DNAウイルスとRNAウイルスの違いと代表的なウイルスの種類のまとめ、DNAウイルスとRNAウイルス⑫
自然界に存在するすべてのウイルスは、遺伝子構造の違いに基づいて、DNAウイルスとRNAウイルスという二つの種類に大別されることになるのですが、
今回は、そうしたDNAウイルスとRNAウイルスにおける遺伝子構造や性質の違いと、それぞれの分類に属するウイルスの代表的な種類について図解していく形で改めてまとめてみたいと思います。
DNAウイルスとRNAウイルスの違いとは?
DNAウイルスとRNAウイルスの違いは、一言で言うと、
DNAウイルスはウイルス核の内部に遺伝物質としてDNA(デオキシリボ核酸、deoxyribonucleic acid)を持つのに対して、
RNAウイルスは遺伝物質としてRNA(リボ核酸、ribonucleic acid)を持つという遺伝子を担う遺伝物質の種類の違いに求められることになります。
※ちなみに、DNAとRNAというそれぞれの遺伝物質の具体的な構造の違いについては、詳しくは「DNAとRNAの違いとは?①デオキシリボ核酸という言葉の由来と両者の物理的構造の違い」で書きましたが、一言で言うと、DNAはRNAよりも酸素原子が一つ少ない構造を持つ糖によって構成される遺伝物質ということになります。
そして、こうした遺伝物質の構造の違いに基づいて、
通常、DNAウイルスでは、生物の細胞における遺伝子と同様の二重らせん構造をした二本鎖の構造がとられ、
それに対して、RNAウイルスでは、より単純な一本鎖の構造がとられることになります。
そして、
二本鎖の構造をとるDNAウイルスの場合では、ウイルスの遺伝子は、二本の鎖が互いのデータを補い合う相補的で安定した構造を持つことになるのですが、
それに対して、
一本鎖の構造をとるRNAウイルスの場合では、ウイルスの遺伝子は、バックアップデータとなる対となる鎖を持たない単独で不安的な構造を持つことになります。
しかし、
こうしたRNAウイルスや一本鎖のウイルスにおける遺伝的な不安定性は、必ずしもウイルスの増殖と勢力の拡大にとって不利になるわけではなく、
同一の遺伝的な性質を長く保持し続けることができない反面、ウイルス自体の遺伝的性質が常に変化し続けていくことによって、宿主となる生物の免疫系をかいくぐったり、ワクチンや抗ウイルス薬に対する耐性を早く身につけやすいといったウイルスにとって有利な特徴にもつながっていくことになるのです。
そして、
こうしたDNAウイルスとRNAウイルスというそれぞれの分類に属する代表的なウイルスの種類についてまとめると、以下の図のようになります。
DNAウイルスとRNAウイルスに分類される代表的なウイルスの種類
まず、
DNA(デオキシリボ核酸)を遺伝物質として持ち、遺伝子の安定性が高い反面、変異スピードが遅いウイルスの分類であるDNAウイルスに分類される代表的なウイルスの種類としては、
天然痘ウイルス、ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、サイトメガロウイルス、アデノウイルス、B型肝炎ウイルスなどのウイルスの名前が挙げられることになります。
このうち、
天然痘ウイルスは、非常に強い感染力と20%から50%程度にものぼる致死率の高さを持つ極めて強力なウイルスですが、
DNAウイルスの遺伝的な安定性の高さを逆用して、人類がワクチン接種の普及によって自然界から完全に駆逐することに成功した最初のウイルスともなっています。
次のヘルペスウイルスは、免疫力が低下した際に皮膚に痛みの伴う水泡をつくるウイルスであり、風邪の治りかけに唇の角などにできることのある「風邪のはな(風邪の華)」や「熱のはな(熱の華)」などと呼ばれるピリッとした吹き出物のような水疱の原因となるウイルスでもあります。
そして、その次の水痘・帯状疱疹ウイルスは、その名の通り水ぼうそう(水疱瘡)や帯状疱疹の原因となるウイルスであり、
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸癌の原因となることで知られているウイルス、
サイトメガロウイルスは、日和見感染症として、抗がん剤などの化学治療や自己免疫疾患に対するステロイド治療、HIVウイルスの感染によるエイズの発症などで免疫力が著しく低下した際に、肺炎や髄膜炎、腸炎などの重篤な疾患を引き起こすウイルスです。
そして、
アデノウイルスは、いわゆるのど風邪や、夏にはやる咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎などを引き起こすウイルス、
B型肝炎ウイルスは、感染が進行すると、慢性肝炎を引き起こし、肝硬変さらに肝細胞癌へと進行する原因ともなるウイルスとなっています。
