梅毒トレポネーマの具体的な特徴とラテン語における学名と梅毒という呼称の由来、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑥
前回の記事では、らせん菌(螺旋菌)と呼ばれる細菌のグループのなかでも、細長い螺旋状の形状をした菌体の構造という特徴を最も極端な形で体現した存在であるともいえるスピロヘータと呼ばれる細菌の種族の具体的な特徴やラテン語における名称の由来といった点について考察してきましたが、
こうしたスピロヘータと呼ばれるらせん菌の種族に分類されることになる代表的な細菌の種類としては、
梅毒トレポネーマや、回帰熱ボレリア、ライム病ボレリア、さらには、ワイル病レプトスピラや、腸管スピロヘータ症の病原体となるブラキスピラ・ピロシコリといったらせん菌の種類の名が挙げられることになると考えられることになります。
梅毒トレポネーマの具体的な特徴とラテン語における学名の由来
まず、こうしたスピロヘータと呼ばれる細菌の種族に分類される様々な細菌の種類のうち、はじめに挙げた
梅毒トレポネーマとは、幅0.1~0.2マイクロメートル、長さ6~20マイクロメートルほどの大きさをした細長い螺旋状の形状をしたグラム陰性の嫌気性らせん菌に分類される細菌の種族であり、
人間に対しては、主に性的な接触を介して感染を広げていくことになるため、性感染症の原因となる細菌の種類として位置づけられることになるほか、
先天梅毒と呼ばれるように、感染した妊婦の胎盤を通じて胎児に感染してしまうケースや、近年においては予防対策の進展によって日本国内における発症例は報告されていないものの、
エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)の原因となるHIVウイルスの感染の場合などと同様に、輸血用の血液製剤などを介して感染するケースなども可能的な感染経路として挙げられることになると考えられることになります。
ちなみに、
こうした梅毒トレポネーマと呼ばれる病原体のラテン語における正式な学名にあたるトレポネーマ・パリズム(Treponema pallidum)という名称に含まれているpallidum(パリズム)という言葉は、
もともと、ラテン語において、「青白い」「青ざめた」といった意味を表すpallidus(パリドゥス)という形容詞に由来する言葉であると考えられることになるのですが、
こうした梅毒トレポネーマと呼ばれる細菌は、暗視野照明を用いた光学顕微鏡による観察において、青白い光を放つ形で観測されることになるため、こうしたラテン語における学名が付けられることになったと考えられることになるのです。
梅毒における第一期から第四期までの症状の変遷と梅毒という呼称の由来
そして、
こうした梅毒トレポネーマ、あるいは、トレポネーマ・パリズムと呼ばれるらせん菌を病原体とする細菌感染症である梅毒においては、
感染してからだいたい3週間程度の潜伏期間を経たうえで、まずは、感染後3週間から3か月くらいまでの時期にあたる
第一期梅毒と呼ばれる段階において、外陰部や口唇部、口腔内などにおける無通性の小さな硬結(皮膚や粘膜の表面の一部に現れる硬い塊のような病変)や、鼠径部(股の付け根の部分)などにおけるリンパ節が腫れといった症状が現れたのち、それらの病変はさらに3週間くらいの間に徐々に自然消失していくことになります。
そして、その後、感染後3か月から3年くらいまでの時期にあたる
第二期梅毒と呼ばれる段階において、全身へと広がった梅毒トレポネーマによって、全身のリンパ節が腫れや、発熱や倦怠感、関節痛などといった症状が引き起こされることになるほか、バラ疹と呼ばれる左右対称に近い形で現れる小さい紅斑を特徴とする全身性の発疹などが現れるケースもあると考えられ、
現代においては、通常の場合、遅くともこうした第二期梅毒の段階までには患者が医療機関を受診したうえで、抗生物質などによる適切な治療を受けることによって、回復へと向かっていくことになるとと考えられることになります。
しかし、その一方で、
そうした抗生物質による適切な治療が施されることがなかった過去の時代などにおいては、さらにその先の段階へと梅毒の症状が進行していってしまうケースもあり、そうした感染後3年から10年くらいまでの時期にあたる
第三期梅毒と呼ばれる段階においては、皮膚や筋肉、さらには、骨などといった全身の様々な部位に、ゴム腫と呼ばれる柔らかいゴムのような弾力を持ったしこりなどの大小様々な腫瘤や結節が全身に非対称的に現れていくことによって、鼻や唇、顔面や頭蓋骨といった部位において不可逆的な変形が進行していってしまうことになり、
その後、梅毒の最終段階にあたる感染後10年以上経過したくらいの時期にまで到達してしまうことになると、そうした
第四期梅毒と呼ばれる段階において、大動脈炎や心内膜炎といった心血管系の病変や、脳や脊髄などにおける神経系の病変が致命的な形で進行していってしまうことによって、最終的には死に至ることになると考えられることになるのです。
ちなみに、
こうした「梅毒」という日本語における病名の由来としては、上述した梅毒の四段階の症状のうちの初期症状の段階にあたる第一期梅毒において、
皮膚の表面のなかでも、特に、口の周りや顔などに現れる硬結のような小さな病変、すなわち、瘡(かさ)の色や形状が、
夏の時期に紅紫色または暗紅色をした小さな実をつける
山桃(ヤマモモ)または楊梅(ようばい)と呼ばれる常緑高木の果実の姿に似ていて、かつては、楊梅瘡(ようばいそう)と呼ばれていたことから、
そうした「楊梅瘡」を引き起こす原因となる「毒」といった意味で、こうした「梅毒」とう呼称が用いられるようになっていったとも考えられることになるのです。
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次回記事:ライム病の具体的な特徴と病名の由来とは?スピロヘータに分類されるその他の代表的な細菌の種類①、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑦
前回記事:スピロヘータという名称のラテン語と古代ギリシア語における由来と細長い螺旋状の形状をした菌体の構造の仕組み、らせん菌に分類される代表的な細菌の種類とは?⑤
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