタギューの「サンドウィッチ伯爵」という爵位の名称にあり、
サンドウィッチ伯爵という爵位の名称の由来は、さらに、サンドウィッチ伯の所領であったサンドウィッチ村という村の名前に由来することになります。
そこで、今回は、
サンドウィッチの語源となったサンドウィッチ伯爵の名前の由来であるサンドウィッチ村の名前のそのまた由来にまでさかのぼって考えてみたいと思います。
リチャード獅子心王のサンドウィッチ村への上陸とイギリス国教会の中心地カンタベリー
サンドウィッチ村(Sandwich)は、イングランド南東部のケント州(Kent)に位置する、現在でもわずか人口5000人ほどの小さな港町なのですが、
この町は、イギリスの首都であるロンドンの南東100kmに位置する一方で、南はドーバー海峡に臨み、フランス北部の港町カレー(Calais)からはわずか50kmほどしか離れていないこともあり、
ヨーロッパ大陸とは目と鼻の先の、イングランドとヨーロッパ大陸の間の交通の要所として栄えてきた地でもあります。
例えば、
1189年に始まる第3回十字軍に参加し、アイユーブ朝のサラディン(サラーフッディーン)との間で死闘を繰り広げたリチャード獅子心王(Lionheart、ライオンハート)の名で知られるイングランド王リチャード1世は、
十字軍からの帰路の途中で彼の失脚をもくろむ内外の敵対勢力の策略にかかり、一時、ドイツで捕囚となってしまうのですが、
1194年、多額の身代金の支払いを受けて解放されたリチャード王は、その後、自分が不在の間に王位簒奪を画策していたジョン(のちのジョン欠地王)を退け、自らの王位を回復するために、急ぎイングランドへと向かうことになります。
そして、
このとき、自らの軍勢を率い、船でドーバー海峡を渡るリチャード王が上陸し、最初に踏んだイングランドの地がサンドウィッチ村ということになるのです。
また、
サンドウィッチ村からもほど近い地にある、ケント州東部の宗教都市であるカンタベリー(Canterbury)は、カンタベリー大主教が司る中世からのヨーロッパの代表的な巡礼地でもあるのですが、
この地は、西暦597年に、教皇グレゴリウス1世の命を受けてこの地を訪れた教父アウグスティヌス(Augustinus)によって、イングランドに初めてキリスト教がもたらされた地であるともされていて、
現在でも、カンタベリーは、イギリス国教会の中心地として、この国のキリスト教信仰の中心地となっています。
サンドウィッチ村の名前の由来と砂の上のロウソク
話をサンドウィッチ村の名前の由来の方へと戻しまして、
それでは、サンドウィッチ村の名前が”Sandwich“(サンドウィッチ)と名付けられた由来がどこにあるのか?ということですが、
“Sandwich“という言葉自体は、英語で「砂」を表す“sand“(サンド)と“wich“(ウィッチ)といいう単語が合わさってできた言葉であり、
“wich“(ウィッチ)という単語は、古期英語における”wic“(ウィチ)という単語から派生した言葉ということになります。
そして、
古期英語の”wic“(ウィチ)という単語は、もともとは、
ラテン語の”vicus“(ウィクス)という「村落、村」のことを表す名詞に由来する単語であり、
この”vicus“(ウィクス)という言葉は、英語で村や小さな町のことを表す village(ヴィレッジ)という単語の語源にもなっているので、
“Sandwich“という言葉は、その大本の語源にまでさかのぼると、「砂の上の村」といった意味になると考えられることになります。
ところで、
サンドウィッチ村の東には、サンドイッチ湾(Sandwich Bay)と呼ばれる南北およそ8キロにわたって続く平らな砂浜と、なだらかな海岸砂丘が広がっているのですが、
先ほどの古期英語の”wic“(ウィチ)という単語は、
現代英語における”bay“(ベイ、湾、入り江)や”wick“(ウィク、ロウソクの芯)といった言葉の語源にもなっているので、
そういう意味では、
“Sandwich“という言葉は、「砂浜の広がる入り江」、あるいは、「砂の上の港町」くらいに訳してみる方がいいのかもしれません。
あるいは、”Sandwich”の”wich“の部分を、”village”や”bay”ではなく、wick(ロウソクの芯)の方の意味でとるとするならば、
“Sandwich“という言葉を「砂の上のロウソク」、すなわち、「砂浜の上の灯台」といった少し幻想的なイメージで解釈することもできるかもしれません。
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以上のように、
食品としてのサンドウィッチの語源は、サンドウィッチ伯爵の爵位の名称から、さらに、サンドウィッチ村という村の名前にまでさかのぼることができ、
“Sandwich“という言葉の大本の語源や、港町としてのサンドウィッチ村の成り立ちにまでさかのぼって考えると、
これらの言葉は、もともとは、「砂の上の港町」や、「砂浜の上の灯台」といったことを意味する言葉であったと考えられることになるのです。
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