快楽の確実性と予期の快楽の関係と快楽主義と悲観主義の両立、快楽計算とは何か?⑥

前々回書いたように、

快楽計算を構成する第二の要素である持続性の概念とは、現在存在する快楽時間的な効力の範囲のことを示す概念ということになります。

それに対して、

同様に、時間関係の内に位置づけられる快楽の捉え方であるとはいっても、

確実性遠近性の概念の方は、現在はまだ存在しないが、将来獲得できる予定である未来の快楽についての評価の尺度であると考えられることになります。

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快楽の確実性と予期の快楽との関係

まず、快楽の確実性の概念ついては、

一言で言うと、将来得られる予定の快楽が実際に実現する確率の高さのことを示す概念ということになるので、

基本的には、将来にその快楽を実際に得られる確率が80%なら0.8が、実際に得られるかどうか半々くらいなら0.5が、2割程度なら0.2といった係数が、元となる個々の快楽の基礎値に対して掛け合わせられると考えればいいということになります。

また、これは厳密には、後で述べることになる快楽の多産性や連鎖性の概念とも結びついていくことになるのですが、

未来に得られるある程度確実性の高い快楽については、その快楽が実際に実現する前に、それが実現した時の快感を先取りして享受するという予期の快楽が生じると考えられることになります。

つまり、

将来得られる予定の快楽の確実性が高ければ高いほど、それに伴って、未来に実現する快楽への期待感も大きく膨らんでいくことになるので、その快楽が現実のものとして実現するまでの間に、それに先立って予期の快楽を味わうことができると考えられることになるのです。

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確実性の低い快楽が生む負の効用と快楽主義的悲観主義

しかし、その一方で、

例えば、待ちに待った挙句に楽しみにしていた予定がキャンセルされてしまうことになった場合などには、期待が膨らんでいた分の落差として、失望感もより大きなものになってしまうと考えられることになります。

そして、この場合も、

こうした失望感という大きな負の効用が生じてしまう理由として、将来得られる予定である快楽の確実性の度合いとその予定に対する予期の快楽が非常に重要なウェイトを占めると考えられることになるのです。

現実に実現する快楽自体の効用の他に、未来に実現する予定の快楽が及ぼす副次効果としての予期の快楽を考慮に入れるならば、

将来得られる予定の確実性の高い快楽は、その快楽自体によってもたらされる効用にプラスアルファとしての予期の快楽が加わることによって、快楽の総量がより増幅される傾向にあると考えられることになります。

そして、それに対して、

将来得られる可能性もあるにはあるが、確実性が著しく低い快楽については、その快楽が実現しなかった時に、得られる予定として織り込み済みだった予期の快楽の反動によって失望や喪失感などの大きな負の効用がもたらされると考えられることになります。

つまり、

予期の快楽によって未来の快楽の総量がその快楽自体の実体以上に前もって増幅されている分、その快楽が実際には実現しなかった場合に、増幅された分の快楽の反動として、より大きな負の効用心理的苦痛を生んでしまうことになるので、

そのような実現可能性の低い未来の快楽についての予定や約束は、効用や快楽よりも弊害と苦痛を生んでしまう公算が高い負の快楽であると考えられるということです。

このように、

快楽計算における快楽の確実性の概念と予期の快楽の観点からも、

実際に実現すれば大きな快楽と幸福を周りにもたらすことであったとしても、それが実現する可能性が乏しい出来事であるとするならば、

そのような確実性の低い快楽を予定として織り込んだり、そうした快楽が得られるという約束はあまりしない方がよいということが説明されることになります。

そして、それは、

未来の快楽については、それが確実性の低い快楽である場合、

その快楽が得られることを強く期待する楽観的な傾向が強ければ強いほど、その快楽が得られなかった場合の反動としての負の効用と心理的苦痛も大きくなると考えられので、

そういう意味では、

そうした予期の快楽の反動がもたらす負の効用を抑止するために、確実性の低い未来の快楽については、あえて実際の見込み以上に悲観的な判断を下すという功利主義ないし快楽主義的な悲観主義という快楽主義と悲観主義が両立する考え方も成立し得ると考えられることになるのです。

・・・

以上のように、

快楽計算を構成する第三の要素である快楽の確実性の概念とは、基本的には、将来得られる予定の快楽が実際に実現する確率の高さのことを示す概念ということになります。

そして、それは、

未来の快楽への期待感から生じる予期の快楽の概念と結びつくことによって、将来得られる予定だった快楽が実際には実現しなかった場合に生じる負の効用心理的苦痛を説明する概念ともなり、

それはさらに、そうした確実性の低い未来の快楽がもたらす負の効用と心理的苦痛を避けるための快楽主義的悲観主義という考え方を生みだす概念にもなると考えられることになるのです。

・・・

そして、

次回述べることになる快楽計算第四の要素である遠近性の概念についても、それは、今回詳しく考えた快楽の確実性の概念と極めて密接な関わりを持つ概念として説明されることになります。

・・・

次回記事時間的な遠近性に基づく未来の快楽の価値の逓減の法則、快楽計算とは何か?⑦

前回記事:なぜ勉強する必要があるのか?という問いへの知的快楽の永続性の観点からの答え、快楽計算とは何か?⑤

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