一方、
RNA(リボ核酸)を遺伝物質として持ち、遺伝子としての安定性が低い代わりに、変異スピードが速いウイルスの分類であるRNAウイルスに分類される代表的なウイルスの種類としては、
ライノウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ロタウイルス、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、
さらには、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、リフトバレー熱ウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス、ジカウイルス、
そして、ラッサウイルス、マールブルグウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、エボラウイルスといったより多くのウイルスの種類が挙げられることになります。
このうち、
ライノウイルスは鼻かぜ、ノロウイルス、エンテロウイルス、ロタウイルスは主に腹かぜや食中毒の原因となるウイルスであり、コロナウイルスはせき風邪の原因となるウイルス、
インフルエンザウイルスおよび麻疹ウイルスと風疹ウイルスは、その名の通り、それぞれインフルエンザおよび麻疹と風疹の原因となるウイルスとなっています。
そして、
A型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスは、前述したDNAウイルスに分類されるB型肝炎ウイルスと同様に、ウイルス性肝炎を引き起こすウイルス、
HIVウイルスは、リンパ球などの免疫細胞に感染を広げ、エイズ(後天性免疫不全症候群)と呼ばれる免疫不全を引き起こすウイルスということになります。
次の日本脳炎ウイルスは、蚊によって媒介されるウイルスであり、発症率は0.1% から高くても1%程度と非常に低いものの、一度発症すると高熱や痙攣、意識障害といった重度の脳炎の症状を引き起こし、致死率は30%程度にものぼるウイルスとなっています。
そして、黄熱ウイルス、ウエストナイルウイルス、リフトバレー熱ウイルス、デングウイルス、チクングニアウイルス、ジカウイルスは、すべて蚊によって媒介される熱病の原因となるウイルスであり、
最後のラッサウイルス、マールブルグウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、エボラウイルという四つのウイルスは、高熱や全身の関節や筋肉の痛み、歯茎からの出血や皮下出血、皮膚の点状出血といった出血熱の症状を引き起こすウイルスで、
致死率もエボラ出血熱の50~90%を筆頭に非常に高い致死率が並んでいて、そのすべてがバイオセーフティーレベル4に分類される最も危険性の高いウイルスとなっています。
・・・
以上のように、
自然界に存在するすべてのウイルスは、DNAウイルスとRNAウイルスという二つの種類に大別され、
それぞれのウイルスの分類区分には、上図で示したような代表的な種類のウイルスが具体的に分類されることになります。
しかし、厳密に言うと、
生物の細胞におけるDNAが必ず二重らせん構造をした二本鎖の構造をしているのとは異なり、
ウイルスの場合は、DNAウイルスでも遺伝子が一本鎖である場合や、RNAウイルスでも遺伝子が二本鎖であるといった、生物の細胞における遺伝子の構造からみると例外的な構造をしたウイルスも存在するので、
厳密に言うと、ウイルスにおける遺伝子構造の違いのすべてを上図のようなDNAウイルスとRNAウイルスという二つの分類の枠組みだけで説明し尽くすことは難しいと考えられることになります。
そこで、
前回取り上げたように、分子生物学においては、ボルティモア分類と呼ばれるより細分化されたウイルスのグループ分けがなされていくことになるのですが、
こうしたボルティモア分類における七つのウイルスのグループのそれぞれを代表する具体的なウイルスの種類については、また次回、図解していく形で、詳しくまとめてみたいと思います。
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次回記事:遺伝子構造の違いに基づくウイルスの七つのグループと代表的なウイルスの種類の総まとめ、DNAウイルスとRNAウイルス⑬
前回記事:ボルティモア分類におけるウイルスの遺伝子構造の四つの違いと七つの分類とは?DNAウイルスとRNAウイルス⑪
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