ヘラクレスの第一の功業とネメアの獅子との三日三晩にわたる死闘、ヘラクレスの十二の功業①
前回書いたように、女神ヘラに狂気を吹き込まれることによって自らの手で最愛の息子の命を奪ってしまったことにより、失意のうちに放浪の旅へと赴いていくことになったヘラクレスは、
その後、デルポイのアポロン神殿で授けられた神託の言葉の通りに、テーバイの南に位置するティリンスへと赴き、
この地を治めるミケーネの王であったエウリュステウスのもとに仕えることになり、彼が命じるままに、のちにヘラクレスの十二の功業と呼ばれることになる難行を成し遂げる旅へと赴いていくことになります。
第一の功業であるネメアの獅子退治へと向かう英雄ヘラクレスの旅
かつて、
ヘラクレスのことを貶めるために、彼のライバルであるエウリュステウスを庇護して彼のことをミケーネの王座へとつけた女神ヘラの嫉妬深さにならうかのように狡猾で執念深い性格をしていたエウリュステウス王は、
自分のもとに仕えるためにやってきたヘラクレスを手酷くこき使ってやろうと考えて、彼に対して与える第一の難行として、ネメアの獅子の皮を自分のもとへと献上するように命じることになります。
ネメアの獅子と呼ばれるライオンは、大地の女神ガイアと暗黒と深淵を司るタルタロスとの間に生まれた怪物の王にあたるテュポーンを父とする猛獣であり、
この猛獣がミケーネの北に位置する古代都市であったネメアの谷に住み着いていたため、こうした呼び名が与えられることになったと考えられることになるのですが、
狡猾で卑劣な王であったエウリュステウスは、ヘラクレスが、こうしたネメアの獅子と呼ばれる獰猛な獣との戦いにおいて、猛獣に恐れをなして逃げ帰ってしまえば彼のことを笑い物にして辱めることができるし、
勇敢にも戦いを挑んで、獣に噛み殺されて命を失ってしまえば、自分の地位を脅かすことになるライバルが一人減ることになるのでなおのこと良いと考えて、
こうしたネメアの獅子退治の難行をヘラクレスに命じることになったと考えられることになるのです。
ネメアの獅子とヘラクレスの三日三晩にわたる死闘と獅子の毛皮でつくられた堅固な鎧
そして、
獅子退治の準備のために、ネメアの谷にほど近いクレオナイの町を訪れていたヘラクレスは、この地で獅子に襲われる被害に遭って苦しんでいる町の人々に対して、
三十日ののちに、もしも幸運にも自分がこの獅子を討ち取ることができたとするならば、その時にはその獅子の肉をゼウスへの供物として祭壇に捧げ、
もしも不幸にも自分がこの獅子に敗れて命を落とすことになったとするならば、その時には死者となったヘラクレスのことをゼウスへの供物として祭壇に捧げるように言い残して、ネメアの獅子との戦いに赴いていくことになります。
そして、
ネメアの谷において獅子の姿を見つけたヘラクレスは、ますはその体を弓矢で射抜くことによって獲物を仕留めようと試みるのですが、
強靭な毛皮によって覆われた鋼のような肉体を持つ獅子の体は、ヘラクレスが渾身の力を込めて放った矢の一撃によっても傷一つ付けることができなかったため、
それに続いて、ヘラクレスは、
こん棒によって獅子を追い立てて、前と後ろに二つの入り口がある洞窟へとこの猛獣を追い込んでいくことにします。
そして、
洞窟の中へと入っていく獅子の姿を見たヘラクレスは、その入り口の一方を大岩で塞いでしまうことによって退路を断つと、自分はもう一方の入り口から獅子が潜む洞窟の奥へと進んで行き、
その後、暗い洞窟の中で、ヘラクレスとネメアの獅子は、三日三晩にわたって死闘を繰り広げていくことになります。
そして、
こうした三日三晩にわたって続いたヘラクレスとネメアの獅子との格闘においては、力の強さにおいては互いに優劣がつかなかったものの、
四つ足の獣とは違って両手の自由が利くヘラクレスは、獅子の首に腕を巻きつけてしがみつくと、そのままこの猛獣の首を力いっぱい締め上げて窒息させることによって、ついに三日目の夕方に獅子は力尽きてしまうことになります。
そして、その後、
自分が仕留めた獲物を肩に担いでクレオナイの町へと帰還したヘラクレスは、この地で獅子の肉をゼウスへの供物として祭壇に捧げたうえで、その毛皮を王のもとへと献上するためにミケーネの地へと戻っていくことになるのですが、
怪物の王であるテュポーンから生まれた不死身の猛獣であるネメアの獅子をも軽々と打ち倒してしまうヘラクレスの姿に恐れをなしたエウリュステウス王は、
ヘラクレスに対して、猛獣の血を浴びた汚らわしい体で自分が住むミケーネの都の内へと入ることを固く禁じたうえで、都へと入る門の前で獲物を示したうえで、すぐにこの地から立ち去るように命じることになります。
そして、その後、
エウリュステウス王の命令に従って、ネメアの獅子を退治するという第一の功業を成し遂げることになった英雄ヘラクレスは、
こうしたテーバイの都を離れてから成し遂げた自らの最初の偉業を記念するために、自分が仕留めたネメアの獅子の毛皮を頭からかぶって鎧として用いていくことになり、
いかなる射手や狩人でも弓矢で射抜くことができず、あらゆる武器による攻撃を弾き返すことができるという強靭な獅子の毛皮でできた堅固な鎧という新たな武具を手にすることになったとも語り伝えられているのです。
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次回記事:ヘラクレスの第二の功業とレルネーのヒュドラとの九つの頭と一つの不死の頭をめぐる戦い、ヘラクレスの十二の功業②
前回記事:テーバイを追放されたヘラクレスの放浪の旅とデルポイで与えられた二つの神託の言葉、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑧
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