ヘラクレスの第十一の功業とヘスペリデスの黄金の林檎を求めて向かう極北の光の地への旅、ヘラクレスの十二の功業⑪
前回書いたように、ミケーネの王であったエウリュステウスの命令によって、第十の功業にあたるゲリュオネスの紅の牛を手に入れるための長い冒険の旅へと赴いていくことになった英雄ヘラクレスは、
ヨーロッパ大陸を西へと進み、ジブラルタル海峡を越えて、さらにその先のオケアノスと呼ばれる世界を取り巻く伝説上の巨大な大河をも越えた先の西の最果ての地にあるとされているエリュテイアと呼ばれる幻の島へとたどり着き、
この島に住むゲリュオネスという名の異形の姿をした怪物との戦いの末に、彼らが飼っている紅の美しい牛を奪ってミケーネの地へと持ち帰ることになります。
十一番目の功業であるヘスペリデスの黄金の林檎を求めて北の果てのヒュペルボレイオスの地へと向かう英雄ヘラクレス
そして、その次に、
ミケーネの王であったエウリュステウスは、ヘラクレスに対して与える十一番目の難行として、ヘスペリデスの黄金の林檎を持ってくるように命じることになります。
ギリシア神話に基づく古代ギリシアの伝説によれば、
ヨーロッパとアジアとを隔てるユーラシア大陸の境界線の北側に位置するウラル山脈を越えてさらに遠く北の彼方へと進んでいった北の最果ての地にはヒュペルボレイオスと呼ばれる伝説上の民族が暮らしている土地があり、
光明神でもあるアポロンに捧げられたこの土地には夜や闇というものがなく、極北の地にあるにも関わらず一年中が春であるかのような温暖な気候の内に閉ざされているこの土地は幸福に満ちた光の地であると考えられていました。
そして、
こうしたヒュペルボレイオス人の地には、そこが光に満ちた至高の地であることの証として、ヘスペリデスと呼ばれる黄昏のニンフ(妖精)たちが守る黄金の実をつける林檎の木が生えていたと語り伝えられていたため、
そうしたヘスペリデスが守るとされる黄金の林檎の実を求めるエウリュステウス王の要請に応じて、ヘラクレスは極北の光の地であるヒュペルボレイオスの土地へと向かう冒険の旅へと赴いていくことになるのです。
海の老人ネレウスから黄金の林檎の木がある庭園の場所を聞き出すヘラクレス
そして、
こうしてヘスペリデスが守る黄金の林檎を求める旅へと赴いていくことになったヘラクレスは、まずはギリシアが位置するバルカン半島を北上していき、現在のクロアチアのあたりに位置するイリュリアの地にまでやって来ることになるのですが、
そもそも、こうしたヘスペリデスと呼ばれる黄昏のニンフたちがどこにいるのかということすら知らなかったヘラクレスは、
まずは、彼女たちが暮らすヘスペリデスの園の場所を知っているという海の老人ネレウスの居所を知っているとされている天空の神ゼウスと法の女神テミスとの間に生まれたニンフたちのもとを訪れることになります。
そして、
彼女たちからネレウスの居場所を聞いたヘラクレスは、変身の名人であったとされているネレウスのことを、彼が眠っている間に捕らえて縛りつけにしてしまい、
海の老人ネレウスから無理やり黄金の林檎の木が生えているというヘスペリデスの園の場所を聞き出すことによって、
いよいよ、そうした黄金の林檎の木が生える庭園がある極北の光の地であるヒュペルボレイオスの土地へと向かっていくことになるのです。
巨人アトラスと英雄ヘラクレスの天空と黄金の林檎をめぐる問答
そして、その後も数々の冒険を経て、
ついにヒュペルボレイオス人が暮らす極北の光の地へとたどり着いたヘラクレスは、すぐに目当ての黄金の林檎のなる木がある庭園を見つけだすことになるのですが、
黄金の林檎の木は、アイグレー、エリュテイア、ヘスペリアー、アレトゥーサという名の四人のヘスペリスたちによって常に見張られていただけではなく、
怪物の王であるテュポーンとエドキナの間に生まれた百の頭を持つ不死の竜によっても守られていて、
神々にも比肩する怪力を持つヘラクレスといえども、彼らのもとから林檎の実を力ずくで奪い取ることは、ほぼ不可能と言ってもいいほどの至難の業であったと考えられることになります。
そこで、ヘラクレスは、
そこからさらに西へと向かい、世界の西の果てで天空を双肩で支えるという罰を課せられていた巨人アトラスのもとをたずねて、
彼に、その長く大きな腕を伸ばして、ヘスペリスたちが守る黄金の木から林檎の実を一つもぎ取ってくるように頼むことにします。
そして、それに対して、アトラスは、
ヘラクレスが自分の代わりに天空を支える役目を担ってくれるというのならば、林檎の実をもぎ取ってきてもかまわないと答えることになるのですが、
この言葉を聞いたヘラクレスは、その条件を受け入れて、アトラスがヘスペリデスの黄金の林檎を取って戻ってくるまでの間、自らが持つ怪力によって天空を支え続けることになります。
そして、その後、
ヘスペリデスの園から三つの林檎を取ってヘラクレスのもとへと戻ってきた巨人アトラスは、このまま天空を支える役目をヘラクレスに押しつけて、自分は自由になりたいと考えて、ヘラクレスの代わりにミケーネまで林檎を持って行くと申し出ることになるのですが、
そうしたアトラスの意図に感づいたヘラクレスは、さらに長い間支え続けるためには、天空が乗った円盤をもっと持ち上げて自分の頭の上に乗せなくてはならないので、そうするまでの間だけ、アトラスにも天空を支えていて欲しいと訴えることになります。
そして、
そうしたヘラクレスの言葉に従ってアトラスが再び天空を自分の肩へと担いだ瞬間に、すっと体をかがめたヘラクレスは、そのまま天空を支える役目をすべてアトラスに押しつけてしまうと、アトラスが地上へと置いた林檎を持ってその場を立ち去ってしまうことになり、
こうしてヘスペリデスの黄金の林檎は、ヘラクレスと共に、エウリュテウス王の待つミケーネの地まで送り届けられることになったと考えられることになるのです。
・・・
次回記事:ヘラクレスの第十二の功業における地獄の番犬ケルベロスとの戦いと冥界で現れたメドゥーサの幻影、ヘラクレスの十二の功業⑫
前回記事:ヘラクレスの第十の功業とゲリュオネスの紅の牛を求めて伝説の島エリュテイアへと向かう冒険の旅、ヘラクレスの十二の功業⑩
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