快楽の強さを客観的に数値化する方法とは?その1、貨幣の限界効用逓減の問題、快楽計算とは何か?②
前回書いたように、
快楽計算の基準は、強度、持続性、確実性、遠近性、多産性、純粋性、適用範囲という七つの構成要素に分けて捉えることができると考えられることになります。
そして、上記の七つの要素の内、特に、
前半の強度、持続性、確実性、遠近性という四要素が、個々の快楽の中心となる性質を決定づける快楽の基本要素とされることになるのですが、
その中でも、強度、すなわち快楽の強さというのが、それぞれの快楽の価値を基礎づける快楽計算において最も重要な要素であると捉えられることになります。
そこで、今回は、
こうした快楽計算における最も重要で基本的な要素となる快楽の強さの算定のあり方について詳しく考えてみたいと思います。
主観的な感覚を客観的に数値化することの困難
冒頭で述べたように、
快楽の強度、すなわち、快楽をもたらすそれぞれの事柄について人間が感じる快感の強さは、功利主義における快楽計算を基礎づける最も基本的な要素ではあるのですが、
それは同時に、
それぞれの人間が感じる快感のあり方という極めて主観的な感覚に依存する尺度ということにもなるので、客観的に数値化することが難しい、量化や数値化することが困難な尺度でもあると考えられることになります。
こうした主観的な尺度である快楽の強さを客観的に数値化するための方策として、ベンサムは当初、それを貨幣に置き換えることによって説明していくことになるのですが、
こうした考え方は、のちに、ベンサム自身が貨幣の限界効用の逓減に気づいていく中でほぼ放棄されてしまうことになります。
貨幣における限界効用逓減の問題
限界効用逓減の法則とは、貨幣だけに限らず、ほとんどの財とサービスについて適用することができる経済学上の概念であり、
例えば、
ケーキが好きな人であっても、甘い味に慣れ、お腹もいっぱいになってくるのにしたがって、一口目よりは二口目、一個目よりは二個目というように、だんだんと美味しく感じる度合いが下がってきてしまうというように、
それは、財やサービスを消費する全体量が増えるにつれて、新たに追加で消費する財やサービスから得られる効用が徐々に小さくなっていくことを示す法則ということになります。
そして、
貨幣の場合の限界効用の低減とは、
ある人がお金持ちになり、貨幣を大量に所有していくようになるにつれて、額面上は同じ金額であっても、そのお金の価値が相対的に低下していくあり方をのことを示す概念ということになります。
例えば、
あるデパートで有名パティシエが作った一万円の豪華ケーキが売り出されていたとして、その豪華ケーキを見た二人の人のうち、片方が一万円を出してケーキを買い、もう一方の人はケーキを買わなかったとしても、
ケーキのために一万円を払った人が一万円を払わなかった人よりもケーキ好きであり、そのケーキから得られる効用が大きかったとは必ずしも言えないと考えられることになります。
なぜならば、
一万円を支払ってケーキを買って行った人が億万長者の大金持ちであって、普段の食事でも一食十万円もするような高級フランス料理を食べるような人物であったとするならば、当人はあまり甘党でなく、ケーキもそんなに好きではなかったとしても、ちょっとした物珍しさで目に留まった一万円のケーキを買っていくかもしれませんし、
それに対して、
一万円を支払わず、ケーキを買って行かなかった人の方が実はケーキが大好きな人であったとしても、家が貧乏で、一万円を出してケーキを買ってしまうと、米や野菜といった生活必需品を買うお金すらなくなってしまうので、泣く泣く我慢してケーキを買うのを思いとどまっていたのかもしれないというように、
実際には、その商品を高いお金を支払って買って行った人よりも、買わなかった人の方がその商品を強く求めていて、その商品から得られる効用、すなわち快楽の強さもそちらの人の方が本当は大きかったといった逆転現象は数多く生じていると考えられることになるからです。
別な例を挙げるとするならば、
例えば、絵画のコレクターたちがオークションで名画を求めて競い合うような場面でも、
オークションで一番高値を付けて競り落とした人が、必ずしもその絵を一番強く愛し求めていた人物であるとは限らないというように、
単純に効用や快楽に対する対価として支払われる貨幣の量を基準とすることによって快楽の強さ自体を測ろうとしても、その試みはうまくいかないと考えられることになるのです。
・・・
それでは、どのようにして、快楽の強さを客観的に数値化して測定することが可能になるのか?というと、
それは、貨幣よりもさらに原始的な価値の評価手段である物々交換のような原理に求められることになります。
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次回記事:快楽の強さを客観的に数値化する方法とは?その2、物々交換の原理に基づく快楽の強さの比、快楽計算とは何か?③
前回記事:快楽計算とは何か?①社会全体の幸福のあり方を算定する七つの構成要素
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