アップクォークとダウンクォークの違いとは?アップとダウンが意味する内容とその由来について
「17の素粒子と4つの種族と2つのグループへの分類」で書いたように、
世界に存在するあらゆる物理的存在は、その究極の構成単位である
17種類の素粒子によって構成されていて、
物質としての存在は、フェルミオンと呼ばれる素粒子グループに属する
粒子によって形成されることになります。
そして、そのなかでも、
物質を構成する基本単位である原子の中心に位置する
原子核を構成している陽子と中性子は
フェルミオンの内のさらにクォークと呼ばれる素粒子の種族に属する
アップクォークとダウンクォークと呼ばれる2つの素粒子の組み合わせによって
形成されることになります。
こうした陽子と中性子を形成する究極の構成単位である
アップクォーク(up quark)とダウンクォーク(down quark)と呼ばれる素粒子には
それぞれどのような違いがあり、
それぞれの名に付されている「アップ」と「ダウン」という言葉には
どのような意味が込められていると考えられるのでしょうか?
「アップ」と「ダウン」にクォークのスピンの向きとの関係はあるのか?
「アップ」と「ダウン」という言葉から連想される意味として、
まずは、
「上」や「下」といった位置や方向に関わる意味合いが
考えられることになります。
そうすると、
クォーク(quark)が有する属性には、
質量や電荷(プラスかマイナスの電気量)といった基本的な性質の他に、
スピン(spin)と呼ばれる素粒子が自転する向き(正確にはスピン角運動量と呼ばれる)
のようなものを示す属性もあるので、
このようなクォークの性質を念頭に置くと、アップクォークとダウンクォークにおける
「アップ」と「ダウン」の意味は、
こうしたクォークのスピンという性質における
粒子が回転する向きに関係があるのではないか?
という考えが浮かんでくることになります。
しかし、
素粒子におけるスピン(spin)とは、
個々の素粒子に存在する固有の運動量であり、
確かに、素粒子の種類によって
スピンの変化のあり方のパターンは定まってはいるものの、
個々の素粒子がとるスピンの具体的なあり方、すなわち、具体的なスピン方向は
それぞれの観測状態においてまちまちであり、
同じ種類の素粒子でも、あるいは、全く同一の素粒子ですら、
条件が異なればまったく異なるスピンのあり方において観測されることになります。
つまり、
アップクォークだったら
必ず上向きスピンであるとか、
ダウンクォークを調べると
みんな下向きになっているというわけではまったくなく、
アップクォークとダウンクォークにおける
「アップ」と「ダウン」という言葉には、
「上」や「下」といった位置や方向に関わる意味合いは
まったく含まれていないということになるのです。
識別記号としてのアップとダウンとイカとタコと色荷
それでは、
どのような意味において、クォークの種類を区別する概念として
「アップ」と「ダウン」という言葉が選ばれたのか?というと、
それは、端的に言ってしまえば、
対となる性質と機能をもった素粒子の
片方に「アップ」、もう片方に「ダウン」という
単なる識別記号を与えたに過ぎないということになります。
つまり、
陽子と中性子を構成する最も基本的な2つのクォークを区別するための標識として
「アップ」と「ダウン」という一組の対概念が
たまたま選ばれただけに過ぎないということであり、
識別記号となる言葉は、基本的には、
二つで一組となる対となる言葉や概念だったら何でもよく、
例えば、
アップクォークとダウンクォークの代わりに、
イカクォークとタコクォークといった名称でも
別に構わなかったということになるのです。
ちなみに、
クォークが有する属性としては、質量、電荷、スピンの他に、
色荷(color charge)と呼ばれる属性もありますが、
こうした属性も別にクォーク自体が赤や青や緑といった
カラフルな色を実際に持っていることを示しているわけではなく、
クォークが互いに結合する条件が三つの属性の組み合わせによって決まることを
光の三原色の関係になぞらえて捉えることによって
こうした属性のことを色荷と称しているだけに過ぎません。
言語は、人間が実際に生きて生活している
マクロの世界を記述するために発展してきたわけですが、
現代科学の発展に伴って、そうした日常のマクロの世界とは異なる
ミクロの世界についての記述にも言語が用いられるようになっていきました。
そして、
