ヘラクレスの十二の功業とは?①ギリシア各地をめぐる七つの功業の概要とペロポネソス半島を中心とする旅の軌跡
ギリシア神話の物語のなかで登場するペルセウスやテーセウス、アキレウスやアイネイアースといった数多くの半神半人の英雄たちのなかでも、
最も有名な英雄の名前としては、ギリシア神話の主神ゼウスと、ミケーネの王女アルクメネとの間に生まれた神々にも比肩する怪力を持つ英雄であるヘラクレスの名が挙げられることになります。
そして、こうした英雄ヘラクレスが成し遂げたとされている様々な偉業のなかでも、最も有名なものとしては、彼がミケーネの王であったエウリュステウスのもとに仕えていた時に行ったとされるヘラクレスの十二の功業と呼ばれる偉業が挙げられることになるのですが、
こうしたヘラクレスの十二の功業と呼ばれる物語は、以下の図において示したように、
まずは、ミケーネが位置していたペロポネソス半島を中心とするギリシア各地をめぐる冒険の旅として物語が展開していくことになるのと考えられることになります。
英雄ヘラクレスのギリシア各地をめぐる七つの功業の概要
デルポイの神託によって示された神々によって定められた運命の導きによって、ミケーネの王であったエウリュステウスのもとに仕えることになったヘラクレスは、
王の命令に従ってのちにヘラクレスの十二の功業と呼ばれることになる十二の難題へと順番に挑んでいくことになるのですが、
まずは、
第一の功業としてヘラクレスは、ミケーネの北に位置するネメアの谷に住み着いていた獰猛な獅子であったネメアの獅子退治を命じられることになります。
ネメアの獅子と呼ばれるライオンは、大地の女神ガイアと暗黒と深淵を司るタルタロスとの間に生まれた怪物の王にあたるテュポーンを父とする猛獣であり、
この獅子の体はいかなる射手や狩人でも弓矢で射抜くことができず、あらゆる武器による攻撃をも弾き返すという強靭な毛皮によって覆われていたのですが、
ヘラクレスは洞窟での三日三晩にわたる格闘の末に、この獅子を絞め殺すと、自らが成し遂げた最初の偉業を記念するために、ネメアの獅子の毛皮を頭からかぶって鎧として用いていくことになるのです。
そして、その次に、
第二の功業としてヘラクレスは、ネメアから見て少し南方に位置する湿地帯にあったレルネーの泉に棲む怪物であったヒュドラ退治を命じられることになります。
レルネーのヒュドラと呼ばれるこの怪物は巨大な胴体に九つの頭が生えた姿をした水蛇であり、中央にある一つの頭は不死であるうえに、
その頭が持つ不死の力によって全身が生かされているうちは、残りの八つの頭も切り落とした先から次々に再生して生えてきてしまうという不死身の体を持つ怪物だったのですが、
ヘラクレスは、火矢を射かけていくことによって熱に弱い水蛇の動きを封じたうえで、従者であったイオラオスの力を借りて、彼にヘラクレスがたたき落としたヒュドラの首の根元を炎で焼き払らわせて、新しい頭が生えてくるのを妨げると、
最後に残ったヒュドラの不死の頭を胴体から切り離して大きな岩の下に埋めて封印することによってこの怪物を退治することになるのです。
そして、その次に、
第三の功業としてヘラクレスは、ペロポネソス半島の北部に位置するケリュネイアの山中に放たれていたケリュネイアの鹿を生け捕りにして連れて来るように命じられることになります。
ケリュネイアの鹿は、黄金の角と青銅の蹄を持ち、矢よりも速く走ることができる俊足の美しい鹿であり、この鹿は狩猟と月の女神であるアルテミスが乗る戦車を引く聖獣としても位置づけられていたのですが、
怪力を持つとはいえ足がそれほど速いわけではないヘラクレスは、逃げ足の速いこの鹿のことを捕まえることができずに、一年にわたって鹿の後を追い続けていくことになり、
ついに、この鹿が疲れ果てて、女神アルテミスの名が冠されたアルテミシオンと呼ばれる山へと逃げ込み、そこからラドンの河を渡ろうとして脚を止めた時、
薄めたヒュドラの血を塗った矢で射てかすり傷を与えることによって、その血が持つ毒の効力によって体が麻痺して動きが鈍ったケリュネイアの鹿を生け捕りにすることになるのです。
そして、その次に、
第四の功業としてヘラクレスは、ペロポネソス半島の中央部にあたるアルカディアの北端に位置するエリュマントス山に棲む大イノシシを生け捕りにして連れて来るように命じられることになります。
エリュマントスの猪は、山の中で旅人を襲うだけではなく、ときおり山を下りてきては山のふもとにあったプソピスの町を荒らしまわって隣の町の人々を苦しめていた凶暴なイノシシだったのですが、
ヘラクレスは、大イノシシが住むエリュマントス山と向かう道の途中で半人半馬の姿をしたケンタウロスの一族であったポロスから歓待を受けることになり、
その酒宴の席でケンタウロスの酒甕を勝手に開けてしまったことで争いとなったヘラクレスは、その後、彼が誤って放ってしまったヒュドラの血がたっぷりと塗られた猛毒の一矢によって、ケンタウロスの賢者ケイロンとポロスの命を奪ってしまうことになり、
自分の酒癖の悪さが原因となって賢者ケイロンとポロスという二人の良きケンタウロスの命までも奪うことになってしまったことを深く恥じたヘラクレスは、彼らのために墓を建てて手厚く弔ったのちに、
雪の深い山奥へとイノシシを追い込み、予め仕掛けておいた罠にかけて捕らえることによってエリュマントスの猪を生け捕りにすることになるのです。
