自由・平等・博愛と友愛とではどちらが正しい訳なのか?フランス語のフラテルニテとラテン語のフラテルニタスが示す愛のあり方
フランスの国家としての標語としては、一般的には、自由(Liberté、リベルテ)・平等(Égalité、エガリテ)・友愛(Fraternité、フラテルニテ)という三つの概念が並べて語られることになります。
そして、
こうした三つの概念の内の最後にあたるFraternité (フラテルニテ)については、日本語では「友愛」ではなく「博愛」と訳され、
自由・平等・博愛という三つの概念が並んだフレーズとして表現されることもありますが、
このように、日本語においては「友愛」とも「博愛」とも訳されるケースのあるフラテルニテ(Fraternité)とは具体的にどのような愛の形のことを意味する概念であり、
自由・平等・博愛と自由・平等・友愛とではどちらがより正しい訳し方であると考えられるのでしょうか?
フランス語のフラテルニテとラテン語のフラテルニタスにおける兄弟愛と友愛の概念
そもそもフランス語のFraternité(フラテルニテ)という単語は、もともとはラテン語のfraternitas(フラテルニタス)に由来する概念ということになりますが、
fraternitas(フラテルニタス)は、ラテン語で「兄弟」を意味するfrater(フラテル)という単語から派生してできた言葉であり、
フラテルニタスは、兄弟や姉妹の間に働く強い信頼の絆や、深い親愛の情のことを表す愛の概念であると考えられることになります。
したがって、
厳密には、ラテン語のフラテルニタスもそこから派生したフランス語のフラテルニテも、もともとは兄弟愛や姉妹愛のことを表す言葉であったと考えられるのですが、
こうした兄弟の間で働く愛のあり方は、親友との間で働く深い信頼や絆のあり方と極めて近い愛のあり方をしているといえるので、それが友愛のことを意味する愛の概念として用いられるようになっていったと考えられることになるのです。
フラテルニテと「博愛」との関係とは?
それでは、こうした兄弟愛や友愛のことを意味するフランス語のフラテルニテやラテン語のフラテルニタスといった愛の概念が、日本語における「博愛」の概念とどのような関係にあるのか?ということについてですが、
「博愛」とは、すなわち、すべての人々を平等に愛する普遍的で無条件な愛のあり方のことを示す概念なので、
それは直接的には、ギリシア語やラテン語におけるアガペー(agape)という愛のあり方に通じる概念であると考えられることになります。
そして、
アガペーとは、一言で言うと、神から人間へと向けられる無限なる無償の愛、すなわち、すべての人々へと平等に向けられ、遍く広がる普遍的で無差別的な愛のあり方ということになるので、
こうした普遍的で無差別的な愛である博愛やアガペーと、兄弟や親友といった限定された近しい間柄でのみ働く愛の形であるフラテルニテとは、一見すると全く異なる愛のあり方を示していると考えられることになるのです。
しかし、その一方で、
ラテン語のフラテルニタス(fraternitas)という概念は、中世のキリスト教世界においては、信徒が兄弟のように互いに信頼を深めて結束することによって形成される信心会のことを意味する言葉としても使われるようになっていきます。
そして、
こうしたキリスト教精神に基づく信心会としてのフラテルニタスにおいては、友愛に基づく互助精神と共に、
隣人愛からさらに博愛やアガペーといった愛のあり方の実践をも目指して、周囲のあらゆる人々へと分け隔てなく向けられる救済精神や慈善活動へとその活動の範囲が大きく広がっていくことになるのです。
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以上のように、
フランス語のフラテルニテや、この言葉の語源となったラテン語のフラテルニタスと呼ばれる愛の概念は、もともとは兄弟愛や姉妹愛のことを意味する概念であり、
それは、日本語における愛の言葉としては、「博愛」よりも「友愛」の方により近い概念ということになります。
したがって、
フランスの国家としての標語である、Liberté(リベルテ)・Égalité(エガリテ)・Fraternité(フラテルニテ)という三つの言葉についても、
その最後にあたるフラテルニテは、直接的には「博愛」ではなく「友愛」と訳す方がより適切で正しい訳し方であると考えられることになります。
しかし、その一方で、
ラテン語のフラテルニタスという概念は、キリスト教における信心会のことを意味する言葉としては、信徒同士の互助組織であると同時に、すべての人々に対して平等に向けられる救済精神や慈善活動といった隣人愛やアガペーの精神へも通じていくことになるので、
そういった意味においては、
ラテン語のフラテルニタス、そしてそこから派生したフランス語のフラテルニテという概念は、兄弟愛や友愛という愛の形から、博愛やアガペーといったより普遍的な愛のあり方へと発展していく広がりをもった愛の概念であると解釈することもできるのです。
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