ウイルス性肝炎の原因となる代表的な五つのウイルスの種類のまとめ、A型からE型までのウイルスの具体的な特徴と肝炎の症状
このシリーズの初回から前回までの記事で書いてきたように、ウイルス性肝炎を引き起こす危険性のある代表的なウイルスの種類としては、
A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルスという全部で五つのウイルスの種類が挙げられることになります。
そこで、今回の記事では、
こうしたウイルス性肝炎の原因となる代表的な五つのウイルスの種類が、それぞれ具体的にどのような特徴をもったウイルスであり、感染経路としてはどのようなルートが挙げられ、
それぞれのウイルスによって引き起こされる肝炎の症状のあり方に具体的にどのような違いがあるのか?といったことについて、
一通りまとめて書いていきたいと思います。
ウイルス性肝炎の原因となる代表的な五つのウイルスの種類のまとめ
①A型肝炎ウイルス
まず、はじめに挙げたA型肝炎ウイルスと呼ばれるウイルスは、ピコルナウイルス科に属する直径27ナノメートルくらいの小さな正二十面体の構造をしたRNAウイルスであり、
具体的な感染経路としては、上下水道の整備がなされていないような衛生環境の劣悪な地域を中心に汚染された水や食品などを介して感染が広がっていくことになるほか、
食品の加熱が不十分である場合などには、カキなどの二枚貝やレタスやラズベリーや冷凍イチゴといった輸入野菜などが原因となって感染が引き起こされるケースもある経口感染を引き起こすウイルスの種類として位置づけられることになります。
そして、
こうしたA型肝炎ウイルスの感染においては、2~7週間程度の潜伏期間の後に、下痢や発熱、吐き気や嘔吐といった消化器系を中心とする症状に加えて、
皮膚や眼球の白い部分が黄色くなる黄疸(おうだん)や肝腫大といった症状を呈する急性肝炎の症状が現れることになり、
通常の場合は、1~2か月ほどで肝機能が回復することによって自然に治癒していくことになるのですが、
1%以下のかなり稀なケースではあるものの、こうしたウイルス性の肝炎の症状が悪化することによって劇症肝炎や腎不全あるいは心筋障害といったより重篤な症状が引き起こされる場合もあると考えられることになるのです。
②B型肝炎ウイルス
そして、その次に挙げたB型肝炎ウイルスと呼ばれるウイルスは、ヘパドナウイルス科に属する直径42ナノメートルくらいの球形の構造をしたDNAウイルスであり、
具体的な感染経路としては、ウイルスの検査体制が不十分な状態で行われる輸血や臓器移植、注射器などの針刺し事故、消毒が不十分な状態で行われる刺青(いれずみ)や鍼(はり)やピアスの穴開け、覚醒剤の使用などにおける注射の回し打ちなどといった血液などの体液を介して感染が広げていく非経口感染を引き起こすウイルスの種類として位置づけられることになるほか、
B型肝炎ウイルスによる感染は、こうした血液を介した感染ルートに加えて、性行為を介しても感染が引き起こされることもあるので、B型肝炎は性感染症の一つとしても位置づけられることになります。
そして、
こうしたB型肝炎ウイルスの感染によって引き起こされる肝炎の病態には、数週間から数か月といった比較的短期間のうちに症状が現れる一過性感染と、数年から数十年にもおよぶ長い時間をかけて徐々に肝炎の症状が進行していくことになる持続感染と呼ばれる二通りのタイプへと分けられることになり、
前者の一過性感染においては、ウイルスに感染した人のうちの20~30%が急性肝炎を発症することによって、黄疸や倦怠感や発熱、上腹部の右の肋骨の下あたりの痛みや上腹部膨満感といった症状が現れることになり、
その後、患者のうちの大部分は、1か月ほどで肝機能が回復することによって自然に治癒していくことになるのですが、
こうしたB型肝炎ウイルスによる急性肝炎を発症した患者のうちのおよそ2%程度の患者は、劇症肝炎を発症してしまうことになり、
B型肝炎ウイルスによる劇症肝炎を引き起こした患者の死亡率は70%程度にもおよぶと考えられることになります。
