現代物理学における四つの根源的な力の統一と万物理論、世界はいくつの元素からできているのか?⑤
前回書いたように、
現代物理学の標準理論においては、
世界に存在するあらゆる物理的存在は
17種類の素粒子から構成されることになりますが、
世界を構成する根源的な存在を
粒子ではなく力という観点から見るとき、
世界全体は四つの根源的な力の相互作用によって
成立していると捉えられることもできます。
世界を構成する四つの根源的な力
磁力、電力、分子間力、摩擦力、浮力、揚力、表面張力といった
自然界に存在するありとあらゆる力のすべては、
現代物理学においては、以下の四つの力の相互作用によって
説明することができるとされています。
その物理学における四つの根源的な力とは、
電磁気力(電磁力)、
弱い相互作用(弱い核力)、
強い相互作用(強い核力)、
重力
という四つの力です。
電磁気力(electromagnetic force)とは、
光子によって媒介される電磁力のことを示す概念で、
自然現象などのマクロレベルにおいては、
電気と磁気という二つの力に分けて捉えられる概念でもあります。
マクロレベルでは、磁石が鉄などの磁性体を引きつける現象や、
静電気が軽い物体を引きつける現象、雷や稲妻、
電気通信やX線写真(レントゲン写真)などの現象や技術が
電磁気力によって説明されることになります。
これに対して、
相互作用(interaction)や核力(nuclear force)と呼ばれる概念は、
素粒子同士の間で働く一種の引力のことを示す概念です。
強い相互作用(strong interaction、強い核力)が
陽子と中性子の総称である核子が原子核内で結合する力などの
粒子間で働く強い結合力の源となる力の概念であるのに対して、
弱い相互作用(weak interaction、弱い核力)の方は、力としては非常に微弱ですが
電子やニュートリノといった質量の小さい粒子の間にも働く力となっています。
そして、
以上の電磁気力と強い相互作用、弱い相互作用という三つの力に、
時空間の一種の歪みである重力場を形成する
重力という力の概念を加えて、
宇宙全体を支配している四つの根源的な力のすべてが
枚挙されることになるのです。
四つの力を統一する万物理論への試み
そして、次に、
こうして数え上げられた四つの根源的な力について
そのすべてを一なる力、一なる根源的原理へと統一しようとする
試みがなされることになります。
こうした力の概念の統一の試みにおいて、
はじめの二つの力である電磁気力と弱い相互作用の統一は
電弱統一理論によって既に完成しているのですが、
三つの力である電磁気力と弱い相互作用と強い相互作用の統一は
大統一理論によってその解決への見通しは立てられてはいるものの
この理論に基づいて可能となるはずの陽子崩壊などの現象が
いまだ実験では確認されていないため、実証されるまでには至っていません。
そして、
四つの力のすべてを統一する
万物理論(Theory of Everything、通称TOE)については、
現代物理学の標準理論を超える新たな理論が必要となるのですが、
いまだ万物理論の核となりうる理論の原型が定まっているわけではなく、
現時点においては、そうした新たな理論の候補として、
5つの超弦理論を筆頭に、万物理論の原型となる可能性のある
様々なアイディアが提出されている段階に過ぎません。
以上のように、
四つの力のそれぞれがどのような相互関係にあるのか?
それぞれの力は互いにどのよう関係にあり、
どのような形で相互転換が可能なのか?
といった問いについては、現代物理学の理論においても
いまだ完全な形としては明らかにされていないのですが、
物理学者たちのいわば、ある種の使命感と直観的確信のもと、
こうした四つの力をより根源的な一なる力へと統一する
万物理論への探求が続けられているのです。
・・・
このシリーズ全体を通じて考えてきたように、
世界はいくつの元素からできているのか?
という万物の始原についての根源的な問いは、そもそも、
紀元前6世紀のタレスにおける古代ギリシア哲学の思想に始まる
ことになるのですが、
こうした万物の始原(アルケー)すなわち、
すべての存在の元となるものとしての元素と根源的原理についての探求は、
エンペドクレスの四元素説から
デモクリトスの古代原子論へとつながっていくことになります。
そして、中世における長い断絶を経たうえで、原子論の思想が
近代原子論として近代化学の学問分野において新たな形で甦り、
さらに、現代物理学における素粒子説や万物理論への試みへと
つながっていったと考えられるのです。
こうした学問分野の垣根を超えた多様な学説と理論の展開の中で、
タレスにおいて、世界のすべては
一なる始原から成立するとされたのに対して、
エンペドクレスの四元素説においては
四つの元素から世界は構成されるとされ、
さらに、デモクリトスの古代原子論において、
原子としての元素の種類は星の数ほど無数にあるとされることになります。
そして、
古代原子論において無数の数にまで増加した元素の数の概念は、
近代原子論においては、数十種類程度であるとされるようになりますが、
その後、現代までに発見された元素の数も118種類までであり、
これ以降もある程度新たな元素が発見されていくとしても
化学元素としての元素の数は172か173種類が理論上の限界とされています。
さらに、
現代物理学の素粒子論においては、
世界の究極の構成単位としての素粒子の数は17種類にまで
大きく絞り込まれることになるのですが、
世界を構成する根源的な存在を
元素や素粒子などの粒子ではなく根源的原理としての力という観点から
捉え直していくと、
そうした物理学における根源的な力の概念は、
電磁気力と強い相互作用、弱い相互作用、そして重力という
四つの力にまで絞り込まれることになり、
さらに、万物理論の探求において、そうした四つの力が
より根源的な一なる力へと統一されることが求められていくことになるのです。
以上のように、
万物の始原(arche、アルケー、元となるもの、根源的原理)についての
人類の普遍的探究は、
最初の哲学者であるタレスの一なる始原への問いに始まり、
それが四元素説や原子論などの多様な学説や理論への展開を経ることによって、
巡り巡って再び、万物理論として
世界を支配する根源的原理としての一なる力を求める探究、すなわち、
一なる始原への探求へと還流していくことになるとも考えられるのです。
そして、
物理学における四つの力が一なる力へと統一される
万物理論が完成した暁には、
哲学における最も古い問いの一つである万物の始原(アルケー)の問いについて、
少なくとも物理学的観点においては最終的な回答がもたらされることとなり、
世界に存在するあらゆる物理的存在の究極の根源的原理となる
一なるアルケーの真の姿が明らかになると考えることができるのです。
・・・
このシリーズの前回記事:世界の究極の構成単位である17の素粒子と4つの種族と2つのグループへの分類、世界はいくつの元素からできているのか?④
このシリーズの初回記事:古代ギリシア哲学における元素の種類数の変遷の歴史、世界はいくつの元素からできているのか?①
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