最初の哲学者がタレスである理由

タレス(Thales、ミレトスのタレス、前624年頃~前546年頃)が

哲学の創始者、最初の哲学者とされるのは、

ひとまずは、アリストテレスの以下の記述によります。

最初に哲学に携わった人びとのうち、
大部分の者は、

質料(素材)としての原理だけを、
万物の始原と考えた。…

哲学(philosophia、知の愛求)の始祖であるタレスは、
水がそれであると言っている。

(アリストテレス『形而上学』第一巻、第三章)

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つまり、

アリストテレスは、

古代ギリシア世界では、彼より前の古い時代に
哲学を探究していた人複数人いて、

そのなかで、
一番はじめに哲学を探究した人がタレスだった、

と言っているわけです。

それでは、

タレスはどのような意味で哲学の創始者と言えるのか?

別な言い方をすれば、

タレスのどのような思考が、

彼を、最初の哲学者たらしめていると言えるのか?

ということについて考えていきたいと思います。

世界の根拠への問いと自然の法則性の探求

冒頭のアリストテレスの記述にあるように、
タレスは、

万物の始原は水である

と考えたわけですが、

このことは、タレスが、

万物の始原、すなわち、
すべての存在の根源的原理としての
世界の根拠を問い、

自然の姿を実際に観察して、
そこに法則性を見いだしていくなかで、

その始原とは水である、

という考えに至ったということを意味しています。

それでは、

タレスが、こうした
世界の根拠や、自然の法則性について思考した
最初の人だったから、
哲学の創始者だと言われるのかというと、

おそらく、そうではありません。

ノアの箱舟の原型ともなったバビロニア神話や、
エジプト神話の中の世界創世の物語や、

旧約聖書の創世記の記述などを見ればわかる通り、

そこには、

世界がどのように創られ、
それがどのような仕組みで成り立っているのか?

という
世界の根拠への問いと、その答えが、

神話という形式のなかで描かれています。

また、

自然の観察と、それによる
法則性の発見ということについても、

例えば、

古代エジプトでは、すでに紀元前4000年頃の段階で、

ナイル川の氾濫の周期性と、
恒星シリウスの天体観測の記録から、

1年が約365日であることを割り出し、
太陽暦を作り上げていたように、

タレスが生まれる3000年以上も前から、

川の氾濫といった自然現象の観察や、
天体の運行の観測などが継続的に行われていて、

その観察・観測データに基づいた
論理的思考によって、

自然における法則性の探求が続けられてきました。

つまり、タレスは、

世界の根拠について問いを立てた
最初の人でもなければ、

自然を観察して、そこに法則性を見いだした、
最初の人でもなかった、ということです。

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論理的思考と、根源的原理への問い

それでは、

人間の思考活動の営みのすべては、
古代エジプトやメソポタミア文明の段階における、

神話自然科学の思考によって
汲み尽くされていたのか?

というと、

それも、おそらくは違うということになります。

神話による説明は、

世界がどこから来て、
どのような仕組みで動いているのか?

という

世界の根拠への問いを含んではいますが、

その答えは、

擬人化された神々の物語や、
詩のような文学表現として語られているのであって、

それは、論理的思考によって、
整然と説明されているわけではありません。

一方、

実験と観察による自然法則の探求については、

実際、タレスも、

バビロニアの神官たちが書き記していた
観測記録分析することにより、

日食の予測を的中させて
人びとを驚かせたり、

気候観測に基づいて、
オリーブの収穫量を予想し、

予めオリーブ油を絞る機械を占有しておくことで、
大きな富を得ることに成功していますが、

こうした自然現象の観察・観測に基づいた
論理的思考による自然の法則性の探求というのは、

アリストテレスの自然学や、
近代自然科学へと続く、

科学的思考先駆けではありますが、

それだけでは、
まだ哲学ではないのです。

なぜならば、

そこには、
世界の総体の根源的原理への問いが欠けているからです。

つまり、タレスは、

論理的思考によって、

個々の自然現象ではなく、

世界の総体の根源的な原理、
究極の第一原理を探究したので、

それが、はじめて、
哲学的探究となったと考えられる、ということです。

・・・

① 論理的思考

② 根源的原理への問い

この2つのいずれの思考が欠けても、
それは、哲学的探究の営みにはなりません。

タレスが、

すべての存在の根拠についての
根源的な問いを立て、

しかも、それに、

物語や詩ではなく、
論理的思考によって答えようとしたことが、

その思考の道筋の断片的な記録により、

彼が、最初の哲学者、哲学の創始者とされた、
最大の理由であると考えられます。

以上のように、

タレスにおいて、

論理的思考と、根源的原理への問い
この二つが合わさった思考が展開されたことによって、

タレスは、最初の哲学者となり、

人類は、はじめて、
真理へと至る
哲学的探究の扉を開くことができたと考えられるのです。

・・・

タレスの哲学の概要

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