そして、その次に、
第五の功業としてヘラクレスは、ペロポネソス半島の西部に位置するエリスの地を治める王であったアウゲイアスが所有する巨大な家畜小屋の掃除を命じられることになります。
アウゲイアスの家畜小屋の中には、3000頭の家畜たちがひしめいていて、この小屋は、30年間にわたって一度も掃除がされずに荒れ放題になっていたのですが、
ヘラクレスは、彼が持つ怪力を用いて、この家畜小屋の近くを流れるアルペイオスとペーネイオスと呼ばれる二つの川の流れをねじ曲げてしまい、
川を流れる水の力を利用して、家畜小屋にたまっていた汚れを一気に洗い流してしまうことによって、この難題を見事に解決してしまうことになるのです。
そして、その次に、
第六の功業としてヘラクレスは、ペロポネソス半島の北部に位置するステュムパロスの深い森の中にあるステュムパリスと呼ばれる湖の周りに棲む鳥退治を命じられることになります。
ステュムパロスの鳥は、かつては狩りの女神であるアルテミスのもとに仕え、のちに戦の神アレスによって軍事用に育てられることになったともされている青銅の翼と嘴を持つ人食い鳥であり、
この湖の近くの町に住む人々は、こうしたステュムパロスの怪鳥が放つ青銅の羽によって傷つけられ、鳥たちが上空から落としていく毒性の排泄物によって田畑が毒されるといった被害に苦しめられていたのですが、
ヘラクレスは、この鳥を足場の悪い湿地帯となっていった森の中から追い出すために、鍛冶屋の神であるヘーパイストスが彼の工房に仕える一つ目の巨人であったキュクロプスたちを目覚めさせるために使っていたともされる青銅のガラガラを打ち鳴らし、
その大きな音響に耐えかねた鳥たちが森の外へと飛び立っていったところをヒュドラの猛毒を塗り込んだ毒矢を射かけて撃ち落としていくことによってこの怪鳥を退治することになるのです。
そして、その次に、
第七の功業としてヘラクレスは、エーゲ海の南に位置するギリシア最大の島であったクレタ島に放たれていた美しくも凶暴な姿をした牡牛を生け捕りにして連れて来るように命じられることになります。
クレタの牡牛は、かつてフェニキアの王女であったエウロパに恋をしたゼウスが姿を変えたとされる聖なる牛の末裔にあたる牡牛であるとも、
海の神ポセイドンからクレタの王の座へとつこうとしたミノスへと授けられたものの、彼がポセイドンとの約束を破ってこの牡牛を犠牲として捧げることを拒んだために牛頭人身の怪物であるミノタウロスが生まれる元凶となった牡牛であるともされていて、
こうしたゼウスやポセイドンといった神々に縁のある聖なる牡牛に手を出すことによって、再び神々からの怒りをかうことになることを恐れたミノス王は、ヘラクレスに対して、
どうしてもこの牡牛のことを捕らえたいのならば、牡牛の体を決して傷つけることがないように注意したうえで、自分一人で捕まえるように求めることになるのですが、
ヘラクレスは、こうしたミノス王の要請に従って、この凶暴な牡牛と素手で格闘した末に、彼が持つ神々にも勝る怪力によってクレタの牡牛を捕らえることになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの十二の功業とは?②遠い異国と世界の果ての伝説の島そして冥界をめぐる五つの功業の概要と旅の終わり
前回記事:ヘラクレスの名前の由来とは?古代ギリシア語において「女神ヘラの栄光」のことを意味する語源的な意味とギリシア神話の記述
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「ヘラクレスの十二の功業」についての記事の一覧
①ヘラクレスの第一の功業とネメアの獅子との三日三晩にわたる死闘、ヘラクレスの十二の功業①
②ヘラクレスの第二の功業とレルネーのヒュドラとの九つの頭と一つの不死の頭をめぐる戦い、ヘラクレスの十二の功業②
③ヘラクレスの第三の功業とケリュネイアの鹿の生け捕りの際にかわされた女神アルテミスとの問答、ヘラクレスの十二の功業③
④ヘラクレスの第四の功業とエリュマントスの猪の生け捕りの際に起きたケンタウロス族との争い、ヘラクレスの十二の功業④
⑤ヘラクレスの第五の功業とアウゲイアスの家畜小屋の掃除での川の水の力を利用した大胆な掃除方法、ヘラクレスの十二の功業⑤
⑥ヘラクレスの第六の功業とステュムパロスの鳥退治で用いられた巨人の眠りを覚ます青銅のガラガラ、ヘラクレスの十二の功業⑥
⑦ヘラクレスの第七の功業におけるクレタの牡牛との格闘とマラトンの地へと流れ着く聖なる牡牛、ヘラクレスの十二の功業⑦
⑧ヘラクレスの第八の功業におけるディオメデスの人喰い馬の強奪とヘラクレスの友人アブデロスの死、ヘラクレスの十二の功業⑧
⑨ヘラクレスの第九の功業におけるアマゾンの腰帯の強奪と女王ヒッポリュテの悲劇、ヘラクレスの十二の功業⑨
⑩ヘラクレスの第十の功業とゲリュオネスの紅の牛を求めて伝説の島エリュテイアへと向かう冒険の旅、ヘラクレスの十二の功業⑩
⑪ヘラクレスの第十一の功業とヘスペリデスの黄金の林檎を求めて向かう極北の光の地への旅、ヘラクレスの十二の功業⑪
⑫ヘラクレスの第十二の功業における地獄の番犬ケルベロスとの戦いと冥界で現れたメドゥーサの幻影、ヘラクレスの十二の功業⑫