ヘラクレスの十二の功業とは?②遠い異国と世界の果ての伝説の島そして冥界をめぐる五つの功業の概要と旅の終わり
前回書いたように、ヘラクレスの十二の功業と呼ばれるギリシア神話における英雄ヘラクレスの偉業の物語においては、
まずは、彼が仕えていたエウリュステウス王が治めていたミケーネの周辺に位置していたネメア、レルネー、ケリュネイア、エリュマントス、エリス、ステュムパロスといったギリシア各地をめぐっていく旅として物語が進んでいくことになるのですが、
その後、こうしたヘラクレスの十二の功業と呼ばれる物語は、そうしたミケーネが位置していたペロポネソス半島を中心とするギリシア世界を飛び越えて、
トラキアやアマゾンといった遠い異国の地や世界の果ての伝説の島そして冥界をもめぐる冒険の旅として物語が展開していくことになります。
トラキアとアマゾンという異国の地をめぐる二つの功業の概要
前回書いたように、第七の功業を成し遂げてクレタの牡牛をミケーネへと連れ帰ることになったヘラクレスは、その次に、エーゲ海を越えて遠い異国の地へと赴いていくことになります。
そして、まず、
第八の功業としてヘラクレスは、ギリシアから見て北東の方角に位置するトラキア地方に住んでいたとされているビストーン族の王であったディオメデスが飼っていた獰猛な人喰い馬を彼から奪い取って連れて来るように命じられることになります。
ディオメデスの人喰い馬には、好戦的な蛮族であったビストーン族の人々の手によって、餌として人間の肉が与えられていたとも語り伝えられているのですが、
エーゲ海を北上していく長い航海の旅を経てトラキアの地へとたどり着いたヘラクレスは、この地でディオメデス王が飼っている人喰い馬の世話をしている者たちを見つけ出して、彼らを力でねじ伏せて馬を奪い取ることになり、
ヘラクレスがビストーン族の追っ手と戦っている間に、この馬を預けられることになった彼の従者であったアブデロスは、この怪力を持つ人喰い馬に引きずられていって殺されてしまうことになります。
そして、このことに深く心を痛めたヘラクレスは、人喰い馬を連れてミケーネの地へと戻る前に、殺されてしまった友人であるアブデロスのために、彼が死んだトラキアの地に墓を建て、
決してその名が忘れられることがないように、その墓の近くに彼の名が冠されたアブデラと呼ばれる都市を建設することになるのです。
そして、その次に、
第九の功業としてヘラクレスは、トラキア地方よりもさらに東方の現在のトルコが位置する小アジアの黒海周辺の地域などに居住していたとされているアマゾンたちの女王であったヒッポリュテの腰帯を手に入れるように命じられることになります。
アマゾンの腰帯として知られているこの帯は、もともとは、ギリシア神話における戦の神であったアレスの持ち物であったとされているのですが、
ギリシア神話において登場する伝説的な女戦士であったアマゾンたちの女王であったヒッポリュテは、彼女が率いるすべての戦士たちの統領である証として、アレスから授かったとされているこの美しい腰帯を身につけていたとされています。
そして、長い船旅の末に、そうした黒海の近くのアマゾンたちが暮らす奥地まで分け入って行ったヘラクレスは、この地でヒッポリュテと出会うことになり、
ゼウスの血を引く英雄ヘラクレスの勇ましい姿を目にした女王ヒッポリュテは、彼のことを歓待することになるのですが、
その後、女神ヘラからヘラクレスが女王をギリシアへと拉致しようとしているという偽りの密告を告げられて怒り狂うアマゾンの女戦士たちが大挙して殺到してきたことで女王に裏切られたと思ったヘラクレスは、
一緒にいたヒッポリュテを殺して、彼女から腰帯を奪うと、アマゾンたちの追撃をかわしながら急いで船へと乗り込んで出港してしまうことになるのです。
世界の果ての伝説の島と冥界をめぐる三つの功業の概要
そして、その次に、
第十の功業としてヘラクレスは、世界の西の果てにあるというエリュテイアと呼ばれる伝説の島に住むゲリュオネスが飼っているとされている紅色をした美しい牛を手に入れるように命じられることになります。
ゲリュオネスの紅の牛は、地獄の番犬であったケルベロスの兄弟にもあたるオルトロスという名の双頭の犬によって守られていて、
この犬の飼い主であるゲリュオネスも三つの頭と六本の腕と足を持つ異形の姿をした怪物であったとされているのですが、
ヘラクレスは、彼の行く手を遮るようにそびえ立つアトラス山を怪力によって打ち砕いて、二つに分かれた山の頂にヘラクレスの柱と呼ばれる二つの柱を建てたのち、
