ノロウイルスという名前はいつ頃から使われるようになったのか?国際ウイルス学会での命名の見直しとサポウイルスとの関係
以前に「食中毒の原因となる代表的な五つのウイルスの種類と具体的な特徴」の記事などで詳しく書いたように、日本国内において発生する食中毒の原因となる代表的なウイルスの種類としては、
ノロウイルス、ロタウイルス、サポウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスという全部で五つのウイルスの種類が挙げられることになります。
そして、
こうした五つの種類のウイルスのうちのなかでもウイルス性の胃腸炎や食中毒を引き起こす最も代表的なウイルスとしては、ノロウイルスと呼ばれるウイルスの種族が挙げられることになるのですが、
こうしたノロウイルスという名前自体は、2000年以降の時代になってから新たに命名されることになった比較的歴史の浅いウイルスの名称であると考えられることになります。
ノーウォークウイルスの発見と小型球形ウイルスとしての命名
そもそも、
現代においてはウイルス性の胃腸炎や食中毒を引き起こす代表的なウイルスとして広く知られているノロウイルスと呼ばれる病原体が人類史上においてはじめて発見されたのは、1968年のアメリカにおいてであり、
当時、アメリカのオハイオ州ノーウォークの小学校において発生した集団食中毒において検出されたウイルスが、そのウイルスがはじめて発見された地名にちなんで、ノーウォークウイルス(Norwalk virus)と名付けられたのが最初であったと考えられることになります。
そして、その後、
1972年に、電子顕微鏡による観察においてこうしたノーウォークウイルスと呼ばれる病原体の形状が明らかとなると、このウイルスはその形態的な特徴にも基づいて、小型球形ウイルス(Small Round-Structured Virus)すなわちSRSVと命名されることになり、
その後しばらくは、のちにノロウイルスとして知られることになるこのウイルスは、専門的にはこうしたSRSV(小型球形ウイルス)という名称で呼ばれていくことになっていったと考えられることになるのです。
国際ウイルス学会におけるノロウイルスの命名とサポウイルスとの関係
そして、
こうしたウイルス学会におけるSRSVあるいは小型球形ウイルスといった呼び名の用いられ方に変化が生じるきっかけとなったのが、
以前に「サポウイルスによる食中毒の症状とウイルス名の由来」の記事でも取り上げた1977年における日本の北海道の札幌市の児童福祉施設において集団発生した胃腸炎において初めて詳細な報告がなされたのちにサポウイルスとして知られることになるサッポロウイルス(Sapporo virus)の発見であると考えられることになります。
こうして新たに発見されたサッポロウイルスと呼ばれるウイルスは、前述したのちにノロウイルスとして知られることになるSRSV(小型球形ウイルス)と同じカリシウイルス科(Caliciviridae)に分類されるウイルスであり、
その後の研究において、こうした二つのウイルスは互いに非常に通った構造を持つウイルスの種族であることが明らかになっていくのですが、
このように、
それまでSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれていたウイルスとほとんど同じような構造をした新たなウイルスの種族が発見されてしまうことによって、
それまでのように、小型球形ウイルスというようなウイルスの形状のみに基づく名称によって、こうした二つのウイルスの種類を互いに区別していくことに、徐々に不都合が生じていくことになっていったと考えられることになるのです。
そして、その後、
1992年における関東地方でのサッポロウイルスの集団感染を経たのちに、1993年のイギリスにおいて、こうしたサッポロウイルスと呼ばれるウイルスの種族についての完全なゲノム解析すなわち遺伝情報の分析が完了することになると、
さらにその後の2002年のパリにおいて開かれた国際ウイルス学会において、こうしたサッポロウイルスとSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれてきた二つのウイルスの種族の命名のあり方についての抜本的な見直しが行わることになり、
こうした2002年に開かれた国際ウイルス学会において、こうした二つのウイルスの種族のうちの前者であるサッポロウイルスが属するウイルスの種族名が新たに「サポウイルス属」(Sapovirus)と命名され、
それに対して、
こうした二つのウイルスの種族のうちの後者であるそれまでSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれてきたウイルスの種族名が新たに「ノロウイルス属」(Norovirus)と命名されたというのが、
こうしたノロウイルスとサポウイルスと呼ばれるウイルス性の胃腸炎や食中毒の原因となる二つのウイルスの種族の名前が現代において知られている形へと定まることになった具体的な経緯のあらましであると考えられることになるのです。
・・・
以上のように、
現代の日本において、ウイルス性の胃腸炎や食中毒を引き起こす代表的なウイルスとして広く知られているノロウイルスという名前自体は、
2002年に開かれた国際ウイルス学会におけるウイルスの命名の見直しにおいて新たに定められた比較的歴史の浅いウイルスの名前であると考えられることになるのです。
・・・
次回記事:ノロウイルスとノーウォークウイルスはどちらが正しい名称なのか?ウイルス学における属名と種名の違いに基づく定義
前回記事:不完全なウイルスであるサブウイルス粒子の三つの分類とは?ウイロイドとプリオンとサテライトウイルスの特徴の違い
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