『ファウスト』における「永遠なる女性」とユングのグレートマザー、『ファウスト』における「永遠なる女性」とは何か?②

前回書いたように、ゲーテファウスト』の終幕の場面で歌われる神秘の合唱の中で語られる永遠なる女性という言葉は、直接的には、

ファウストの最愛の人グレートヘンや、ギリシア神話の美女ヘレネ、そして、聖母マリアといった女性たちに象徴される永遠なる愛の力のことを意味していると考えられます。

そして、こうした『ファウスト』において提示されている「永遠なる女性」という概念は、それをより抽象的な概念として解釈することが可能であるとするならば、

それは、ユングの心理学の中の元型の一つであるグレートマザーにも近い概念として解釈することも可能であると考えられることになります。

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ユングの心理学におけるグレートマザーの正と負の二面性

ユングの心理学において、元型archetypeアーキタイプ)とは、人類全体に共通する普遍的な無意識の深層に存在する根源的なイメージのことを指す概念であり、

グレートマザーは、そうした人類全体の意識に共通する根源的イメージである元型のなかでも、最も典型的な元型の一つとして挙げられる概念ということになります。

グレートマザーGreat Mother太母)とは、その名が示す通り、普遍的な存在としての「偉大なる母」「母なるもの」といった存在のことを指す概念であり、

それは、現実の世界における個別の母親や女性といった個々の具体的な存在を超えた根源に存在する普遍的で永遠的な母性のイメージとして捉えられることになります。

そして、

こうした普遍的で根源的な母性のイメージを象徴するグレートマザーは、

そこからすべての存在が生み出されると共に、すべてのものを優しく包み込み、守り育て、救済するという無限の生命力永遠の愛の力を持った存在として捉えられることになるのですが、

それと同時に、

この元型は、すべてのものを飲み込み、自らの内に抑えつけることによって破滅させてしまうという負の側面も持った存在としても捉えられることになります。

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ファウストにおける「永遠なる女性」とユングのグレートマザー

それでは、ファウストにおける「永遠なる女性」は、こうしたユングにおけるグレートマザーという元型とどのような点で共通する概念であると考えられるのか?ということについてですが、

『ファウスト』の文中において、「永遠なる女性」(Das Ewig-Weiblicheダス・エーヴィヒ・ヴァイプリヒェ)という言葉は、

ファウストの魂を悪魔の手から守り、その魂を自らの内に包み込むようにして、天上の世界へと引き上げ救済していく力の象徴として語られているので、

それは、すべての存在を自らの内に包み込み永遠なる安らぎと救済を与える聖母のような存在としてのグレートマザーに共通するイメージとして捉えられることになります。

つまり、

ゲーテの『ファウスト』における「永遠なる女性」のイメージは、ユング心理学におけるグレートマザー正の側面が強調された存在に通底するイメージとして捉えることができると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

ゲーテの『ファウスト』における「永遠なる女性」のイメージには、

ユングの心理学において、人類全体の意識の根源に存在する「普遍的で永遠的な母なるもの」を象徴する概念であるグレートマザーに共通するイメージが含まれていると解釈できることになります。

そして、

ユングの心理学における元型としてのグレートマザーには、すべての存在を優しく包み込み安らぎと救済を与える聖母のような正の側面と同時に、

すべての存在を自らの内に飲み込み、底知れぬ深みへと引き込むことによって破滅させてしまうという果てしない暗黒の深淵を連想させるような負の側面も存在すると考えられるのですが、

ゲーテの『ファウスト』においては、そうした全人類の意識の根底にある元型としてのグレートマザーの正の側面が強調される形で描かれていると考えられることになるのです。

・・・

前回記事:グレートヘン、へレネ、聖母マリアという三人の永遠なる女性、『ファウスト』における「永遠なる女性」とは何か?①

関連記事:「過ぎ去るものは映像に過ぎず」ファウスト終幕の神秘の合唱の全文和訳と対訳とドイツ語の発音、『ファウスト』の和訳と解釈⑰

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