らせん菌に分類される10種類の代表的な細菌の種類のまとめ、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑪
このシリーズの初回から前回までの一連の記事では、人間に対する細菌感染症の原因となる様々な細菌の種類のうち、
らせん菌(spirillum、スピリルム)と呼ばれる細胞の形がらせん状(螺旋状)、すなわち、とぐろを巻いたヘビや、針金をぐるぐると巻いたコイルのような形状した細菌のグループに分類される代表的な細菌の種類について順番に詳しく考察してきましたが、
今回の記事では、こうしたらせん菌に分類される代表的な細菌の種類に関する一連の記事の総まとめとして、
そうしたらせん菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる全部で10種類の代表的な細菌の種類について改めてまとめていく形で、体系的に記述していきたいと思います。
一般的な細菌性胃腸炎の病原体となるカンピロバクターとヘリコバクター
まず、
こうしたらせん菌と呼ばれる細菌のグループに分類される細菌のなかでも、一般的な細菌性胃腸炎や食中毒などの原因菌となる代表的な細菌の種類としては、
カンピロバクターやヘリコバクターといった細菌の種族の名が挙げられることになります。
そして、このうち、
前者のカンピロバクターと呼ばれる細菌は、日常的に様々な動物の腸内などに広く生息している細菌であり、加熱が不十分な状態にある鶏肉などの肉類などを介して、人間に対して経口感染してしまうことにより、
腹痛や下痢や発熱さらには、吐き気や頭痛、倦怠感や筋肉痛などといった細菌性の急性胃腸炎の症状が引き起こしていく細菌の種族として位置づけられることになるのに対して、
後者のヘリコバクターと呼ばれる細菌の種族には、胃の内部における常在菌の一種として位置づけられる一方で、慢性胃炎や胃潰瘍、さらには、十二指腸潰瘍や胃がんなどの疾患に罹患するリスクを高める要因としても位置づけられることで有名なピロリ菌や、
イヌやネコあるいはウサギなどといった人間以外の動物の胃の内部においても広く生息している人獣共通感染症の原因菌としても位置づけられていて、ピロリ菌と同様に、慢性胃炎などのリスクを高める要因となるハイルマニ菌と呼ばれる細菌の種類などが分類されることになるのです。
脱水症状を引き起こす重症の下痢の原因となるコレラ菌とナグビブリオ
そして、その他にも、
こうしたらせん菌と呼ばれる細菌のグループに分類されることになる有名な細菌の種類としては、コレラ菌やナグビブリオといった細菌の種類の名も挙げられることになります。
そして、このうち、
前者のコレラ菌は、河川や海などといった水中に存在していたコレラ菌が、生水や氷、加熱が不十分な状態にある魚介類、不衛生な調理環境などにおいて病原体が付着した食材などを介して経口感染していくことになり、
コレラの発症においては、コレラ菌が生産するコレラ毒素とよばれるタンパク質毒素の働きによって、小腸の粘膜における水分や電解質の吸収が著しく妨げられていくことによって、1日に数十回におよぶような激しい水様性下痢や、それに伴う急激な脱水症状といった重篤な症状が引き起こされることになります。
それに対して、
後者のナグビブリオと呼ばれる細菌は、コレラ菌とほぼ同じ生化学的な特徴を持つ細菌の種類として位置づけられていて、コレラ菌とは血清型と呼ばれる細菌のタイプが異なるため、病原体の種類として区別されることになるものの、
コレラの症状とよく似た激しい下痢やおう吐といった消化器系を中心とする症状を引き起こす細菌の種類として位置づけられることになるのです。
梅毒やライム病、回帰熱やワイル病などの病原体となるスピロヘータ
また、
こうしたらせん菌と呼ばれる細菌のグループには、もう一つ代表的なものとして、スピロヘータと呼ばれる非常に細長い螺旋状の形状をした細菌の種族も分類されていて、
こうしたスピロヘータと呼ばれる細菌の種族のなかでも、人間に対して細菌感染症を引き起こすことになる具体的な細菌の種類としては、
梅毒トレポネーマやライム病ボレリア、回帰熱ボレリア、レプトスピラ、ブラキスピラ・ピロシコリ、ブラキスピラ・オールボルギといった細菌の種類の名が挙げられることになります。
このうち、はじめに挙げた
