ヘラクレスの第三の功業とケリュネイアの鹿の生け捕りの際にかわされた女神アルテミスとの問答、ヘラクレスの十二の功業③
前回書いたようにミケーネの王であったエウリュステウスの命令によって、第二の功業にあたるレルネーのヒュドラ退治へと向かった英雄ヘラクレスは、
九つの頭のうち一つの頭が不死であるこの水蛇の怪物を、従者であったイオラオスと共に、水蛇の弱点である火を利用した奇策を用いることによって何とか倒すことに成功することになるのですが、
その後、ヘラクレスのことを困らせてやろうとするエウリュステウスに言いがかりをつけられることによって、この仕事による成果はすべて帳消しにされてしまうことになります。
第三の功業であるケリュネイアの鹿の生け捕りへと向かう英雄ヘラクレス
そして、その次に、
ミケーネの王であったエウリュステウスは、ヘラクレスに対して与える第三の難行として、ケリュネイアの鹿を生け捕りにして連れてくることを命じることになります。
ペロポネソス半島の北部に位置するケリュネイアの山中には黄金の角と青銅の蹄を持ち、矢よりも速く走ることができる俊足の美しい鹿が放たれていて、
この鹿は、狩猟と月の女神であるアルテミスが乗る戦車を引く聖獣としても位置づけられていたのですが、
狡猾で卑劣な王であったエウリュステウスは、神々にも比肩する怪力を持つ英雄であるヘラクレスといえども、矢よりも速く走る俊足の鹿を捕まえることは困難なので、
おそらくヘラクレスはこの仕事をやり遂げることができずに、そのまま永久にケリュネイアの山中をさまよい続けることになるだろうし、
もし仮に、ケリュネイアの鹿を捕らえることができたとしても、その時は、この鹿が無防備な状態でいる時に矢で射抜いて殺してしまうことになるので、
自分のもとに仕える聖獣であるケリュネイアの鹿を殺されてしまったことに怒り狂う女神アルテミスによってヘラクレスが殺されてしまうことになれば、なおのこと良いと考えて、彼にこの難行を成し遂げるように命じることになるのです。
聖なる鹿を生け捕りにするヘラクレスと女神アルテミスとの問答
そして、その後、
黄金の鹿を持つ聖なる鹿が住むというケリュネイアの山中へと入っていったヘラクレスは、エウリュステウス王のもくろみ通りに、逃げ足の速いこの鹿のことを捕まえることができずに、一年にもわたって鹿の後を追い続けていくことになります。
そして、まる一年の月日が過ぎたとき、
ヘラクレスは、ついに、この鹿が疲れ果てて、女神アルテミスの名が冠されたアルテミシオンと呼ばれる山へと逃げ込み、そこからラドンの河を渡ろうとして脚を止めたところを矢で射ることで、ケリュネイアの鹿にかすり傷を与えることになり、
ヘラクレスが鹿を射止めるに使った弓矢の矢じりにはヒュドラの血がわずかに薄く塗られていて、その血が持つ毒の効力によって体が麻痺して動きが鈍ったケリュネイアの鹿は、そのままヘラクレスの手によって生け捕りにされることになります。
しかし、この時、
自分の僕である鹿の叫び声を聞いて駆けつけてきた女神アルテミスと、その双子の兄であったアポロンがヘラクレスの前に立ちふさがり、
自分の庇護のもとにある聖なる鹿を弓矢で射止めてその命を奪おうとするとはいかなることかと彼のことを強く責め立てていくことになります。
しかし、
ヘラクレスは、怒れる神々を目の前にしても決して臆することがなく、自分はミケーネの王の命令に従って十の功業を成し遂げるというデルポイの神託の言葉によって示された神々によって定められた運命の導きに従って鹿を生け捕りにしただけであって、
神々のものである聖なる鹿の命を奪う気はまったくないばかりか、その身体にも傷を残すことがないように細心の注意を払っていると申し述べて、正々堂々と弁明を行うことになります。
そして、
こうしたヘラクレスの正々堂々とした潔い態度を目にして、その言葉を信じた聡明な女神であったアルテミスは、自らの怒りを鎮めて、神託の言葉に従って功業を成し遂げたのちにすぐに鹿を山の中へと帰すことを条件として、
ヘラクレスがそのままケリュネイアの鹿を連れてこの地を去って王のもとへと戻ることを許すことになり、
その後、アルテミスを含むオリュンポスの神々は、
かつて女神ヘラによって狂気を吹き込まれて自らの手で自分の家族の命を奪うことになり、今回の一件では女神アルテミスが守る聖なる鹿にまで手を出すことになってしまったヘラクレスに対してではなく、
彼のことを卑怯な罠にかけて陥れようとしたミケーネの王であるエウリュステウスの方に対して、より多くの不審と疑惑の目を向けていくようになっていったと考えられることになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの第四の功業とエリュマントスの猪の生け捕りの際に起きたケンタウロス族との争い、ヘラクレスの十二の功業④
前回記事:ヘラクレスの第二の功業とレルネーのヒュドラとの九つの頭と一つの不死の頭をめぐる戦い、ヘラクレスの十二の功業②
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