テュポーンとは何か?ギリシア神話におけるゼウスとの壮絶な戦いとアダマスの鎌とシチリア島のエトナ火山
前回の記事で書いたように、ギリシア神話の物語のなかでは、ゼウスを盟主とするオリュンポスの神々による天界と地上の世界における支配権の確立は、
ティタノマキアとギガントマキアと呼ばれる二回にわたる神々の戦いによって進められていくことになっていったと考えられることになるのですが、
そうしたギガントマキアと呼ばれる神々の戦いにおいて、自分の息子たちであったギガースと呼ばれる巨人たちをすべて打ち倒されてゼウスが率いるオリュンポスの神々の前に敗れてしまうことになった大地の女神ガイアは、
最後に、
彼女に残されたすべての力をふりしぼることによって、ギリシア神話に登場する最大最強の怪物として知られているテュポーンと呼ばれる神にもまさる力を持った怪物を生み出していくことになります。
ギリシア神話における怪物の王としてのテュポーンの姿
テュポーン(Typhon)とは、大地の女神ガイアと冥界よりもさらに地下深くに存在する暗黒や深淵とも呼ばれるタルタロスとの間に生まれた怪物の王としても位置づけられる存在であり、
こうしたテュポーンと呼ばれる神にも並ぶ強大な力を持った怪物は、冥界の番犬であるケルベロスや、ヒュドラやキマイラといった闇の怪物たち、
さらには、エジプトにある巨大な石像の姿で有名なスフィンクスや、その目を見た者を石に変えてしまうメデューサの一族として有名なゴルゴンといった数多くの怪物たちの父となった存在としても位置づけられていくことになります。
そして、ギリシア神話の物語においては、
こうしたテュポーンと呼ばれる怪物の姿は、その巨大な体は地上に存在するすべての山々よりもさらに高くそびえ、その頭は天空をめぐる星々の高さにまで達していて、
上半身は人間の姿のようでもありながら、その肩からは百匹の竜の頭が伸びていて、その下には巨大な毒蛇のような姿をした足がとぐろを巻いており、
全身には羽が生えていて、目からは火を放ち、口からも炎を吐き出しながら、巨大な両腕によって燃え上がる大岩を投げつけて叫び声を上げて天空へと突進していくという恐ろしい異形の姿をした怪物として描かれていくことになるのです。
ゼウスとテュポーンの壮絶な戦いとアダマスの鎌とシチリア島のエトナ火山
そして、その後のギリシア神話の物語においては、
こうしたテュポーンと呼ばれる大地の女神ガイアが生み出した最後にして最強の怪物と、オリュンポスの神々の盟主であるゼウスとの戦いの場面が描かれていくことになるのですが、
そうしたギリシア神話の主神ゼウスとテュポーンとの戦いの物語においては、
ゼウスは、自らが司る雷霆の力と、かつて、大地を司る女神ガイア自身が自らの息子であるクロノスに自分の父であるウラノスを打ち倒すために授けたとされる太古の時代の伝説の武器であるとも、
そうした大地の女神ガイアから生まれた一つ目の巨人であるキュクロプスによって世界で最も硬いとされている伝説上の金属から鋳造されたとも言われているギリシア神話における最強の武器であるアダマスの鎌を用いることによって、
テュポーンに大きな手傷を負わせて、この怪物を現在の中東のシリアの辺りにそびえるカシオスの山にまで追いつめていくことになるのですが、
その力においてゼウスを大きく凌駕していたテュポーンは、この地でゼウスが持つ最強の武器であるアダマスの鎌を彼の手から奪い取ると、その金剛の鎌によって、ゼウスの四本の手足の健をすべて断ち切ってしまうという瀕死の重傷を負わせてしまうことになります。
しかし、
自分の息子たちであったヘルメスとアイギパーンによって助けられ、彼らがテュポーンのもとから盗み出した自分の手足の健をもとの場所に取り付けてもらうことによって神としての自らの力を取り戻したゼウスは、
その後、
法を司る女神であるテミスとの間に生まれた自分の娘たちであったクロートーとラケシスとアトロポスと呼ばれる運命の女神たちの力を借りて、
「山頂に生えている特別な力を持つ木の果実を食べることによってお前はさらに強くなるであろう」という偽りの予言の言葉を彼女たちに語らせることによって、
テュポーンを欺いて、彼が地上に生えている木の果実を食べるように仕向けていくことになります。
そして、
こうしたゼウスと彼のもとに仕える運命の女神たちの計略にかかって、地上の食べ物を口にしてしまうことによって、テュポーンは自分に与えられた不死なる力を一時的に失ってしまうことになり、
こうして自らが持つ神々にも並ぶ不死なる力を失ってしまったテュポーンは、再びゼウスが放つ雷霆によって打たれて倒れ、大量の血を流しながら、それでも最後の力をふりしぼって、地中海を渡って東へと逃げのびていくことになるのですが、
現在のイタリアのシチリア島の辺りにまで逃げのびたのち、追いつめられたテュポーンは、ゼウスが放つ雷撃と共に投げられたエトナ山によって踏みつぶされ、ついにこの地で力尽きてしまうことになるのです。
ちなみに、
こうしたテュポーンが最後に力尽きた地として知られているエトナ山は、ギリシア神話を生み出した古代ギリシア人たちが生きていた古代の時代から幾度にもわたって大噴火を繰り返してきたヨーロッパ最大の活火山としても位置づけられることになるのですが、
ギリシア神話においては、
こうしたヨーロッパ最大の活火山でもあるエトナ山では、ゼウスが最後に放った雷撃のために、今でも火口から炎が噴き上がっているとも、
エトナ山によって踏みつぶされたテュポーンが今でもときおり地下で暴れているために、噴火が引き起こされていくことになるとも語り伝えられていると考えられることになるのです。
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次回記事:ヨハネの黙示録の獣とギリシア神話の怪物テュポーンの関係とは?聖書と神話に共通する普遍的な元型的イメージ
前回記事:ギガントマキアにおけるオリュンポスの神々とガイアが生んだ十二体のギガースたちの戦いと半神半人の英雄ヘラクレス
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