梅毒トレポネーマは、その名の通り、梅毒と呼ばれる性感染症の一種として分類されることが多い細菌感染症の病原体となる細菌の種類であり、
こうした梅毒の発症においては、外陰部や口唇部、口腔内などにおいて無通性の小さな硬結が現れたのち、症状が進行していくと、全身のリンパ節が腫れや、発熱や倦怠感、関節痛といった症状や、バラ疹と呼ばれる左右対称に近い形で現れる小さい紅斑を特徴とする全身性の発疹などが現れたのち、
抗生物質などによる適切な治療が行われない場合には、最終的には、病変が心臓や大動脈、さらには、脳や脊髄などといった中枢神経へと達していくことによって死に至ることもある感染症の種類として位置づけられることになります。
そして、その次に挙げた
ライム病ボレリアは、マダニを媒介として人間に感染したうえで、頭痛や発熱、悪寒や倦怠感、さらには、筋肉痛や関節痛、リンパ節の腫れなどといったインフルエンザなどに似た症状を引き起こしたのち、心血管系の病変や不整脈、髄膜炎など神経系の病変などを引き起こすことによって命に関わるケースもあるライム病と呼ばれる感染症病原体となる細菌の種類、
回帰熱ボレリアは、マダニやシラミ、ノミといった昆虫を媒介として人間に感染したうえで、39度から40度を超えるような高熱を中心とする頭痛や筋肉痛、関節痛や全身倦怠感といった症状が1週間ほど持続したのち、いったん平熱に戻って1週間ほど無症状の時期が続いたのち、再び発熱するという病態のサイクルが繰り返されていくことになる回帰熱と呼ばれる感染症の病原体となる細菌の種類としてそれぞれ位置づけられることになります。
そして、その次に挙げた
レプトスピラは、ネズミなどの保菌動物の尿によって汚染された水や土壌を介して人間に経口感染または経皮感染したのち、発熱や頭痛、筋肉痛といった風邪に似た症状が引き起こされることになるレプトスピラ症の病原体となる細菌の種類であるとともに、
そうしたレプトスピラ症の重症型の病態にあたる黄疸や肝機能障害、腎機能障害、さらには、皮下出血や粘膜からの出血といった症状が見られることになり、最悪のケースでは、エボラ出血熱などと同様に、全身の粘膜や皮膚からの出血といった症状が引き起こされることになるワイル病の病原体となる細菌の種類としても位置づけられることになり、
最後に挙げた
ブラキスピラ・ピロシコリに代表されるブラキスピラ属に分類される病原性のスピロヘータは、病原菌を保有する患者や動物の排泄物などによって汚染された井戸水や食物などを介して経口感染したうえで、
腸管スピロヘータ症と呼ばれる腹痛や慢性的な下痢といった消化器系を中心とする症状が引き起こされていくことになる消化器系の感染症の原因となる細菌の種類としてそれぞれ位置づけられることになると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
こうしたらせん菌と呼ばれる細菌のグループに分類される多様な細菌のなかでも、人間に対して細菌感染症を引き起こすことになる代表的な細菌の種類としては、
カンピロバクター、そして、ヘリコバクターに分類されることになるピロリ菌やハイルマニ菌といった細菌の種類、コレラ菌とナグビブリオ、さらには、
スピロヘータに分類されることになる梅毒トレポネーマやライム病ボレリア、回帰熱ボレリア、レプトスピラ、そして、ブラキスピラ
といった全部で10種類におよぶ代表的ならせん菌の種類の名を挙げていくことができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:らせん菌に分類される代表的な細菌の大きさの比較、細菌感染症の病原体となる全部で10種類のらせん菌の細胞体の長さの違い
前回記事:腸管スピロヘータ症と豚赤痢の具体的な特徴と病名の由来、スピロヘータに分類されるその他の代表的な細菌の種類④、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑩
このシリーズの初回記事:らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?①カンピロバクターの具体的な特徴と細菌性の急性胃腸炎の原因菌としての位置づけ
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