人間の言語がその使用範囲を拡張していく形で
素粒子が住むミクロの世界についての記述にも用いられていく際に、
人間にとって馴染みがなく異質なミクロの世界における素粒子が有する性質を
分かりやすく捉えるために、
日常生活で馴染み深い「アップ」と「ダウン」や「赤」,「青」,「緑」といった言葉が
いわば比喩的な形で、一種の識別記号のようなものとして用いられるようになったと
考えられるのです。
質量の大きさの順番と粒子崩壊の系列としての上下関係
しかし、それでもなお、
アップクォークとダウンクォークに使われている「アップ」と「ダウン」という言葉に
単なる識別記号以上の何らかの意味を見いだそうとするならば、
それは、質量の大きさの順番や粒子崩壊の系列という
二つの事柄の順序の上下関係における「アップ」と「ダウン」として
捉えることもできます。
アップクォークとダウンクォークの性質や機能の違いとしては、
陽子がアップクォーク2個とダウンクォーク1個という
アップクォークが多い状態で形成されるのに対して、
中性子はアップクォーク1個とダウンクォーク2個という
ダウンクォークが多い状態で形成されること、
アップクォークがプラスの電荷を持つのに対して、
ダウンクォークはマイナスの電荷を持つことなどが挙げられますが、
それに加えて、質量の大きさとしては、
ダウンクォークはアップクォークのおよそ2倍の重さをもっている
ことが挙げられます。
アップクォークはダウンクォークの2分の1の重さしかない
ダウンクォークより軽いクォークということになるわけですが、
全6種類のクォークの種族に属する他の素粒子と比べても、
その中でもアップクォークは最も軽いクォークであり、
ダウンクォークはアップクォークの次に軽いクォーク
ということになります。
つまり、
アップクォークは、
あらゆるクォークの中で最も質量の軽いクォークであり、
すべてのクォークを背の順、すなわち質量の小さい順に並べたときに、
その先頭にくるのがアップクォークということになるのですが、
このように、
クォークを質量の小さい順に並べたときに
アップクォークは一番前、一番上に、そして、
ダウンクォークはアップクォークの後ろ、その下にくるという意味において、
アップクォークは「アップ」(上)、ダウンクォークは「ダウン」(下)であると
捉えることもできると考えられるのです。
また、
クォークは物質を形づくるそれ以上分割不可能な究極の構成単位となる
粒子のことを指す概念なので、
クォークに分類されるどの素粒子も
他の素粒子の組み合わせによって合成することはできないのですが、
こうしたクォークは、粒子崩壊(particle decay)と呼ばれる
自発的な変換過程において、
より質量の小さいクォークへと一方向的に
粒子自体が変換することは可能となっています。
そして、
この粒子崩壊の系列の最終段階に位置するのが
最も質量の小さいアップクォークということになるのですが、
このことは、
他のあらゆる種類のクォークは
最終的にアップクォークへと粒子崩壊していく可能性を持つのに対して、
アップクォーク自身はそれ以上他のクォークへは変換されえない
他のすべてのクォークの基礎となる安定したクォークであるということを
意味することにもなります。
つまり、
アップクォークは、粒子崩壊の系列の最終段階に位置する
最も基礎的であり、最も安定したクォークであるという意味においても、
クォークの序列の第一位に位置する
最も上位に、最も「アップ」(上)に位置するクォークであると
捉えることもできると考えられるのです。
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以上のように、
アップクォークとダウンクォークにおける
「アップ」と「ダウン」という言葉は、一義的には、
一組の対概念ということ以上には特別な意味は持たない
単なる識別記号として用いられているに過ぎないということになるのですが、
アップクォークとダウンクォークというそれぞれの素粒子の性質や機能の違い、
質量の大きさの順番や粒子崩壊の系列といった観点から見ると、
アップクォークは、
最も質量が小さく、最も基礎的で、最も安定した
クォークの序列の最上位に位置づけられるクォークとであるという意味において、
「アップ」(上)に位置するクォークであると
捉えることもできると考えられるのです。
・・・
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