快楽の多産性とは何か?快楽の連鎖的な影響関係と副次的な快楽、快楽計算とは何か?⑨
前回までのシリーズで考察してきた快楽の強度、持続性、確実性、遠近性という快楽計算を構成する四つの基本的要素に続いて、
今回からは、多産性、純粋性、適用範囲という三つの派生的要素について考察を進めていくことになります。
快楽の連鎖的で相互的な影響関係と副次的な快楽
まず、はじめに、
快楽の多産性という概念についてですが、
それは、一言で言うと、一つの快楽がそれ自体だけでは完結せずに、他の快楽や苦痛へと結びついていき、新たな別の快楽や苦痛を副次的に生じさせていくあり方のことを示す概念ということになります。
人間か感じる快楽や苦痛は、通常の場合は、単独でそれ自体としてのみ存在するものではなく、
多くの快楽と苦痛は、一つの快楽あるいは一つの苦痛が、他の様々な快楽や苦痛を連続的に生み出していくという連鎖的で相互的な影響関係のものとに成立していると考えられることになるのです。
そして、
そうした快楽や苦痛同士の影響関係は、特に、身体的快楽や社会的快楽といった自分の身体や現実の社会に直接関わる快苦であるほど、その連鎖的で相互的な傾向は強くなっていくと考えられることになります。
例えば、
仕事で大きなプランを成功させたといった成功体験は、心理的快楽の中でも社会生活における影響が強い一種の社会的な効用ないし社会的快楽であると考えられることになりますが、
そうした仕事上の成功体験としての社会的快楽からは、さらに以下のような別の効用や快楽が派生的に生じてくると考えられることになります。
仕事で大きなプランを成功させたとなれば、会社への貢献から、当人の社内での評価が上がっていくことになりますし、それに伴って、給料が増えたり、昇進が認められて出世するといったさらなる効用がもたらされる可能性も出てくると考えられることになります。
そして、そうした変化がさらに良い方向へと働けば、家庭内でも大黒柱としての信望が上がり、仕事での自信が家庭でも生き生きとした姿を見せることへとつながることで家庭生活も向上していく効果も表れるというように、様々な副次的効用が連鎖的にもたらされていくことになるのです。
しかし、その反面、
仕事を任せられる量が増えていくことによって仕事上の責任も増大していくことになれば、それがプレッシャーとなり心理的負担として重くのしかかってくることにもなりますし、
仕事が忙しくなり過ぎることによって家庭を顧みることがあまりできなくなり、家庭内での人間関係がギクシャクしてくるといったマイナスの効用が連鎖的に引き起こされてしまうこともあり得ると考えられることになります。
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以上のように、
現実の社会生活における一般的な状況では、身体的快楽や社会的快楽は、他の様々な快楽や苦痛との密接で相互的な影響関係のもとに成立していて、
そうした一つの快楽が元となって、そこから別の様々な種類の快楽と苦痛が互いに入り乱れるように継起していくことによって、快楽の多産性の概念が成立していると考えられることになります。
そして、
快楽計算におけるこうした快楽の多産性の概念に基づくと、
それ自体としては同じ強さや持続性をもった快楽でも、元の一つの快楽から他の様々な副次的快楽が連鎖的に数多く生み出されていくものほど、快楽の多産性の要素を満たす快楽であるとして、より価値の高い有用な快楽であるとみなされることになるのです。
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ちなみに、こうした身体的・社会的快楽に対して、
良い本を読んで感銘を受けた、素晴らしい映画を見て感動したといったある種の精神的快楽については、
今回取り上げたような快楽の多産性の概念はあまり適用されずに、単独でそれ自体でのみ成立するところが大きい快楽であり、特に、そこから苦痛やマイナスの効用が副作用として引き起こされることはほとんどない快楽であると考えられることになるのですが、
そうしたことについては、次回取り上げる快楽の純粋性の概念へと議論が引き継がれていくことになります。
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次回記事:快楽の純粋性とは何か?書物や芸術の世界から得られる純度の高い快楽、快楽計算とは何か?⑩
前回記事:朝三暮四の故事の教訓が快楽計算において成立しない理由とは?快楽計算とは何か?⑧
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