快楽計算の七つの要素の具体的な性質のまとめ、至上の快楽とは何か?快楽計算とは何か?⑮
これまでの功利主義における快楽計算の原理について考える一連のシリーズにおいては、
快楽の強度、持続性、確実性、遠近性、多産性、純粋性、適用範囲という快楽計算を構成する七つの要素がそれぞれ具体的にどのような概念であり、それぞれの要素が快楽計算においてどのような形で評価されていくことになるのか?ということについて考えてきました。
そこで、この快楽計算のシリーズの最後にあたる今回と次回の記事では、
これらの快楽計算を構成する七つの要素について、その具体的な性質を改めてまとめ上げたうえで、
その考察の中で浮かび上がってきた身体的快楽と精神的快楽における快楽計算のあり方の違いについて考えていきたいと思います。
快楽計算を構成する七つの要素のまとめ
快楽計算を構成する七つの要素のそれぞれが具体的にどのようなものであるのか?ということについて改めてまとめ上げると、それは以下のようなものであると考えられることになります。
まず、
快楽の強度とは、快楽計算を基礎づける最も基本的な要素であり、それは、快楽をもたらすそれぞれの事柄について人間が感じる快感の強さというになります。
そして次に、
快楽の持続性とは、現在存在する快楽の時間的な効力の範囲のことを示す概念であり、
それに対して、
快楽の確実性とは、将来得られる予定の快楽が実際に実現する確率の高さのことを示す概念、
快楽の遠近性とは、将来得られる予定の快楽についての現在から見た時間軸上の遠近関係を示す概念ということになります。
そして、
快楽の多産性とは、一つの快楽がそれ自体だけでは完結せずに、他の快楽を副次的に生じさせていくあり方のことを、
快楽の純粋性とは、快楽が他の負の効用を副作用として生じさせてしまうことなしに、苦痛が混じることのない純然たる快楽としてのみ存在するあり方のことを示す概念であり、
最後に、
快楽の適用範囲とは、一つの快楽を共有できる人々の範囲の広さのことを指す概念ということになります。
そして、上記の要素のそれぞれについて、
快楽の強さは強ければ強いほど、持続性は長く続くほど、確実性については実現する確率が高いほど、遠近性は近ければ近いほど、
多産性については副次的に生み出される快楽の数が多ければ多いほど、純粋性については副作用として混じる苦痛の割合が少ないほど、そして適用範囲については快楽を共有できる人々の範囲が広ければ広いほど価値の高い快楽であるとみなされることになります。
そして、快楽計算においては、上記のそれぞれの要素が互いに掛け合わされていくことによって、その快楽が有する全体的な効用の大きさが適切に評価されていくと考えられることになるのです。
快楽計算と功利主義が求める至上の快楽とは何か?
以上のような快楽計算を構成する七つの要素についての定義を踏まえると、
上記の七つの要件のすべてを十全に満たす至上の快楽とは以下のようなものであると考えられることになります。
それは、強度において優れて強く、その快楽は永遠と言えるほどに長く続く永続的なものであり、それは確実に獲得することができ、すぐに手が届くような極めて近い将来に実現する快楽であり、
そこからは、他の様々な快楽が湯水のように次々と湧き出でて、それ自体からはいかなる苦痛も副作用として生じることのない純然たる快楽であり、
そのような全き最上の快楽が、限りなく多くの人々によって共有されている状態こそが、快楽計算とそれが基づく功利主義が求める至上の快楽のあり方であると考えられることになるのです。
しかし、実際には、
ある快楽は上記の七つの要件の内の一つの要素は十分に満たすが他の一つの要素については全く欠けているとか、別の快楽はどの要件もある程度満たしてはいるがどの点においても際立って優れているところはないというように、
上記のすべての要件を同等に最大限に満たすような快楽を得ることは現実には不可能と言えるほどに困難なことであると考えられることになります。
そして、そのような中でも、
全体的な効用の大きさがより大きくなるような妥協点を見つけ出すことによってより優れた快楽のあり方を追求し、それを実現させていこうとするのが快楽計算とその前提にある功利主義の思想であると考えられることになるのですが、
そうしたより優れた快楽のあり方を追求していく快楽計算においては、
その計算の対象となるものが身体的快楽であるのか?それとも精神的快楽であるのか?という対象となる快楽の種類の違いによって、
計算を行うための前提や基準が大きく異なることになってしまうとも考えられることになるのです。
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次回記事:身体的快楽と精神的快楽における快楽計算のあり方の根本的な違いとミルの質的功利主義への道、快楽計算とは何か?⑯
前回記事:精神的快楽における個人の効用の逓減なき無制限の適用範囲の拡大、快楽計算とは何か?⑭
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