太陽神ヘリオスから与えられた黄金の杯に乗ってオケアノスの大河を越えて紅の牛がいる伝説の島エリュテイアへとたどり着いて紅の牛を手に入れることになるのです。
そして、その次に、
第十一の功業としてヘラクレスは、世界の北の果てにあるというヒュペルボレイオスと呼ばれる伝説上の民族が暮らしているとされる至福の土地において、ヘスペリデスと呼ばれる黄昏のニンフたちが守っているとされている黄金の林檎を持ってくるように命じられることになります。
ヘスペリデスの黄金の林檎は、アイグレー、エリュテイア、ヘスペリアー、アレトゥーサという名の四人のヘスペリスたちによって常に見張られていただけではなく、
怪物の王であるテュポーンとエドキナの間に生まれた百の頭を持つ不死の竜によって守られてもいたのですが、
海の老人ネレウスから黄金の林檎の木が生えているヘスペリデスの園の場所を聞き出したヘラクレスは、
天空を双肩で支えるという罰を課せられていた巨人アトラスのもとをたずねて、彼が林檎を取ってくるまでの間だけ天空が乗った円盤を支える役目を肩代わりすることによって黄金の林檎を手に入れることになるのです。
そして、最後に、
第十二の功業としてヘラクレスは、冥界の王であるハデスが支配する冥府の国を守る番犬であったケルベロスを連れて来るように命じることになります。
地獄の番犬ケルベロスは、三つの犬の頭と竜の尾とを持ち、背中からは無数の蛇が生えていているという巨大な三頭犬の怪物であり、冥界から逃げ出そうとする亡者を捕らえて食べてしまうという悪しき亡者たちを懲らしめる役目を担っていたのですが、
ペロポネソス半島の最南端にあたるタイナロンの岬の近くにあったとされる冥界の入口から地下の世界へと降りていったヘラクレスは、
冥界の王であるハデスから、ヘラクレスが武器を使わずに、自分が持つ怪力のみによってケルベロスのことを圧伏させることを条件としてこの巨大な犬を地上へと連れ出す許しを得たのち、皮の鎧と胸当てを身につけただけの素手の状態で地獄の三頭犬であるケルベロスに戦いを挑んでいくことになり、
ヘラクレスは、そのままケルベロスの三つの頭をまとめて両腕で抱え込んで締め上げると、そのまま力でねじ伏せてエウリュテウス王の待つミケーネの地まで連れて行くことによって、ついに十二の功業のすべてを成し遂げることになるのです。
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次回記事:ヘラクレスの「十の難行」と「十二の功業」の違いとは?デルポイの巫女が告げる十の仕事とミケーネの王が除外した二つの仕事
前回記事:ヘラクレスの十二の功業とは?①ギリシア各地をめぐる七つの功業の概要とペロポネソス半島を中心とする旅の軌跡
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「ヘラクレスの十二の功業」についての記事の一覧
①ヘラクレスの第一の功業とネメアの獅子との三日三晩にわたる死闘、ヘラクレスの十二の功業①
②ヘラクレスの第二の功業とレルネーのヒュドラとの九つの頭と一つの不死の頭をめぐる戦い、ヘラクレスの十二の功業②
③ヘラクレスの第三の功業とケリュネイアの鹿の生け捕りの際にかわされた女神アルテミスとの問答、ヘラクレスの十二の功業③
④ヘラクレスの第四の功業とエリュマントスの猪の生け捕りの際に起きたケンタウロス族との争い、ヘラクレスの十二の功業④
⑤ヘラクレスの第五の功業とアウゲイアスの家畜小屋の掃除での川の水の力を利用した大胆な掃除方法、ヘラクレスの十二の功業⑤
⑥ヘラクレスの第六の功業とステュムパロスの鳥退治で用いられた巨人の眠りを覚ます青銅のガラガラ、ヘラクレスの十二の功業⑥
⑦ヘラクレスの第七の功業におけるクレタの牡牛との格闘とマラトンの地へと流れ着く聖なる牡牛、ヘラクレスの十二の功業⑦
⑧ヘラクレスの第八の功業におけるディオメデスの人喰い馬の強奪とヘラクレスの友人アブデロスの死、ヘラクレスの十二の功業⑧
⑨ヘラクレスの第九の功業におけるアマゾンの腰帯の強奪と女王ヒッポリュテの悲劇、ヘラクレスの十二の功業⑨
⑩ヘラクレスの第十の功業とゲリュオネスの紅の牛を求めて伝説の島エリュテイアへと向かう冒険の旅、ヘラクレスの十二の功業⑩
⑪ヘラクレスの第十一の功業とヘスペリデスの黄金の林檎を求めて向かう極北の光の地への旅、ヘラクレスの十二の功業⑪
⑫ヘラクレスの第十二の功業における地獄の番犬ケルベロスとの戦いと冥界で現れたメドゥーサの幻影、ヘラクレスの十二の功業⑫