デイアネイラを襲うケンタウロスの心臓を射抜くヘラクレスの矢とネッソスの媚薬、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑮

前回書いたように、トロイアエリスピュロステゲアといったギリシア各地の有力都市を次々に制圧していくことによって、一時はギリシア世界の盟主としての地位にまで昇りつめていくことになった英雄ヘラクレスは、

その後、カリュドンオイネウス王に呼ばれた饗宴の席において、誤って王の親戚の子供の命を奪ってしまうことによって、カリュドンの地を去って東方のトラキスの地へと追放されてしまうことになり、

こうした一つの悲劇を境として、ヘラクレスのその後の人生には少しずつ陰りの兆しが見え隠れしていくことになります。

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デイアネイラを乗せてエウエノス川を渡るケンタウロスのネッソス

 デイアネイラを乗せてエウエノス川を渡るケンタウロスのネッソス

自分の妻であるデイアネイラを連れて、二人で寂しくカリュドンの地を去り、彼らのことを迎え入れてくれたケユクス王が支配するトラキスの地へと赴いていくことになったヘラクレスは、

カリュドンの近くを流れていたエウエノス川を渡って東へと進んで行こうとした時に、この川の前で番をして報酬を受け取る代わりに通行人を渡す役目を請け負っていたケンタウロスネッソスと出会うことになります。

そして、

神々にもまさる怪力を持つヘラクレスは、川の流れをものともせずにずんずんと川の中を進んで行ってエウエノス川を渡りきることになるのですが、

その際、妻であるデイアネイラを人間である自分の肩の上に乗せて一緒に川を渡ろうとすると彼女の服を濡らしてしまうことになるため、

ヘラクレスは彼女のことを自分の背中の上に乗せて川を渡してあげようと申し出る半人半馬の姿をしたケンタウロスネッソスの申し出を受け入れて、彼に報酬を手渡してデイアネイラのことを乗せて川を渡ってもうように依頼することになるのです。

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ケンタウロスの心臓を射抜くヘラクレスの矢とネッソスの媚薬

そして、

デイアネイラを背に乗せて川を渡っていったネッソスが、ちょうど川の中ほどまで進んで行った時、自分の背に乗るデイアネイラの美しさに強く心を惹かれていた彼の心の内に邪な感情がわき起こり、

ネッソスは、夫であるヘラクレスも自分たちがいる遠く離れた川の真ん中まではすぐに駆けつけて来ることができないに違いないと考えて、あろうことかその場で彼女のことを自分のものにしてしまおうとしてデイアネイラに襲いかかることになります。

そして、

ネッソスに襲いかかられて悲鳴を上げる最愛の妻の叫び声を聞いて、何が起こっているのかを察知したヘラクレスは、

すぐに近くにあった見晴らしの良い岩の上へと駆けあがり、その場で矢をつがえて弓を構えると、デイアネイラには傷一つつけることなく、ケンタウロスネッソスの心臓のみを一矢で射抜くことになります。

そして、

ヘラクレスの渾身の一矢に心臓を射抜かれたネッソスは、息を引き取ろうとする間際に、自分がこのまま死んでもデイアネイラが川の中に落ちて死んでしまうことがないように、そっと手を添えて彼女のことを自分の体の上に乗せ直すと、

彼女に怖い思いをさせてしまったことへの償いとして、ヘラクレスの矢によって射抜かれた自分の胸から流れ出る血を小瓶にすくって彼女に渡すと、

自分の血には、ヘラクレスのことを永遠に彼女のことを愛するように仕向けることができる媚薬としての不思議な力があるので、

彼が他の女に気を惹かれて心変わりしそうになった時には、この血を使って彼のことを自分のもとへと引き戻すといいと言い残して絶命することになるのです。

・・・

次回記事:火葬壇でのヘラクレスの死と雷鳴と共に天空へと運び上げられ神となるヘラクレス、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑯

前回記事:ヘラクレスの五十人の庶子の行方とカリュドンを去りトラキスへと赴くヘラクレス、古代ギリシア神話の英雄ヘラクレスの物語⑭

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