バビロニア神話と旧約聖書創世記とタレス

タレスの思考は、

物語や叙事詩の形ではなく、
論理的思考によって紡ぎ出されているという点で、

先行する神話の思考とは
軌を異にしていて、

それゆえに、
タレスは、最初の哲学者とされてもいるわけですが、

その論理的思考の前提に、

教養や、着想のヒントとして、
神話や古代の科学的知識の大きな影響があったことも確かだと思われます。

そこで今回は、

タレスの哲学と、

バビロニア神話旧約聖書の創世記などにおける
創世神話との

世界観の共通点を見ていきたいと思います。

・・・

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タレスの人生は、

地中海諸国とオリエント世界の間を行き来する、
旅の多い人生だったので、

タレスは、
その旅の遍歴なかで、

古代エジプトバビロニア
カナンの地(現在のイスラエル、パレスチナ)などの

各地の神話や、さまざまな知識を
見聞きしていたと考えられるわけですが、

そうした古代の文明世界における神話の中で、

世界のはじまりは、
どのようなものとして描かれているのでしょうか?

バビロニア神話における原初の世界

メソポタミア神話、あるいは、
古代オリエント神話の代表格である、

バビロニア神話は、

紀元前18世紀頃までには成立していたと考えられますが、

そのバビロニア神話の創世叙事詩である、
エヌマ・エリシュEnuma Elis)』において、

世界の原初の姿は以下のように描かれています。

上にある天に名がなく、
下にある地にも名がなかった時のこと、

はじめにアプスー(真水を司る父なる神)が在り
そこからすべてが生まれた

ティアマト塩水を司る母なる神、つまり母なる海)もまた、
すべてを生む母であった。

2つの水はたがいに混ざり合っていて、
そこには混沌だけがあった。

(『エヌマ・エリシュ』冒頭部)

バビロニア神話では、このあと、

母なる神ティアマトは、そのひ孫にあたる
マルドゥクによって滅ぼされ、

彼女の遺体は2つに引き裂かれて、
を形づくり、

そのからは、涙が流れ落ちるように
2つの川が流れ出で、

それが、メソポタミアを流れる、
チグリスユーフラテス大河になったとされていますが、

それはともかく、

バビロニア神話では、

世界の原初には、

真水と塩水が混じり合った
混沌chaosカオス)があり、

その水の混沌の中から、
すべての存在が生まれたということになります。

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旧約聖書の創世記における世界の誕生

そして、一方、

現在で言う
旧約聖書の創世記の部分も、

おそらくは、
紀元前10世紀頃までには成立していたと考えられるので、

紀元前6世紀に生きていた
タレスは、その思想にも、どこかで触れていたと考えられますが、

その創世記では、世界の誕生は、
以下のように描かれています。

初めに、神は天地を創造された。

地は混沌であって、闇が深淵の表にあり、
神の霊が水の面おもてを動いていた。…

神は言われた。

「水の中に大空あれ。水と水を分けよ。」

神は大空を造り、
大空の下と大空の上に水を分けられた

(旧約聖書「創世記」1章)

このように、

バビロニア神話では、
原初における2つの水は、

真水塩水、すなわち、

大河

であったのに対し、

旧約聖書の創世記では、

大空の下大空の上、すなわち、

天空とが、

創造主である神によって、分かたれている、
という違いはありますが、

旧約聖書の世界観においても、

原初には、混沌があり、

そこから分かれ出でる形で、
世界が形づくられていく、という
世界観の共通点があることが分かります。

つまり、ここでも、

世界は水から誕生したものとして描かれている
ということです。

・・・

以上のように、

タレスは、

自身の哲学的探究の
集約である、

万物の始原は、水である

という思想に至るまでに、

バビロニアの水神創世神話や、

旧約聖書の創世記における世界の水からの創造などの、

水から世界が創造され立ち上がっていく、という
神話的な世界観についても考察を重ね、

そうした神話からも、
自身のの哲学的探究の着想を得ていたと考えられます。

・・・

タレスの哲学の概要

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