ヘラクレスの第九の功業におけるアマゾンの腰帯の強奪と女王ヒッポリュテの悲劇、ヘラクレスの十二の功業⑨
前回書いたように、ミケーネの王であったエウリュステウスの命令によって、第八の功業にあたるディオメデスの人喰い馬の強奪のためにエーゲ海を渡る船旅へと赴いていった英雄ヘラクレスは、
ギリシアの北東に位置するトラキア地方に住んでいたビストーン族の王であったディオメデスとの戦いの末に人喰い馬を奪い取ってミケーネの地へと帰還することになり、
その際、この戦いのさなかに死んだヘラクレスの友人であったアブデロスのために、彼が死んだトラキアの地に墓を建て、その名を永遠にとどめるために、この地に彼の名が冠されたアブデラと呼ばれる都市を建設することになります。
第九の功業であるアマゾンの女王の腰帯の強奪へと赴く英雄ヘラクレス
そして、その次に、
ミケーネの王であったエウリュステウスは、ヘラクレスに対して与える第九の難行として、今度はアマゾンの女王の腰帯を奪って持ってくるように命じることになります。
ここで語られているアマゾンとは、ギリシア神話において登場する伝説的な女戦士の部族のことを意味していて、
ギリシア神話における戦の神であったアレスと、森のニンフであったハルモニアを祖先とする馬や弓矢などの武器の扱いに長けた戦闘民族であったとされている彼女たちは、
左の乳房は子供に乳を与えるために残しておいたものの、右の乳房は弓矢を射る際に邪魔になるため削ぎ取っていたと語り伝えられているほどに、戦いにその身を捧げた女たちであったと考えられることになります。
そして、
こうしたアマゾンたちの女王であったヒッポリュテは、彼女が率いるすべての女戦士たちの統領である証として、アレスから授かったとされている美しい腰帯を身につけていたとされているのですが、
エウリュステウスの娘であったアドメーテーがこうしたアマゾンの女王が持つとされている美しい腰帯を欲しがったため、この腰帯を異国の女王であるヒッポリュテから奪い取ってギリシアの地へと取り戻すためにヘラクレスが遣わされることになったと考えられることになるのです。
アマゾンの女王ヒッポリュテの悲劇と奪い取られたアレスの腰帯
アマゾンたちはギリシア神話における記述によれば、ギリシアの地から遠く離れたトラキア地方よりもさらに東方の現在のトルコが位置する小アジアの黒海周辺の地域などに居住していたとされているのですが、
長い船旅の末に、そうした黒海の近くのアマゾンたちが暮らす奥地まで分け入って行ったヘラクレスの一行は、この地でアマゾンの女王であったヒッポリュテと出会うことになります。
そして、
ゼウスの血を引く英雄ヘラクレスの勇ましい姿を目にして感銘を受けた女王ヒッポリュテは、彼らのことを歓待して、
一説にはヘラクレスが彼女との間に子供をもうけることを条件として、アレスの腰帯を引き渡すことにまで同意することになるのですが、
この様子を見ていた女神ヘラは、ヘラクレスの邪魔をするために、アマゾンの女たちに、やって来た異邦人たちは女王をギリシアへとさらってしまおうとしているという偽りの密告をすることによって、
女王を奪われたと思って怒り狂うアマゾンの女戦士たちは、武装して馬にまたがると、そのままヘラクレスたちが停泊していた船のもとへと大挙して殺到していくことになります。
そして、
油断していたところをアマゾンたちに急に襲われることになったヘラクレスたちは、これをアマゾンたちによる卑怯な謀り事であると考えて応戦したため、
そうした戦いのさなか、ヘラクレスはアマゾンの女王であったヒッポリュテを殺して彼女からアレスの腰帯を奪うと、アマゾンたちの追撃をかわしながらそのまま急いで船へと乗り込んで出港することになります。
そして、
こうして女神ヘラの計略によって生じることになった行き違いからアマゾンの女王の腰帯を当初の計画通りに力づくで奪い取ることになってしまったヘラクレスは、
アマゾンの女王であったヒッポリュテの本当の思いは彼に伝わることのないまま、その後、途中でトロイアへと寄港したのちに、エウリュステウス王の待つミケーネの地へと帰っていくことになるのです。
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