遺伝子構造の違いに基づくウイルスの七つのグループと代表的なウイルスの種類の総まとめ、DNAウイルスとRNAウイルス⑬
前回図解したように、
世界に存在するすべてのウイルスは、DNAウイルスとRNAウイルスの二種類に大別されることになるのですが、
DNAウイルスとRNAウイルスのそれぞれにおける二本鎖と一本鎖の違い、RNAウイルスにおける+鎖と-鎖の違い、逆転写酵素の有無といった、ウイルスの遺伝子構造の重要な部分を担う他の要素も含めると、
自然界に存在するすべてのウイルスは、分子生物学においては、ボルティモア分類と呼ばれる七つのグループに分類されることになります。
ボルティモア分類におけるウイルスの分類基準と、それぞれのウイルスグループの具体的な特徴については、「ボルティモア分類におけるウイルスの遺伝子構造の四つの違いと七つの分類とは?」で詳しく考察しましたが、
今回は、
こうした分子生物学におけるウイルスの一般的な分類様式であるボルティモア分類において、それぞれのウイルスグループには、具体的にどのような種類のウイルスが分類されることになるのか?ということについて、詳しく図解していく形でまとめ上げることで、今回のウイルスシリーズの最後をしめくくりたいと思います。
遺伝子構造の違いに基づくウイルスの七つのグループと代表的なウイルスの種類
ボルティモア分類において、自然界に存在するすべてのウイルスは、
二本鎖DNAウイルス、一本鎖DNAウイルス、二本鎖RNAウイルス、一本鎖RNA+鎖ウイルス、一本鎖RNA-鎖ウイルス、一本鎖RNA逆転写ウイルス、二本鎖DNA逆転写ウイルスという七つのグループへと分類されることになりますが、
それぞれのウイルスグループ同士の関係と、個々のウイルスグループに分類される代表的なウイルスの種類についてまとめると、以下の図のようになります。
上図を見れば分かる通り、
自然界に存在するウイルスの多数派はRNAウイルスのグループであり、DNAウイルスのグループはどちらかというと少数派ということになります。
そして、
その少数派のDNAウイルスの中でも、
生物の細胞におけるDNAには決して見られない構造である一本鎖のDNA構造を持ったウイルスや、通常のDNAからRNAへの遺伝子の転写経路を逆転させてRNAからDNAへと遺伝子の転写を行うことを可能とする特殊な酵素である逆転写酵素を持つウイルスはさらに少数派の例外的な構造を持ったウイルスということになり、
そうした少数派の中の少数派であるウイルスグループである二本鎖DNA逆転写ウイルスにはB型肝炎ウイルスが、一本鎖DNAウイルスにはパルボウイルスがそれぞれ代表的なウイルスとして分類されることになります。
そして、
ウイルスの分類においては比較的少数派であるDNAウイルスの中では多数派にあたる二本鎖DNAウイルスのウイルスグループには、
天然痘ウイルス、ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、サイトメガロウイルス、アデノウイルスといった種類のウイルスが代表的なものとして挙げられることになります。
次に、
ウイルスの分類においては多数派にあたるRNAウイルスのグループについてですが、RNAウイルスの場合もDNAウイルスの場合と同様に、
まずは、二本鎖か一本鎖かという鎖の本数の違いによってグループが二つに分けられることになります。
そして、そのうち、
RNAウイルスの中では少数派にあたる二本鎖RNAウイルスにはロタウイルスが代表的な種類のウイルスとして分類されることになります。
それに対して、
ウイルス分類のうちの多数派の中の多数派である一本鎖RNAウイルスについては、
遺伝子となるRNAの種類が、生物のDNAにおいてタンパク質の合成を行うための遺伝情報を直接担っているセンス鎖(+鎖)にあたるのか、それとも伝令RNAを作るための鋳型として働くアンチセンス鎖(-鎖)にあたるのかによって、
一本鎖RNA+鎖ウイルスと一本鎖RNA-鎖ウイルスという二つのグループにさらに分けられることになります。
そして、
一本鎖RNA+鎖ウイルスには、ライノウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、コロナウイルス、風疹ウイルス、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス、ジカウイルス、マールブルグウイルス、エボラウイルスといったウイルスの種類が、
一本鎖RNA-鎖ウイルスには、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ジカウイルス、ラッサウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスといったウイルスの種類がそれぞれ分類されることになるのです。
そして、
一本鎖RNAウイルスの中でも逆転写酵素を持つウイルスは、DNAウイルスの場合と同様に、さらに別枠に分類さることになるのですが、
そうした一本鎖RNA逆転写ウイルスにはエイズ(後天性免疫不全症候群)を引き起こすHIVウイルスが分類されることになります。
ちなみに、
逆転写酵素を持つウイルスは、DNAウイルスでは二本鎖DNAウイルス、RNAウイルスにおいては一本鎖RNAウイルスの+鎖タイプのウイルスにおいてのみ発見されているので、
事実上、DNA逆転写ウイルスは二本鎖DNAウイルスの下位分類に、RNA逆転写ウイルスは、一本鎖RNAウイルス+鎖ウイルスの下位分類に位置づけられると考えられることになります。
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以上のように、
自然界に存在するすべてのウイルスは、遺伝物質はDNAかRNAか?、遺伝子は二本鎖か一本鎖のいずれか?、RNAウイルスの場合の鎖の種類は+鎖と-鎖のどちらなのか?、逆転写酵素を持っているか否か?というウイルスの遺伝子構造の違いに基づいて、
上述した七つのウイルスグループに分類され、それぞれのウイルスグループには、上図で示したように、様々な種類のウイルスが分類されることになるのです。
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このシリーズの初回記事:天然痘ウイルスの撲滅にワクチン接種が有効であった理由とは?DNAウイルスとRNAウイルス①
前回記事:ボルティモア分類におけるウイルスの遺伝子構造の四つの違いと七つの分類とは?DNAウイルスとRNAウイルス⑪
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