心理学における「補償」と「置き換え」の違いとは?抑圧された欲求や衝動が向かう外的な対象の変更と自分自身の心が持つ内的な特性の変化、防衛機制とは何か?⑪

前回書いたように、無意識の内に抑圧されている欲求や衝動本来のものとは別の形で充足させることによって自分自身の心のバランスを保とうする自我の防衛機制の働きとしては、「置き換え」と呼ばれる心の働きのあり方が挙げられることになるのですが、

こうした「置き換え」と似たような機能を持った自我の防衛機制の働きとしては、そのほかに、「補償」と呼ばれる心の働きも挙げることができると考えられることになります。

それでは、

こうした心理学における「補償」と「置き換え」と呼ばれる自我の防衛機制の働きには、それぞれ具体的にどのような特徴の違いがあると考えられることになるのでしょうか?

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心理学における「補償」の定義とその具体例とは?

まず、詳しくは前回の記事で考察したように、

精神分析学などの深層心理学の分野において、「置き換え」(Displacementと呼ばれる概念は、

無意識の内に抑圧されている欲求や衝動を本来の対象とは異なる別の対象へと向け換えることによってもともとの欲求や衝動の充足を図ろうとする心の働きとして定義することができると考えられることになるのですが、

それに対して、

補償(Compensationと呼ばれる概念は、

そうした無意識の内に抑圧されている欲求や感情などを、自分自身が持つ望ましい特性を強調することや、その反対に、自分自身が持つ欠陥や弱点を克服することによって充足させようとする心の働きとして定義することができると考えられることになります。

そして、具体的には、例えば、

運動が苦手であることや病弱であることを馬鹿にされていて、そのことに深い劣等感を抱いていた人物が、そうした心の内に抑圧されたコンプレックスを克服するために、

そのような劣等感やコンプレックスをバネとして日々修行や鍛錬を重ねることによって、のちに鋼の肉体を持つボディービルダーや武闘家などに成長していくことで、そうした肉体に関する劣等感自体を克服していくケースや、

その反対に、病弱や運動能力が低いといった弱点はそのままであっても、勉学を積んで学問の分野で成果を挙げたり、勤勉で熱意のある起業家として社会的に成功を収めていったりするといった、

そうした自らの弱点や欠陥とは対照的な分野における優越性を築くことによって、もともとの劣等感やコンプレックスを相対的に打ち消していくといったケースなどが、

こうした「補償」と呼ばれる自我の防衛機制の働きが現実の状況において機能しているケースの具体例として挙げられることになると考えられることになるのです。

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「置き換え」における外的な対象の変更と「補償」における内的な特性の変化という二つの自我の防衛機制のあり方における性質の違い

それでは、こうした「補償」と「置き換え」と呼ばれる互いに似通った特徴を持った二つの自我の防衛機制の働きの両者は、具体的にとのような点において、互いに異なる性質を持っていると考えられることになるのか?ということについてですが、

それについては、まず、

後者の「置き換え」においては、例えば、高圧的な親に対する反抗心を当事者である親本人に対しては向けずに、自分よりも弱い別の子供を対象としてそうした負の感情をぶつけることによって自らの抑圧された欲求や感情を満たすというように、

無意識の内に抑圧されている欲求や衝動が直接的に向かう行き先である外的な対象が変更されることによって、そうしたもともとの欲求や衝動の充足が図られていくことになると考えられることになります。

そして、それに対して、

前者の「補償」においては、そうした心の内に秘められた欲求や衝動が向かう外的な対象よりも、抑圧された欲求や衝動の根源に存在する劣等感やコンプレックスといった自分自身の心の内的な状態へと焦点が当てられたうえで、

そうした劣等感やコンプレックスがうまく解消されていくように、自分自身の弱点や欠陥を克服することや、そうした弱点や欠陥とは別の長所を伸ばしていくことによって劣等感の価値を相対的に低下させていくというように、

自分自身が持つ内的な特性のあり方が変化していくことによって、無意識の内に抑圧されている欲求や感情自体の発展的な解消としての充足が図られていくと考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

深層心理学の分野においては、「補償」と呼ばれる心の働きのあり方は、

劣等感やコンプレックスといった無意識の内に抑圧されている様々な感情や欲求を、そうした劣等感やコンプレックスの源となる自分自身が持つ欠陥や弱点自体を克服することや、

その反対に、自分自身が持つ才能や長所を大きく伸ばしていくことによって発展的に解消していこうとする心の働きとして捉えることができると考えられることになります。

そして、

こうした「補償」と「置き換え」という二つの自我の防衛機制の働きの間の具体的な特徴の違いとしては、一言でいうと、

「置き換え」の場合には、無意識の内に抑圧された欲求や衝動が向かう外的な対象が変更されることによって、そうした欲求や衝動の直接的な充足が図られていくのに対して、

「補償」の場合には、そうした無意識の内に抑圧された欲求や感情は、弱点の克服や長所の強化といった自分自身が持つ内的な特性のあり方を変化させていくことによって、その発展的な解消が図られていくことになるという点に、

こうした二つの心の働きにおける大きな性質の違いが存在すると考えられることになるのです。

・・・

次回記事:

前回記事:心理学における「置き換え」の定義とは?現実的な観点と道徳的な観点に基づく二つのパターンと「昇華」との関係、防衛機制とは何か?⑩

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