身体的快楽の適用範囲の拡大における効用の分配と個々の快楽の逓減の原理、快楽計算とは何か?⑬

前回までの12回にわたる功利主義における快楽計算の原理について考える一連のシリーズにおいては、

初回ので快楽の強度持続性確実性遠近性多産性純粋性適用範囲という快楽計算を構成する七つの要素の概要について書いたうえで、

~③では快楽の強度の概念について、

~⑤では快楽の持続性の概念について、

~⑧では快楽の確実性遠近性の概念について、

~⑫では快楽の多産性純粋性の概念について、

それぞれの要素が快楽計算においてどのように機能するのか?ということについて、具体的な事例も多く交えて詳しく考えてきました。

そこで、

今回からは、快楽計算を構成する最後の七番目の要素である快楽の適用範囲の概念について考えたうえで、

功利主義の土台となる一つの主要な原理である快楽計算の原理についての総括へと取り組んでいきたいと思います。

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身体的快楽の適用範囲の拡大における効用の分配と個々の快楽の逓減の原理

快楽の適用範囲とは、一言で言うと、一つの快楽を共有できる人々の範囲のことを指す概念であり、

同じ強度の快楽であるならば、それが一人よりは二人、二人よりは三人というように、より多くの人々に共有される方が、快楽計算における全体の快楽の総量が大きい快楽であるとみなされることになります。

そして、

そうした快楽の共有のあり方は、対象となる快楽が身体的快楽である場合と精神的快楽である場合で大きな違いが生じてくると考えられることになるのです。

6人の子供たちと3個のサンドイッチのたとえ

身体的快楽の適用範囲の拡大の具体例として、例えば、

お腹を空かした6人の子供たちの目の前に3人前の3個のサンドイッチが用意されているケースについて考えてみることにします。

まず、

その3個のサンドイッチのすべてを1人の子供にあげてしまうとすると、

その1人の子供はお腹いっぱい食べられるという身体的効用を得られる一方で、他の5人の子供が得られる効用はゼロであり、お腹いっぱい食べることができた1人の子供も、3人前を1人で平らげてしまっては、かえって食べ過ぎで後でお腹を壊しまうという負の効用すら生じてしまう可能性もあるあるので、

このような分配の仕方は、快楽の適用範囲が狭すぎる効率の悪い分配方法であると考えられることになります。

そこで、次に、

3個のサンドイッチを1個ずつ3人の子供に分け与えるとすると、

1人ではなく3人の子供が腹八分目程度には満足に食べられることになるので、3人の子供が満腹の80%程度の十分な身体的効用を得ることができると考えられることにります。

そして、

この分配の仕方は、満腹の80%ほどの身体的快楽3人で共有することができるという点で、前述の独り占めの分配の仕方よりも快楽の適用範囲が広く、全体の快楽の総量も大きくなる分配方法であるということになるのです。

しかし、

この分配の仕方でも、まだ6人のうちサンドイッチを分けてもらえなかった3人は空腹のままということになるので、

次に、サンドイッチの数ではなく、子供の人数の方に分配の仕方を合わせて、3個のサンドイッチを0.5個ずつ6人の子供に分け与えるとすると全体の快楽の総量はどうなるのだろうか?という考えに思い当たることになります。

すると、この場合は、6人の子供のそれぞれが満腹や腹八分目というほどには十分には食べられていない状態ではあるものの、空腹はある程度満たされているという腹八分目と空腹の中間の状態に置かれていると考えられることになります。

そして、

そうした腹八分目と空腹の中間の状態、すなわち、腹四分目の状態というのは、単純に考えれば、満腹100%の状態に対して40%の身体的快楽の状態ということになりますが、

本当にお腹が空いている時には、おにぎり半分や、ひとかけらのクッキーですら非常に美味しく、ありがたく感じることがあるように、人間にとって、まったく食べられない状態よりは、少しでも食べられている状態の方がよっぽどましな状態であり、

腹四分目の状態から腹八分目までに得られる効用よりも、空腹の状態から腹四分目までに得られる効用の方が、当人が感じる実際の効用としてはだいぶ大きくなると考えられることになります。

したがって、

腹八分目の状態の身体的快楽を80%とすると、その半分の腹四分目でも食べれている状態において当人が実際に感じている効用の大きさは、80%の半分である40%よりはだいぶ大きい50%程度の身体的快楽を感じていると考えられることになるのです。

そして、以上のような考察に基づくと、

快楽の適用範囲を考慮に入れた快楽計算においては、

はじめの3個のサンドイッチを1人だけで食べてしまう場合の全体の快楽の総量を
100とした場合、

3個のサンドイッチを3人で分けて食べる場合の全体の快楽の総量としては、
80%×3=240

3個のサンドイッチを6人で分けて食べる場合の全体の快楽の総量としては、
50%×6=300程度の身体的な効用と快楽がもたらされると算定することができると考えられることになるのです。

・・・

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以上のように、

身体的な快楽における快楽の適用範囲の拡大は、一つの効用や快楽がより多くの人々へと広く分配されていくことによって進んで行くことになり、

快楽がより多くの人々の間で共有されていくにしたがって、全体的な快楽の総量は増大していくと考えられることになります。

しかし、その一方で

前述の快楽計算の計算式を見ても明らかな通り、効用や快楽が多くの人々へと分配される数が増えていくのにしたがって、一人一人の個人が受け取る快楽の量徐々に減っていくと考えられることになります。

このように、

身体的快楽における適用範囲の拡大は、効用の分配とそれに伴う個々の快楽の逓減(ていげん、数量が徐々に減ること)を原理として進んで行くことになるのですが、

それに対して、次回述べるように、

もう一方の快楽の種類である精神的快楽においては、快楽の適用範囲の拡大と、それぞれの快楽の共有のあり方は、身体的快楽における快楽の分配のあり方とは大きく異なる原理によって進んで行くことになると考えられることになるのです。

・・・

次回記事精神的快楽の適用範囲の無制限の拡大と図書館の本とネット空間、快楽計算とは何か?⑭

前回記事:功利主義において麻薬や覚せい剤の使用が否定される論理、快楽計算とは何か?⑫

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