古代ギリシア哲学における元素の種類数の変遷の歴史、世界はいくつの元素からできているのか?①

元素element)とは、もともとは、
万物の根源となる世界の究極的な構成要素のことを指す概念ですが、

こうした元素についての根源的な問い、すなわち、

世界はいくつの元素から構成されているのか?

より正確に言うならば、
世界の大本となる根源的な存在としての元素は種類としていくつあるのか?

という問いは、

古代ギリシアの自然哲学の時代から、
量子力学などの現代物理学に至るまで、

人類が長きにわたって、様々な観点から考えてきた
学問における普遍的テーマのひとつであると考えられます。

そこで、

これから3回にわたって

こうした世界の根源としての元素の問いについて、
古代から現代までの哲学者や物理学者、化学者や医学者たちが
それぞれどのような視点からどのような答えを提示してきたのか?
ということについて考え、

古代ギリシア哲学から現代物理学へと至る
元素の種類数の変遷の歴史をひも解いていきたいと思いますが、

その初回である今回は、
古代ギリシア哲学における元素の捉え方の変化のあり方について
一通りまとめとみたいと思います。

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万物の始原の探究と一種類の元素

古代ギリシア哲学の系譜は
紀元前6世紀ミレトスの哲学者タレスから始まることになりますが、

哲学は、そのはじまりの時代から、
思考の対象となる中心テーマの一つとして

万物の始原archeアルケー、元となるもの、根源的原理)
についての探求を行ってきました。

始原(アルケー)についての探求とは、
すなわち、

世界はどこから来て、どこへと向かっていくのか?

世界は何によって始まり、何をもって終焉を迎えるのか?

世界を形づくる根源的な要素とは何なのか?

といった世界の根源に関する一連の問いについての
果てしなき探究のことを意味しますが、

このうちの世界の根源についての三番目の問いである
世界を形づくる根源的な要素、すなわち、
世界を構成する始原としての元素とは何か?

という問いについて、

タレスをはじめとするミレトス学派自然哲学者たちは、その多くが、
タレスアナクシメネス空気というように、

自然界に存在するある一つの要素一つの元素
始原アルケー)となって、世界全体を構成している
と考えていました。

つまり、はじまりの哲学者たちは、

世界のすべての存在は、もとは空気といった
たった一つの元素から生じたものであり、

その一種類の元素変化していくことによって
世界に存在するあらゆる事物が形成されていくと考えていたということです。

エンペドクレスにおける四種類の元素

これに対して、

紀元前5世紀後半になると、
シチリア島のアクラガスにエンペドクレスが現れ、

万物の始原としての元素は一種類ではなく、
空気地水火風)の四種類の元素があるとする

万物の始原に関する多元論の思想を展開することになります。

つまり、エンペドクレスは、

現実の世界における多様な事物性質変化のすべてを
一種類の元素の働きによって説明することは不可能であり、

世界に存在するあらゆる事物は、
空気という四種類の元素
適切なバランスで調合されることによって構成される
と考えたということです。

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古代原子論における無数の種類の元素

そして、

こうしたエンペドクレスの四元素説における
万物の始原に関する多元論の思想を受け継いで

次に、そのわずか20~30年後に、

レウキッポスデモクリトスによって
古代原子論が唱えられることになります。

古代原子論においては、万物のもととなる元素である
原子atomaアトマ分割できないもの)は、

その名が示す通り、
それ以上分割不可能な万物の究極の構成単位とされますが、

そうした原子は、大きさ形状において
無数のあり方が可能であると考えられることになるので、

古代原子論においては、万物の根源となる究極の構成要素、
すなわち、元素としての原子
無数の種類があると考えられることになるのです。

・・・

以上のような古代ギリシア哲学における
元素の種類数の捉え方の変遷の歴史についてまとめると
それは、以下のようになります。

まず、

紀元前6世紀のタレスに始まるミレトス学派自然哲学の思想において、
万物の始原(アルケー)への探求から、世界のすべては水や空気といった
一種類の元素の変化によって形成されると考えられるようになり、

次に、

紀元前5世紀の哲学者エンペドクレスにおいて、土・水・火・空気という
四種類の元素の混合と分離によって世界に存在するすべての事物が
構成されるという多元論の思想が展開されることになります。

そして、

そのすぐ後のデモクリトスらの古代原子論の思想において、
万物の根源となる究極の構成要素である元素は原子とも呼ばれるようになり、

古代原子論においては、多様な大きさ形状をもった
無数の種類の元素としての原子によって世界のすべての存在が構成されていると
考えられるようになるのです。

・・・

このシリーズの次回記事:中世における四元素説の受容と四体液説と錬金術、世界はいくつの元素からできているのか?②

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