ヘラクレスの第七の功業におけるクレタの牡牛との格闘とマラトンの地へと流れ着く聖なる牡牛、ヘラクレスの十二の功業⑦

前回書いたように、ミケーネの王であったエウリュステウスの命令によって、第六の功業にあたるステュムパロスの鳥退治へと赴いていった英雄ヘラクレスは、

ヘーパイストスが彼の工房に仕える一つ目の巨人であったキュクロプスたちを目覚めさせるために使っていたともされる青銅のガラガラと、ヒュドラの猛毒を塗り込んだ毒矢を使って、

ステュムパロスの地に棲む青銅の翼と嘴を持つ怪鳥を撃ち落として仕留めるという鳥退治の仕事を成し遂げることになります。

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第七の功業であるクレタの牡牛との格闘へと赴く英雄ヘラクレス

ヘラクレスの第七の功業とクレタの牡牛との格闘

そして、その次に、

ミケーネの王であったエウリュステウスは、ヘラクレスに対して与える第七の難行として、今度はクレタ島の牡牛を連れてくるように命じることになります。

ギリシアの古代文明にあたるクレタ文明の発祥の地にして、ギリシア神話における主神ゼウス幼少時代を過ごした土地であるともされているクレタ島には、

美しくも凶暴な姿をした牡牛が放たれていたのですが、こうしたクレタの牡牛に関するギリシア神話の物語としては、以下で述べるような二つの物語が語り伝えられています。

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クレタの牡牛について語られているギリシア神話における二つの物語

そのうちの一つの物語においては、

クレタ島の牡牛は、かつてギリシアから見て異国の地にあたるフェニキアの王女であったエウロパに恋をしたゼウスが姿を変えた聖なる牛の末裔にあたる牡牛であるとされていて、

ゼウスはエウロパのことを驚かせないようにするために、自らの姿を美しく白い牡牛の姿へと変えて彼女を海辺まで導いていき、エウロパのことを背中に乗せるとそのまま海の中へと進んで行って、エーゲ海を越えたクレタの地まで連れていくことになるのですが、

この時に、ゼウスエウロパの間に生まれたのが、のちに、この地にクノッソス宮殿と呼ばれる壮麗なる王宮を築くことになるミノス王であったとされることになります。

そして、もう一つの物語においては、

こうしたクレタ島の牡牛は、海の神ポセイドンからミノスへと授けられた牡牛であるともされていて、この話のなかでは、

クレタの王の座へとつこうとしたミノスは、海の神ポセイドンの加護を受けるために、その証として海の底から聖なる牡牛が遣わされることを祈り、海から現れたその牡牛を再び神へと捧げることによって自らの忠誠の証とすることを誓うことになるのですが、

ポセイドンから送られた牡牛の姿あまりにも美しく見事であったため、この牡牛を神への犠牲として捧げて殺してしまうことを忍びなく思ったミノス王は、

この美しい牡牛を自分のもとにとどめ置いたまま、その代わりとして別の牡牛ポセイドンへと捧げることにしてしまいます。

そして、その後、

ミノス王によって欺かれたことを知って激怒したポセイドンは、この美しい牡牛凶暴な獣へと変えたうえで、その姿にミノス王の妻であったパシパエ強い恋心を抱くように仕向けることになり、

こうしてクレタの王妃パシパエポセイドンの牡牛との間には、顔は牛の姿をしているが首から下は人間の姿をした牛頭人身の怪物であるミノタウロスが生まれることになるのです。

クレタ島でヘラクレスに捕らえられたのちマラトンの地へと流れ着くクレタの牡牛

そして、

クレタ島へとたどり着いたヘラクレスは、この地を治めていたミノス王に対して、クレタの土地を荒らしまわっているこの凶暴な牡牛のことを捕らえるために協力を求めることになるのですが、

こうしたゼウスポセイドンといった神々に縁のある聖なる牡牛に手を出すことによって、神々からのさらなる怒りをかうことを恐れたミノス王は、ヘラクレスからの申し出を断ったうえで、

彼に対して、どうしてもこの牡牛のことを捕らえたいのならば、牡牛の身体を決して傷つけることがないように注意したうえで、自分一人で捕まえるように求めることになります。

そして、その後、ヘラクレスは、

こうしたミノス王の要請に従って、この凶暴な牡牛素手で格闘したうえで、彼が持つ神々にもまさる怪力によってクレタの牡牛を捕らえることに成功することになり、

自分が新たな功業を成し遂げたことの証として、この牡牛をミケーネの王であったエウリュステウスものもとへと連れて行って見せたうえで、すぐにこの聖なる牡牛を野へと放って自由にしてしまうことになります。

そして、そののち、

クレタの牡牛は、スパルタアルカディアといったペロポネソス半島全土を駆けめぐっていったのち、コリントス地峡を渡って、アッティカマラトンの地へと流れ着くことになったともされているのですが、

こうしたマラトンと呼ばれる土地は、のちに現代のマラソン競技の起源となったマラトンの戦いが起きることになった地でもあり、

自由になったクレタの牡牛がなだらかな丘陵地帯が広がるこの地を猛々しく駆け回っていくことによって近隣の町の人々を困らせることになったとも語り伝えられているのです。

・・・

次回記事:ヘラクレスの第八の功業におけるディオメデスの人喰い馬の強奪とヘラクレスの友人アブデロスの死、ヘラクレスの十二の功業⑧

前回記事:ヘラクレスの第六の功業とステュムパロスの鳥退治で用いられた巨人の眠りを覚ます青銅のガラガラ、ヘラクレスの十二の功業⑥

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