原子の種族の四元素説に基づく形成と熱を持たない火の原子とは?四元素説と原子論③

■冒頭文

前回書いたように、

エンペドクレスの四元素説では、元素の種類の数
地水火風のたった四つの種類であるとされるのに対して、

レウキッポスやデモクリトスの原子論では、それが
星の数ほど無数の種類があるとされるように、

二つの学説は、こうした元素の種類数という面から見ても
大きく異なる哲学理論であると考えられるのですが、

デモクリトスらの原子論においても
エンペドクレスにおける地水火風の四元素の概念は
完全に失われてしまったわけではなく、

それは、個々の原子が属するある種のグループや種族のような概念として
残り続けていくことになります。

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大きさと形状の類似による原子の種族の形成

デモクリトスの原子論においては、
原子の種類の数は無数にあるとはいっても、

それぞれの原子の形状や大きさは全くの無秩序に決まっているわけではなく、
一定の大きさと形状を持った原子からは一定の性質や働きが導かれ、

均一な性質を持つ単純で基本的な事物は、
類似する大きさと形状を持った同種族の原子から構成されることになります。

例えば、

物を燃やし、それと同様に、心の内に怒りや情熱の火を灯す働きも持つ
火の種族の原子には、
比較的小さく尖った形状をした原子が属することになり、

それに対して、

大地や惑星を構成するような
土の種族の原子は、
比較的大きく形状も丸く安定した原子が属するというように、

空気といった
エンペドクレスの四元素に該当するような基本的な事物は、

類似する性質を持った同種族の原子から
構成されることになります。

つまり、

少しでも大きさや形状が異なれば、別の種類の原子であるとされる以上、
原子の種類数自体は無数にあることになりますが、

こうした無数の種類の原子たちは、
それぞれの原子の大きさや形状の特徴に応じた
大枠でのグループ分けが可能であり、

大きさや形態が類似する原子たちを一つのまとまったグループ、すなわち、
類似する属性を持った一つの種族のようなものとして
捉えられることは可能であるということです。

そして、

そうした共通の属性を持った
原子のグループ分けの枠組みのようなものとして

デモクリトスの原子論においても
エンペドクレスの四元素説における地水火風の種族分けの概念
ある程度受け継がれていると考えられることになるのです。

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赤い色もなければ熱も持たない火の原子

しかし、

エンペドクレスの四元素説において、
地水火風の四元素は、

大地と海、太陽と天空といった自然における四大の力と直結する
具体的で感覚的な質感を持った存在であるとされるのに対して、

デモクリトスの原子論においては、
万物を構成するもととなる元素としての原子からは
あらゆる感覚的な要素が捨象されてしまうことになるので、

例えば、

ある原子が火の種族に属する原子であるとしても、

その原子自体には色や熱といった
感覚的性質は一切存在しないということになります。

つまり、

原子論においては、

世界に存在するあらゆる事物を構成する
究極の最小単位である原子に残された性質は、
大きさと形状という二つの最小限の属性のみということになるので、

たとえ、火の原子と呼ばれる原子であっても、
その原子が赤い色をしているとか、その原子自身が熱さ高い温度を持っている
ということは意味しないことになるのです。

では、何をもってその原子が火の原子であると言うことができるのか?
ということですが、

それは、やはり、大きさと形状という原子が有するただ二つの属性のみから
という事物から人間が感じとるあらゆる感覚的な性質が導かれる
ということになります。

火の種族に属する原子は、前述したとおり、
属性として、小ささ尖った形状という二つの性質を有することになりますが、

デモクリトスは、

尖った形状をした小さい粒子である火の原子が
別の事物を構成する原子に衝突することで熱や燃焼が生じ、

そうした火の原子が人間の手に突き刺さることによって
ある種の痛みにも似た感覚としての熱さの感覚が生じると考えました。

つまり、

尖った小さい粒子としての火の原子
その粒子自身の鋭さで自分に触れる別の物体を切り裂くことによって
物体は燃え上がり、燃焼によって本来の形を破壊されて灰になるというように

火という事物がもたらすあらゆる現象が
火の原子が有する小ささ尖った形状という二つの属性によって
説明されると考えたということです。

このように、

デモクリトスの原子論においては、

様々な大きさ形状を持った原子の
多様な配列組み合わせのみによって、

重さ、ざらざらやつるつるといった触感質感などの
あらゆる感覚的な性質が生み出されることになり、

そうした大きさや形状が似通った原子同士が
一種のグループや種族のようなものを形成することによって、

エンペドクレスの四元素説にも通じる
火の原子土の原子といったより具体的な原子の種族概念
形成されていくことになるのです。

・・・

前々回からの三回にわたる四元素説と原子論のシリーズで
考えてきたように、

多種類の元素の混合と分離、集合と離散によって
世界のすべての存在が形成されるという

エンペドクレスにおける多元論の考え方は、今回取り上げた
四元素説に基づく原子の種族形成といった概念も含めて

レウキッポスやデモクリトスといった
原子論者たちへと受け継がれ、長く影響を与え続けていくことになります。

そして、以上のように、その思想は、

地水火風の四元素がギリシア神話の神々の権能にも対応するような
エンペドクレス自身が意図していた哲学と宗教が一体となった
神秘主義的とも言える哲学体系とは別に、

古代ギリシアにおける原子論という
唯物論的な哲学体系の完成にも大きく寄与していくことになるのです。

・・・

このシリーズの前回記事:四元素説と原子論における元素の種類数の違いとは?四元素説と原子論②

このシリーズの関連記事:古代ギリシア哲学における元素の種類数の変遷の歴史、世界はいくつの元素からできているのか?①

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