HIVとエイズ(AIDS)の違いとは?HIV感染者とエイズ患者との違い
前回書いたように、
HIVウイルスに対してワクチン接種や単独での抗ウイルス剤の使用といった通常のウイルス対策が効果を奏しにくい理由としては、
HIVウイルスがウイルス遺伝子の変異のスピードが速いRNAウイルスに分類されるウイルスであり、そうしたRNAウイルスの中でも、人間の免疫細胞による識別の対象となるウイルス表面のタンパク質部分の変異が激しいウイルスであることが挙げられることになります。
ところで、こうしたHIVウイルスという表現と同様に、一般的には、エイズウイルスやエイズ患者といった表現もよく耳にするように思いますが、
こうしたHIVとエイズという言葉の表現には、それぞれどのような意味の違いがあると考えられることになるのでしょうか?
HIVとエイズという言葉の語源とそれぞれの単語の具体的な意味
まず、
HIV(エイチ・アイ・ブイ)とは、”Human Immunodeficiency Virus“の三つの単語の頭文字をとった略称であり、
真ん中のImmunodeficiencyは、「免疫」を意味するimmuno(イミュノ)と、「欠乏、不全」を意味するdeficiency(デフィシエンシー)が結合してできた言葉です。
そして、これに、
先頭のHuman=「ヒト」と、最後のVirus=「ウイルス」とを合わせて、
“Human Immunodeficiency Virus“(ヒューマン・イミュノデフィシエンシー・ヴァイラス)という言葉全体で、「ヒト免疫不全ウイルス」という意味を表すことになります。
つまり、
リンパ球などのヒトの免疫細胞に感染して、免疫不全を引き起こすウイルスなので、ヒト免疫不全ウイルス=HIVウイルスと呼ばれているということです。
これに対して、
AIDS(エイズ)の方は、”Acquired Immune Deficiency Syndrome“という四つの単語の頭文字をとった略称であり、
Acquired (アクワイアド)は「獲得された、後天的な」、”Immune Deficiency“(イミューン・デフィシエンシー)は先ほどの”Immunodeficiency”と同じく「免疫不全」を意味し、最後の「症候群」を意味する”Syndrome“(シンドローム)と合わせて、
“Acquired Immune Deficiency Syndrome“(アクワイアド・イミューン・デフィシエンシー・シンドローム)というという言葉全体で、「後天性免疫不全症候群」という意味を表すことになります。
ちなみに、
“Human Immunodeficiency Virus”と”Acquired Immune Deficiency Syndrome”というそれぞれの表現の真ん中の部分が、
HIVの方は、“Immunodeficiency”という一語で表記されているのに対して、AIDS(エイズ)の方は、“Immune Deficiency”という二語の表記に分かれて表記されているわけですが、
これは、HIVの表記の方では、「免疫」を意味する表現が“Immuno-“という接頭辞の形で使われ、次のdeficiencyと直接結びついて一単語に結合しているのに対して、
AIDSの表記の方では、「免疫」を意味する表現が“Immune “という形容詞の形で使われていて、Immune とDeficiencyがそれぞれ独立した単語として用いられているという点からくる違いであり、
意味内容としては、両者ともまったく同じ意味を示していると考えられることになります。
HIV感染者とエイズ患者の違いとは?
そして、以上のようなHIV(エイチ・アイ・ブイ)とAIDS(エイズ)という二つの言葉の語源とそれぞれの単語の具体的な意味に基づいて考えると、
HIVは、HI(Human Immunodeficiency)=「ヒト免疫不全」を引き起こすウイルス(Virus)自体のことを意味する表現であり、
それに対して、
AIDSの方は、AID(Acquired Immune Deficiency)=「後天性免疫不全」という症候群(Syndrome)すなわち、病気によって生じる症状のことを意味する表現ということになります。
したがって、
HIVウイルスやHIV感染者というように、ウイルス自体の名前や、ウイルスに感染している状態を直接表す表現としては、HIV(エイチ・アイ・ブイ)という表記を用いることが適切であり、
一方、
HIVウイルスに感染した後に、ウイルスが体内で増殖して一定のしきい値を超えて免疫不全の症状が顕在化してしまった状態、すなわち、ウイルスによって引き起こされる症状や、実際に病気が発症してしまった状態にある患者のことを意味する表現としては、
エイズの症状やエイズ患者という表記を用いることがより適切で正確な表現であると考えられることになるのです。
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以上のように、
HIV(エイチ・アイ・ブイ)とAIDS(エイズ)という二つの言葉は、広義においては、人間に免疫不全を引き起こすウイルスや病気のことを指す表現としてほとんど同じ意味で用いられることになります。
しかし、厳密に言うと、
HIV感染者とは、HIVウイルスに感染している人すべてのことを指す表現であり、ウイルスに感染してはいるものの、いまだ症状は現れておらず日常生活を普通に送れている感染者のことも含む表現であるのに対して、
エイズ患者の方は、HIVウイルスに感染したうえで、一定のしきい値を超えるまで体内でのウイルスの増殖が進んでしまい、実際に免疫不全の症状を発症している状態にある患者のことを示す表現であるという点に、
HIV感染者とエイズ患者という両者の言葉が示す具体的な意味内容の違いがあると考えられることになるのです。
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次回記事:HIV感染者とエイズ患者の数に2倍の差がある理由とは?日本の過去10年間のHIV 感染者数とエイズ患者数の推移とHAART療法の影響
前回記事:HIVウイルスの変異スピードが速い理由と多剤併用療法(HAART療法)の仕組み、DNAウイルスとRNAウイルス③
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