ヘラクレスの第十の功業とゲリュオネスの紅の牛を求めて伝説の島エリュテイアへと向かう冒険の旅、ヘラクレスの十二の功業⑩
前回書いたように、ミケーネの王であったエウリュステウスの命令によって、第九の功業にあたるアマゾンの女王の腰帯を手に入れるための長い船旅の末に、黒海の近くのアマゾンたちが暮らす奥地まで分け入って行った英雄ヘラクレスは、
この地で女神ヘラの計略によって生じることになった行き違いからアマゾンの女戦士たちとの間で戦いとなり、不本意ながらアマゾンの女王であったヒッポリュテから力づくで奪い取ることによって、もともとはギリシア神話における戦の神アレスのものであったとされているアマゾンの女王の腰帯をミケーネの地へと持ち帰ることになります。
第十の功業であるゲリュオネスの紅の牛を求めて伝説の島エリュテイアへと向かう英雄ヘラクレス
そして、その次に、
ミケーネの王であったエウリュステウスは、ヘラクレスに対して与える十番目の難行として、今度はゲリュオネスの紅の牛を連れてくるように命じることになります。
ギリシア神話に基づく古代ギリシアの伝説によれば、
地中海をギリシアからイタリア、北アフリカのリビアへと進み、タルテッソスと呼ばれる現在のスペイン南部のアンダルシア地方を越えていった先のさらに西の果てには、
世界を取り巻く伝説上の巨大な大河であったオケアノスの近くに浮かぶエリュテイアと呼ばれる島があると考えられていました。
そして、この島には、
ゲリュオネスあるいはゲリュオンと呼ばれる異形の姿をした怪物が住んでいて、その怪物が持っていたとされる世にも珍しい紅色をした美しい牛を手に入れたいとエウリュステウス王が強く求めたため、そうした王の要請に応じて、
ヘラクレスは、ヨーロッパ全土を横切り、オケアノスの大河を越えた西の彼方の最果ての地にある伝説の島エリュテイアへと向かう大冒険の旅へと赴いていくことになったと考えられることになるのです。
アトラス山を割ってできたジブラルタル海峡とヘラクレスの柱の建設
そして、
こうしてゲリュオネスの紅の牛を探し求める大冒険の旅へと赴いていくことになったヘラクレスは、ヨーロッパ大陸を陸路と海路を交えてどんどん西へと進んでいくことになるのですが、
彼が現在のスペイン南部のアンダルシア地方にあたるタルテッソスの地まで来た時、ギリシア神話においては、当時はまだアフリカ大陸とヨーロッパ大陸をつなぐようにそびえ立っていたとされているアトラス山が行く手を遮ることになったため、
ヘラクレスは、自らが持つ怪力によってアトラス山を二つに打ち砕いてしまうことになるのですが、それによって大西洋と地中海とをつなぐジブラルタル海峡が生まれることになったとされることになります。
そして、
ヘラクレスはこのことを記念して、海峡の両側に分かれた二つの山の頂に、海峡をはさんで互いに向かい合う二つの柱を建てたと伝えられていて、
のちに、こうしたジブラルタル海峡をはさんでヨーロッパ側とアフリカ側のそれぞれにある二つの岩は、ひとまとめにしてヘラクレスの柱と呼ぶようになっていったと考えられることになるのです。
太陽神ヘリオスが与えた黄金の杯に乗ってオケアノスを越えるヘラクレス
そして、その後、
ヘラクレスは、旅の最中に、太陽に長く照らされ続けていることを不快に感じて、太陽の向こう側にいるヘリオスに向かって弓をひき絞って矢を放つことになるのですが、
この時、太陽神ヘリオスは、彼の神をも恐れぬ剛気の強さに驚嘆して、彼がこれからどこまで行くのかその旅の向かう先を見てみたいとかえって興味を持ち、ヘラクレスに自分が持っていた黄金の杯を与えることになります。
そして、
ヘラクレスは、こうしてヘリオスによって与えられた黄金の船に乗ってオケアノスの大河を越えていくことによって、紅の牛がいる伝説の島エリュテイアへとたどり着くことになるのです。
双頭犬オルトスと三つの頭と六本の腕と足を持つ怪物ゲリュオネス
そして、その後、
エリュテイアへとたどり着いたヘラクレスは、この地で紅の牛を守っている双頭の犬であったオルトスあるいはオルトロスと呼ばれる番犬を打ち倒し、
牛が奪われたことを知って追い駆けて来た三つの頭と六本の腕と足を持つ怪物であるゲリュオネスとも戦ってこれを打ち倒すことによって、再びオケアノスを越えてヘラクレスの柱を建てたタルテッソスの地にまで戻っていく帰路へとつくことになり、
その後、
ヘラクレスのことを邪魔しようとする女神ヘラによって放たれた虻(あぶ)に驚いた牛たちが散り散りバラバラになってしまったため、牛たちのことを再び探し回って呼び集めるといった度重なる困難に遭いながらも、
何とかエウリュテウス王の待つミケーネの地まで無事にたどり着くことになります。
そして、
ヘラクレスからゲリュオネスの紅の牛を受け取ったエウリュテウスは、この牛を、ヘラクレスの邪魔立てするために彼のライバルである自分に対しては協力的な態度をとって手助けをしてくれている女神ヘラへの犠牲として捧げることになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの第十一の功業とヘスペリデスの黄金の林檎を求めて向かう極北の光の地への旅、ヘラクレスの十二の功業⑪
前回記事:ヘラクレスの第九の功業におけるアマゾンの腰帯の強奪と女王ヒッポリュテの悲劇、ヘラクレスの十二の功業⑨
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