パラス・アテナのギリシア神話における二つの由来とは?巨人パラスとの戦いと女神アテナの親友であった少女パラスの悲劇
前回の記事で書いたように、ギリシア神話における知恵の女神であるアテナは、その誕生に際して、兜とマントを装備した状態で生まれてきたとされているように、戦略や軍備などを司る軍神としても位置づけられていくことになるのですが、
こうした軍神としての特徴を合わせ持つ知恵の女神であるアテナの存在は、一般的には、パラス・アテナという呼び名を用いても呼び表されていくことになります。
そこで、今回の記事では、
こうしたパラス・アテナという呼び名に用いられている「パラス」とは、古代ギリシア語の語源となる意味においては、もともとどのような意味を持つ言葉であったと考えられることになるのか?
そして、ギリシア神話においては、具体的にどのような経緯から、女神アテナに対してこうした呼称が用いられるようになっていったと考えられることになるのか?ということについて詳しく考えていきたいと思います。
パラス・アテナという呼称の古代ギリシア語における語源的な意味
そうすると、まず、
こうしたパラス・アテナ(Pallas Athena)という女神アテナの呼び名において用いられているパラス(Pallas、Παλλάς)という言葉は、語源学的な意味においては、
もともと、古代ギリシア語において、「武器を振り回す」といった意味を表す動詞であったπάλλω(パロー)という言葉から派生してできた呼び名であったと考えられることになります。
つまり、そういった意味では、
こうしたパラス・アテナという女神アテナの呼称は、学芸や工芸といった本来は戦争や軍事などとは対極にある分野を司る知恵の女神であるはずのアテナが、ギリシア神話においては、
武器を振り回して戦い、敵を打ち倒していくという荒々しい側面もある神としても描かれていることから、こうした呼び名が用いられていくことになっていったと考えられることになるのですが、
ギリシア神話の物語のなかでは、こうしたパラス・アテナという女神アテナの呼び名の具体的な由来については、以下で述べるような二つの別々の物語が語られていくことになります。
ギガントマキアにおいて巨人パラスの皮を剥いで作られた女神アテナの鎧
詳しくは「ギガントマキアにおけるオリュンポスの神々とガイアが生んだ十二体のギガースたちの戦い」の記事で書いたように、
ギリシア神話においては、
ゼウスを盟主とするオリュンポスの神々と、その支配に反抗するギガースと呼ばれる巨人たちの間で、ギガントマキアと呼ばれる神々の戦いが繰り広げられていくことになるのですが、
こうしたギガントマキアと呼ばれる神々の戦いにおいては、この物語のなかで登場する十二体のギガースのうちの一体としてパラスという名の巨人が女神アテナの前に現れ、彼女に対して戦いを挑んでいくことになります。
そして、アテナは、
そうした強大な力を持つ巨人であるパラスのことも、自らが持つ巧みな戦略と優れた武器と防具の力によって打ち倒してしまい、女神アテナは、その勝利の証として、
自分が打ち倒した巨人パラスの皮を自らの手によって剥ぎ取って、その皮を自分の鎧に張り付けることによって、さらに強大な防具の力を手にしていくことになり、
こうした巨人パラスとの戦いにおける女神アテナの勝利のことを記念して、彼女に対してパラス・アテナという呼称が用いられるようになっていったとも伝えられていくことになるのです。
女神アテナの親友であったギリシア神話における少女パラスの悲劇
それに対して、ギリシア神話におけるもう一つの物語のなかでは、
女神アテナが、幼少時代に自らの親友として、共に戦闘の技を競い合っていたパラスという名の少女の存在についても語られていくことになります。
父親であるゼウスの頭の中から兜とマントを装備した状態で誕生した女神アテナは、自分のことをすぐそばで守り育ててくれる母親がいなかったため、
その幼少期においては、
ゼウスの兄であったポセイドンの息子にあたるトリトンという名の海の神のもとで育てられていくことになり、
アテナは、トリトンの娘であったパラスと共に育てられていくなかで、彼女との間に深い友情を育んでいき、一緒に遊びながら、戦いの技を身につけていくための修行に励んでいくことになります。
そして、ある時、
アテナとパラスの二人の少女の間で行われていた戦いの訓練が激しくなり、パラスの持つ槍が、今にもアテナの体を貫いてしまいそうになると、
そうした二人の戦いの様子を天界から眺めていたアテナの父であるゼウスは、自分の大切な娘が傷つけられてしまうことを恐れて、天空から神々を守る至上の防具であるアイギスの盾を彼女のもとに差し出してしまうことになります。
そして、
突然、自分の目の前に天空から現れた巨大な盾の出現に驚いたパラスは、思わず上を見上げてしまうことになるのですが、
その一瞬の隙に、今度はアテナが振り上げていた槍が、自分の親友であるパラスの体を貫いてしまうことによって、彼女は命を落としてしまうことになります。
そして、
自らの手によって自分の大切な親友の命を奪ってしまった女神アテナは、そのことを深く悔いて嘆き悲しみ、このことを自らの戒めとして、彼女のことを常に忘れることがないようにするために、
それからは、
女神アテナは、自分の名前の前に、自らの手によって命を奪ってしまった親友の名を冠して、自分のことをパラス・アテナと名乗るようになったとも語り伝えられているのです。
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次回記事:女神アテナが持つ盾と兜と鎧という三つの防具のギリシア神話における由来とは?至上の防具であるアイギスの盾とイージスの盾
前回記事:知恵の女神アテナが軍事や戦争を司る軍神でもある理由とは?ギリシア神話で生まれずじまいに終わったアテナの弟との関係
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