サンドイッチの語源とサンドウィッチ伯爵の名前の由来とは?①初代エドワード・モンタギューと第4代ジョン・モンタギュー
スライスしたパンに野菜やチーズ、ハムなどの肉といった食材を挟んで食べる英国風の近代的なサンドイッチは、18世紀頃のヨーロッパに起源を持つと考えられています。
そして、
このサンドイッチないしサンドウィッチという食品の語源となったのが、
18世紀のイギリスの貴族であった第4代サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギューということになるのですが、
彼がその後サンドウィッチと呼ばれることになる食品の語源となった理由、さらには、彼の爵位の称号であるサンドウィッチ伯爵という名前の由来はどのようなところにあるのでしょうか?
初代サンドウィッチ伯爵エドワード・モンタギューと清教徒革命から王政復古にかけてのイギリス
のちに初代サンドウィッチ伯となるエドワード・モンタギュー(1625~1672年)は、名門モンタギュー家の一員である著名なイングランド貴族であると同時に、
オランダとの海上貿易をめぐる覇権争いである英蘭戦争においては、海軍司令官としてイングランド艦隊を率いた軍人でもありました。
エドワード・モンタギューが生きた17世紀のイギリスでは、
清教徒革命(ピューリタン革命)から王党派と議会派に分かれたイングランド内戦、その後のクロムウェルによる独裁と彼の死後の王政復古から名誉革命へと政治情勢が目まぐるしく移り変わっていくことになり、
イギリスは、それまでの絶対王制から立憲君主制と議会制民主主義へと移行していく歴史の転換点に位置する激動の時代を迎えていたのですが、
そのようなか、エドワード・モンタギューは、こうした時代の荒波をうまく乗り切っていくことになります。
彼は、クロムウェルのもとでは海軍指揮官として活躍したのち、クロムウェルの死後は、イングランドにおける政治的混乱の収束を図るために、今度は、政友であったジョージ・マンクと共に、王政復古のために尽力していくことになり、
清教徒革命において処刑されたチャールズ1世の息子であるチャールズ2世を亡命先であるオランダまでイングランド艦隊を率いて迎えに行くことになります。
そして、
1660年、イングランド王に即位したチャールズ2世から、このことの恩賞としてエドワード・モンタギューに伯爵の爵位が授けられることとなり、
彼自身の所領であったイギリス南東部の小さな港町サンドウィッチ(Sandwich)の名前にちなんで、サンドウィッチ伯爵と呼ばれることになるのです。
第4代サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギューとサンドウィッチ諸島
そして、その後、
伯爵の爵位は、エドワード・モンタギューの子孫たちへと代々、受け継がれていくことになり、
第4代サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギュー(1718~1792年)の時代に、食品としてのサンドウィッチの語源となる出来事が起きることになります。
彼は、曾祖父であるエドワード・モンタギューと同様に、イングランド貴族であると同様に、政治家、そして海軍卿としても活躍していくことになり、
マリア・テレジアのハプスブルク家相続をめぐるヨーロッパ諸国を巻き込んだ争いであるオーストリア継承戦争の講和条約である1748年のアーヘンの和約の締結に尽力するなど、その政治的能力をいかんなく発揮していくことになります。
また、
第4代サンドウィッチ伯は、政治や軍事面だけではなく、芸術などの文化面への親しみも深く、知的好奇心が旺盛な人物でもあったのですが、
ちなみに、そのようなことから、彼は、イギリスの海軍士官であり海洋探検家であったジェームズ・クックの太平洋探検の有力な支持者ともなっていて、
1778年にクックが発見した現在のハワイ諸島は、当時は、伯爵の爵位の名にちなんでサンドウィッチ諸島と命名されていたりもしています。
そして、そのような中、
有力な政治家であると同時に、好奇心が強く、賭け事好きでもあった第4代サンドウィッチ伯は、
自らの趣味であったトランプゲームの賭け事に熱中するためには、食事の時間をも惜しむようになり、パンに挟んだ干し肉を片手に賭け事を続けることを習慣とするようになります。
そして、
そうした様子をゲームに同席しながら見ていた貴族たちが「サンドウィッチ伯と同じものを私にもくれ!」(”the same as Sandwich!“)と注文することが相次ぐようになっていったことから、
スライスしたパンに肉やチーズをはさむ食べ方がロンドンの町中ではやるようになっていき、
こうした食品自体のことを指して「サンドウィッチ」(sandwich)と呼ばれるようになったというのが食品としてのサンドウィッチの語源に関する一般的な逸話のあらましということになります。
しかし、
前述したように、第4代サンドウィッチ伯であったジョン・モンタギューは、
政治に軍事にと多忙を極める生活を送っていた人物でもあり、
この逸話のもととなっているピエール=ジャン・グロスレ(Pierre-Jean Grosley)というフランス人が書いた『ロンドン』(あるいは『ロンドン旅行記』)という著作についても、
作者がロンドンに滞在していた1765年当時、ジョン・モンタギューは、海軍卿や北部担当大臣といった国家の要職を歴任していく時期にあたっていたので、
このような政務に多忙を極めていたはずの時期に、彼が職務そっちのけにしてカード賭博に熱中していたとは考えづらく、
仮に、サンドウィッチ伯が食事の手間を惜しんでパンに挟んだ干し肉を食べることがあったにしても、それは、賭博の席ではなく、むしろ、執務中の仕事机で食べていたはずとする説もあります。
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以上のように、
サンドウィッチ伯がパンに挟んだ干し肉を食べたのが賭博の席なのか?それとも執務中の仕事机の上なのか?という細かい事情の違いはあるのですが、
いずれにせよ、
スライスしたパンに野菜やチーズ、ハムなどの肉といった食材を挟んで食べる近代的なサンドウィッチという食品の語源が、
第4代サンドウィッチ伯爵ジョン・モンタギューの「サンドウィッチ伯爵」という爵位の名称に由来することはある程度確かであると考えられることになります。
そして、
このサンドウィッチ伯爵という名前の由来は、前述したように、伯爵の所領であったイギリス南東部の小さな港町サンドウィッチ(Sandwich)にあるということになるのですが、
それでは、さらにさかのぼって、この港町サンドウィッチの名前の由来がどのようなところにあるのか?ということについては、また次回考えてみたいと思います。
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