ヘラクレスの第四の功業とエリュマントスの猪の生け捕りの際に起きたケンタウロス族との争い、ヘラクレスの十二の功業④
前回書いたように、ミケーネの王であったエウリュステウスの命令によって、第三の功業にあたるケリュネイアの鹿の生け捕りへと赴いていった英雄ヘラクレスは、
自分の庇護のもとにある聖なる鹿を弓矢で射止めたことを強く責め立てる女神アルテミスに対して正々堂々と弁明を行うことによって、そのままケリュネイアの鹿を連れて王のもとへと戻ることを許されることになります。
第四の功業であるエリュマントスの猪の生け捕りへと向かう英雄ヘラクレス
そして、その次に、
ミケーネの王であったエウリュステウスは、ヘラクレスに対して与える第四の難行として、エリュマントスの猪を生け捕りにするように命じることになります。
ペロポネソス半島の中央部にあたるアルカディアの地の北端に位置するエリュマントス山には凶暴な大イノシシが住んでいて、
この大イノシシは、ときおり山を下りてきては、山のふもとにあったプソピスの町を荒らしまわっていたため、
王の要請を受けたヘラクレスは、そうした山のふもとに住む近隣の町の人々を大イノシシによる被害から守るために、エリュマントス山へと向けてイノシシ退治に出発していくことになるのです。
ヘラクレスの酒癖の悪さが招いたケンタウロス族との争い
そして、ヘラクレスは、
大イノシシが住むエリュマントス山へと向かう道の途中で、半人半馬の姿をしたケンタウロスの一族の一人であったポロスと出会うことになるのですが、
ゼウスの血を引くヘラクレスの勇ましい姿を目にして感銘を受けたポロスは、彼のことを自分が住む洞穴へと招き入れ、ヘラクレスはこの地でポロスから歓待を受けることになります。
そして、
そうしたポロスからの歓待の宴のさなか、酒豪としても有名な英雄であったヘラクレスは、酒が飲みたくなって、洞穴の片隅に置かれていた酒が入った大甕へと手を伸ばすことになります。
しかし、
この大甕は、この洞穴の主であるポロスだけのものではなく、ケンタウロス族全体の共有物となっている部族にとって特別な酒甕であったため、ポロスはその甕を開けるのをやめるようにヘラクレスに求めることになるのですが、
美酒の香りに惹かれて我慢することができなくなったヘラクレスは、ポロスが制止するのも聞かずに、酒の誘惑に負けてそのまま大甕の蓋を開けてしまうことになります。
そして、
辺りに立ち込める酒の香りに気づいて集まってきた他のケンタウロスたちは、ヘラクレスが自分たちの酒甕を勝手に開けているのを目にしてしまうことになり、
この行為を一族に対する侮辱とみなしたケンタウロスたちは、ヘラクレスがいる洞穴の周りを取り囲むと、岩と樅の木を手に取ってヘラクレスに向かって襲いかかってくることになります。
そして、
こうしたケンタウロス族からの突然の襲撃に驚いたヘラクレスは、最初に洞穴の中に入ってきたアンキオスとアグリオスという名の二人のケンタウロスに向かって焚き火のなかにくべていた燃えた薪を投げつけて追い払うと、
そのまま弓矢を持って反撃へと打って出て、自分のもとへと襲いかかって来たケンタウロスたちに対して矢を射かけながら彼らのことを追い回していくことになるのです。
賢者ケイロンとポロスの死を弔ったのちに粛々としてイノシシ狩りへと向かうヘラクレス
そして、その後、
ヘラクレスに追い立てられたケンタウロスたちは、彼らが尊敬するケンタウロスの偉大な賢者であったケイロンが住んでいるマレアーの地まで逃げていくことになるのですが、
この地でケンタウロスたちを追い詰めたヘラクレスは、怒りに我を忘れて、彼らに向かってヒュドラの猛毒をたっぷりと塗り込んだ毒矢を渾身の力を込めて放ってしまうことになります。
そして、
ヘラクレスが放った猛毒の一矢は、彼と戦っていたエラトスという名のケンタウロスの腕を貫くと、そのままさらに先へと飛んでいき、賢者ケイロンの膝に突き刺さってしまうことになり、
神々から不死の力を与えられていた賢者ケイロンは、その力によって命を失うことはなかったものの、ヒュドラの猛毒がもたらす苦痛に耐えかねて、ついに、神々の王であるゼウスに対して自らが持つ不死の力を放棄することを願い出ることになり、
その不死の力は、すでに神々によって別に定められていた罰によって永遠に続く責め苦を負わされていたプロメテウスによって引き受けられることによって、賢者ケイロンは死の安息を得ることを許されることになります。
そして、その後、
ヘラクレスが放った毒矢は、ケイロンの亡骸から矢を引き抜いたケンタウロスのポロスが手を滑らして誤って自分の足に矢じりを刺してしまうことによって、ポロスまでをも殺してしまうことなり、
自分の酒癖の悪さが原因となってケンタウロス一族との間の無用な争いを招き、賢者ケイロンとポロスという二人の良きケンタウロスの命までも奪うことになってしまったことを深く恥じたヘラクレスは、彼らのために墓を建てて手厚く弔ったのち、
粛々としてイノシシ狩りへと出かけていくと、まだ雪の深い山奥へとイノシシを追い込み、予め仕掛けておいた罠にかけて捕らえることによって、
ヘラクレスの第四の功業にあたるエリュマントスの猪を生け捕りの仕事を達成することになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの第五の功業とアウゲイアスの家畜小屋の掃除での川の水の力を利用した大胆な掃除方法、ヘラクレスの十二の功業⑤
前回記事:ヘラクレスの第三の功業とケリュネイアの鹿の生け捕りの際にかわされた女神アルテミスとの問答、ヘラクレスの十二の功業③
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