WPW症候群における心房細動が偽性心室頻拍とも呼ばれる理由とは?副伝導路によって形成されるリエントリー回路の仕組み

前回書いたように、

1:1伝導型心房粗動といった特殊なタイプの心房粗動においては、心房で発生した高頻度の電気的興奮のすべてがそのまま房室結節をすり抜けて心室部分へと直接伝達されてしまうことによって、

心室細動といった致命的な不整脈へと移行してしまう危険性が高まってしまうケースがあると考えられることになります。

それに対して、心房細動においては、心房における電気的興奮の回数が多くなり過ぎることによって、かえってそのすべてが房室結節を通過して心室部分へと到達することが物理的に不可能となり、

電気信号の数が適当に間引かれた形で心室部分に伝わることによって、心室の心筋が高度の頻脈によって収縮不全のけいれん状態となる心室細動へと移行してしまう危険性は基本的には回避されると考えられることになります。

しかし、

心房細動においても、心室細動といった致命的な不整脈へと移行してしまう可能性は完全にゼロであると言い切れるわけではなく

WPW症候群などの他の不整脈疾患が前提として存在しているケースでは、非常に稀なケースではあるものの、そうしたリスクも少しは存在すると考えられることになります。

スポンサーリンク

WPW症候群における副伝導路(Kent束)を介したリエントリー回路の形成と上室性頻拍が引き起こされる仕組み

以前の記事でも述べたように、

WPW症候群Wolff-Parkinson-White syndromeウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群)とは、

心房と心室を結ぶ電気的興奮の伝達経路において、バイパスのような形で電気的刺激を伝達する副伝導路先天的に存在することによって、発作性上室性頻拍などの頻脈発作を引き起こす不整脈疾患であると考えられることになります。

そして、

こうしたWPW症候群によって生じる頻脈性不整脈においては、

通常の場合、正規の電気的刺激の伝達経路を通じて心室部分へと伝達された電気的興奮の一部がKentとも呼ばれる副伝導路を介して再び心房部分へと戻ってきてしまうことによって、正規の刺激伝導系とは別に勝手に電気的興奮を繰り返し伝達し続けるリエントリ-回路が形成され、

それによって、心房部分房室接合部(心房と心室の隔壁)のことを意味する上室部分において頻脈状態が発生している状態である上室性頻拍が引き起こされることになります。

このように、

通常のWPW症候群の不整脈発作においては、副伝導路を介して伝わる高頻度の電気的興奮は心房部分や房室接合部などの上室部分にのみ伝達されので、

全身に血液を送り出す心室部分には基本的に大きな影響を与えることはなく、命に直接かかわる危険性は低い心房部分においてのみ頻脈状態が発生すると考えられることになるのです。

スポンサーリンク

心房細動が誘発する重篤な不整脈とWPW症候群との関係

しかし、比較的稀なケースではあるものの、

高頻度の電気的興奮が心房部分に生じることによって、心房の心筋が細かく震えるけいれん状態へと陥る心房細動が発生している場合、

そうした心房部分における高頻度の電気的興奮の一部が先ほど述べた副伝導路を介して、直接心室部分へと伝達されてしまうケースも存在することになります。

心臓における電気的興奮の通常の伝達ルートにおいては、心房部分で高頻度の電気的興奮が発生したとしても、その電気信号は、心房と心室をつなぐ房室結節を通過する際に一定の頻度を超える部分はブロックされ、ある程度間引かれた形で心室部分へと伝達されることになり、

それによって、全身に血液を送り出すという心臓において最も重要な役割を担う心室部分は、高頻度の頻脈状態からけいれん状態へと陥る心室頻脈や心室頻拍といった致命的な不整脈への移行を免れることになるのです。

しかし、

WPW症候群のように、心房と心室をつなぐ電気的刺激の伝達経路に、房室結節を通過する正規のルートの他に、Kent副伝導路と呼ばれる迂回ルートがあるケースでは、

心房部分で発生した高頻度の電気的興奮が、心房から心室へと伝達される危険な電気信号をブロックする防波堤の役割も担っている房室結節を介さずに副伝導路を介して直接心室部分へと伝わってしまうケースもあり、

こうしたケースでは、通常の場合心室部分には大きな影響を及ぼすことはない心房細動においても、心室細動や心室頻拍といった心室部分におけるより重大な不整脈へとつながってしまう危険性が増大してしまうことになるのです。

そして、

こうしたWPW症候群に合併するタイプの特殊な心房細動の形態は、心室部分に早期の電気的興奮をもたらすという意味で早期興奮性心房細動と呼ばれたり、心室頻拍に類似する不整脈の形態であるという意味で偽性心室頻拍とも呼ばれたりすることになります。

・・・

以上のように、

WPW症候群のように、心房と心室をつなぐ電気的刺激の伝達経路にKent副伝導路と呼ばれる迂回ルートがあるケースでは、

心房部分における高頻度の電気的興奮が正規ルートである房室結節を介さずに、副伝導路を通ることによって、直接心室部分へと伝達されてしまい、偽性心室頻拍とも呼ばれる特殊な心房細動を誘発することがあります。

そして、こうした場合には、

非常に稀なケースではあるものの、心房細動の場合でも、上記のような特殊なタイプの心房細動から心室部分の頻脈性不整脈が誘発され、結果として心室細動などのより重篤な不整脈へとつながってしまうこともあると考えられることになるのです。

・・・

次回記事不整脈の危険度レベルに応じた五段階の分類、致死性不整脈と準致死性不整脈そして比較的危険性の低い不整脈の種類のまとめ

関連記事:WPW症候群の具体的な特徴と致死性不整脈との関係とは?致死性不整脈を引き起こす代表的な不整脈の種類⑥

前回記事:11伝導型の心房粗動が心房細動よりも危険性が高い理由とは?11伝導型心房粗動における心室細動への移行の危険性

医学のカテゴリーへ

スポンサーリンク
サブコンテンツ

このページの先頭へ