四元素説と原子論における元素の種類数の違いとは?四元素説と原子論②
前回書いたように、
エンペドクレスの四元素説と
レウキッポスやデモクリトスの原子論は、
共に、万物の始原に関する多元論に属する哲学理論であると考えられ、
それぞれの学説には、元素の位置づけとそこから導かれる世界観に
違いがあると考えられるのですが、
両者の理論は、特に元素の種類数の捉え方について、
互いに大きな違いがみられることになります。
色相の三要素と地水火風の四元素
エンペドクレスの四元素説においては、
土、水、火、空気、あるいは地水火風と呼ばれる
四種類の元素のみから世界に存在するあらゆる事物が
形成されることになりますが、
それでは、
どのようにしてたった四種類の元素から
世界に存在する多様な性質を持った数多くの事物を
作り出すことができるのかというと、
それは、
これらの地水火風の四元素が混合と分離を繰り返し、
その事物にちょうど適した四元素の配合がもたらされることで
それぞれの事物が作り上げられるということになります。
例えば、色彩論において、
赤・黄・青という色相の三要素、
すなわち、三原色を混ぜ合わせることによって
世界に存在する多様な色のすべてを合成することが可能であるように、
エンペドクレスの四元素説においても、
地水火風の四元素を混ぜ合わせるという
それぞれの元素の適切な配合具合によって
世界に存在するすべての事物を形成することができると
考えられることになるのです。
ビーズの寄せ集めと原子による事物の構成
これに対して、
レウキッポスやデモクリトスの原子論においては、
原子には大小様々な種類があり、
その形状も真ん丸のものから鋭く尖ったものまで
多様な種類があるとされることになりますが、
こうした多様な種類の原子から
世界に存在する様々な事物を構成する仕組みは、
ちょうど、様々な種類の飾り玉を選んで買ってきて、
ビーズの首飾りを作ろうとするような作業にも似ているところがある
と考えられます。
首飾りを作ろうとしてビーズを買いに手芸店に行くと、
一見ほとんど同じように見える飾り玉でも、
その大きさや形に微細な規格の違いがあり、
首飾りを作るときのビーズの配列の仕方だけではなく、
首飾りを構成するビーズ自体の大きさや形にも
無数と言っていいほどの多様な違いがあることに気づくことになりますが、
このように、
原子によって事物が形成されるあり方は、以上のような
大きさも形状も様々なビーズの寄せ集めのようなものとして
捉えられることになるのです。
そして、
事物を構成している原子は、
少しでもその大きさや形状が異なれば、
それは厳密な意味では別の種類の原子、
すなわち、別種類の元素ということになるので、
それこそ、元素としての原子の種類の数は
無数にあり得るということになります。
・・・
以上のように、
エンペドクレスの四元素説においては、
万物の始原である元素の数は、
土、水、火、空気、あるいは地水火風という
四つの元素の種類数に限られているのに対して、
レウキッポスやデモクリトスの原子論においては、
万物を構成するもととなる元素としての原子の種類数は
無数と言っていいほど多数あり、
それこそ、星の数ほどの多種類の原子から
世界は構成されていると考えられることになるのです。
このように、
同じ多元論に属する哲学理論であるとはいえ、
四元素説では元素の種類数が四つであるのに対して、
原子論ではそれが星の数ほど無数にあるというように、
二つの学説には、元素の種類数という点ににおいて
大きな違いがあると考えられるのですが、
その一方で、
こうしたエンペドクレスの四元素説から
デモクリトスらの原子論への多元論の展開において、
地水火風の四元素の種類分けの概念は
完全に捨て去られてしまったわけではなく、
それは、別の形で、いわば原子の種族やグループ分けのような概念として
原子論の理論の内にも受け継がれていくことになります。
・・・
このシリーズの前回記事:エンペドクレスの多元論からデモクリトスの原子論への展開、四元素説と原子論①
このシリーズの次回記事:原子の種族の四元素説に基づく形成と熱を持たない火の原子とは?四元素説と原子論③
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