アンナ・フロイトによる防衛機制の十種類の分類とそれぞれの概念の具体的な定義とは?防衛機制とは何か?②
前回書いたように、フロイトの心理学において登場する防衛機制と呼ばれる心の働きは、一言でいうと、
外界の環境や心身の変化に対応して沸き起こる無意識のレベルにおける不安や恐怖、欲望や衝動から自分自身の心を守るために、自我の無意識的な働きによってもたらされる防御反応のことを意味する言葉として捉えることができるとと考えられることになるのですが、
それでは、
こうした防衛機制と呼ばれる自我の無意識的な防御反応のあり方には、具体的にはどのような種類があると考えられることになるのでしょうか?
アンナ・フロイトによる防衛機制の十種類の分類のあり方
精神分析学と呼ばれるフロイトの心理学理論において、フロイト自身が提示した防衛機制の仕組みや、その後、彼の心理学の流れをくむ心理学者たちが提示した防衛機制のあり方には様々な種類があり、
こうした防衛機制(defence mechanism)と呼ばれる自我の無意識的な防御反応の種類の適切な分類のあり方については、必ずしも明確に一致した統一見解が示されているとは言えないのですが、
例えば、
幼児における防衛機制についての研究で有名なイギリスの精神分析学家でありフロイトの娘にあたる心理学者であるアンナ・フロイト(Anna Freud、1895年~1982年)は、
父親であるジークムント・フロイト(Sigmund Freud、1856年~1939年)の著作の内において提示されている様々な防衛機制のあり方を以下で挙げるような十種類の防衛メカニズムの種類としてまとめています。
それは、
①抑圧(Repression)
②退行(Regression)
③反動形成(Reaction formation)
④隔離(Isolation)
⑤打ち消し(Undoing)
⑥投影(Projection)
⑦取り入れ(Introjection)
⑧自己自身への向け換え(Turning against one’s own person)
⑨逆転(Reversal into the opposite)
⑩昇華と置き換え(Sublimation or displacement)
という十種類の防衛機制の種類です。
そして、人間はその社会生活において、実際には、
こうした様々な防衛機制の種類を互いに組み合わせて用いることによって、現実の社会状況において生じる様々なストレスに対処していると考えられることになるのです。
抑圧・退行・反動形成・隔離・打ち消し・投影・取り入れ・自己自身への向け換え・逆転・昇華と置き換えという十種類の防衛機制の概念の具体的な定義
そして、
以上のようなアンナ・フロイトによって提示された十種類の防衛機制の分類のあり方の内に含まれているそれぞれの防衛機制の概念が意味する具体的な定義について、簡単に列挙していく形で記述しておくと、
それは、以下のようになります。
抑圧(Repression)とは、不快な感情や記憶、実現困難な欲求などを無意識の領域の内に押し込めて意識しないようにすること、
退行(Regression)とは、現在のやり方で克服することが困難な問題に直面した時に、いったん現在の自分より以前の発達段階に戻ることによって、幼児的な行動や過去の行動様式に基づく行動をとること、
反動形成(Reaction formation)とは、自分にとって受け入れがたい衝動や観念に対抗するために、あえて、そうした衝動や観念とは反対の傾向を強調した行動や態度をとることによって自らの衝動や欲望を制御しようとすること、
隔離(Isolation)とは、自らの人格にとって受け入れがたい状況に直面した時や、そうした行動をとる時などに、自分の思考と感情、あるいは、行動と感情を切り離すことによって、その状況や行為がもたらす心理的なストレスから逃れようとすること、
打ち消し(Undoing)とは、自らの人格にとって受け入れがたい行動をとってしまった後で、そうした行為がもたらす罪悪感や負の感情から逃れるために、その行為の代償となるような行動をとること、
投影(Projection)とは、自分自身の心の内に存在する受け入れがたい欲求や感情などの性質を自分以外の他者が持っている性質として認識することによって、そうした自分にとって受け入れがたい欲求や感情を他者の側に転嫁してしまうこと、
取り入れ(Introjection)とは、他者が持っている価値観や感情をそのまま自分自身のものとして受け入れることによって、外部の人が持っている価値観や感情と自分の価値観や感情が衝突することによって生じる軋轢や葛藤を避けようとすること、
自己自身への向け換え(Turning against one’s own person)とは、自分が相手に対して抱いている感情や衝動を受け入れられない時に、そうした受け入れがたい感情や衝動を反転させて自分自身の側にぶつけることによって、逆に自分自身を責めるような態度や自虐的な行動を示すこと、
逆転(Reversal into the opposite)とは、愛情が憎悪へと変わるように、自らが抱いている満たされない感情や欲望を正反対のものへと変化させることによって、倒錯した形で自らの感情や欲望を満たそうとする態度や行動をとること、
そして、
昇華と置き換え(Sublimation or displacement)とは、自らが抱いている満たされない欲求を別の対象へと向けることによって充足を図ることを意味する概念として定義されることになり、
特に、昇華(Sublimation)の場合は、そうした欲求の対象が、学問や芸術といった社会的・文化的に価値のある活動へと置き換えられていくことを意味する概念として定義することができると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:心理学における「抑圧」の定義と「現状否認」や「隔離」と呼ばれる他の類似する防衛機制のあり方との関係とは?防衛機制とは何か?③
前回記事:防衛機制とは何か?①無意識の衝動や感情を統制するバックグラウンドシステムとしての自我の無意識的な働きに基づく心理的な防衛機能
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