そして、それに対して、
後者の持続感染においては、90~95%のウイルス保有者は、そのまま自然にウイルスが体外へと排出されて治癒していくことになる一方で、
残りの5~10%のウイルス保有者については、その後も長期的に肝臓における炎症状態が継続していくことによって肝機能の数値に異常が検出される慢性肝炎と呼ばれる肝炎の状態へと移行していくことになり、
さらにその後、5年~10年以上の時間をかけて慢性的な炎症が進行していくことによって、死滅した肝細胞が線維化して肝臓が硬化していく肝硬変、さらには、肝臓がんといったより重篤で致命的な肝疾患への移行が進展していくリスクが高まってしまうことになるほか、
B型肝炎の場合には、そうした一般的な慢性肝炎における病状の進行パターンをたどらずに、慢性肝炎の状態からすぐに肝臓がんの段階へと移行してしまうケースや、運の悪い場合には、慢性肝炎になる前のまだ何の症状も現れていない単なるウイルスの保有者の段階からいきなり肝臓がんを発症してしまうといったケースもしばしば生じてしまうことになるのです。
③C型肝炎ウイルス
そして、その次に挙げたC型肝炎ウイルスと呼ばれるウイルスは、フラビウイルス科に属する直径55~65ナノメートルくらいの球形の構造をしたRNAウイルスであり、
具体的な感染経路としては、B型肝炎ウイルスの場合と同様に、輸血や臓器移植、針刺し事故や刺青、注射の回し打ちといった血液などの体液を介して感染が広げていく非経口感染を引き起こすウイルスの種類として位置づけられることになり、
C型肝炎ウイルスの場合には、前述したB型肝炎ウイルスの場合とは異なり、可能性がゼロというわけではないものの性行為によって感染する危険性は非常に低いと考えられることになります。
そして、
こうしたB型肝炎ウイルスの感染によって引き起こされる肝炎の病態には、B型肝炎ウイルスの場合と同様に、一過性感染と持続感染という二通りのタイプがあり、
前者の一過性感染においては、ウイルスに感染した人のうち20~30%が急性肝炎を発症することになるのですが、その肝炎の症状自体はB型肝炎における急性肝炎の症状よりは軽症である場合が多く、劇症肝炎へと進展してしまう危険性もかなり低いと考えられることになります。
そして、それに対して、
後者の持続感染においては、B型肝炎の場合よりもだいぶ多い70%のウイルス保有者が慢性肝炎と呼ばれる肝炎の状態へと移行していってしまうことになると考えられ、
C型肝炎の場合には、10年~30年程度におよぶ慢性肝炎の期間を経たうえで、肝硬変さらには肝臓がんへと病状が段階的に進展していくリスクが高まっていくことになると考えられることになるのです。
④D型肝炎ウイルス
そして、その次に挙げたD型肝炎ウイルス呼ばれるウイルスは、直径33ナノメートルくらいの小さな球形の構造をしたRNAウイルスであり、
D型肝炎ウイルスは、宿主の細胞内に寄生しても自分自身の力だけでは増殖することができず、自己増殖のために他のウイルスが同じ細胞に寄生していることが必要となるサテライトウイルス(衛星ウイルス)と呼ばれるウイルスの種族に分類されることになります。
D型肝炎ウイルスは、特に、同じく非経口感染を引き起こす肝炎ウイルスのグループに含まれているB型肝炎ウイルスと協力することによって人体に対して肝炎の症状を引き起こしていくことになり、
具体的な感染経路としては、B型肝炎ウイルスの場合と同様に、輸血や臓器移植、針刺し事故や刺青、注射の回し打ちといった血液などの体液を介して感染が広げていく非経口感染を引き起こすウイルスの種類として位置づけられることになります。
そして、
こうしたD型肝炎ウイルスと呼ばれるウイルスがB型肝炎ウイルスとの同時感染や重複感染を引き起こしてしまった場合には、
感染者の肝細胞内に潜伏しているB型肝炎ウイルスの活動を活発化させてしまうことによって、急性肝炎や慢性肝炎といった肝炎の発症リスクを高めていってしまうことになり、
感染の急性期においては、急性肝炎の発症リスクと同時により重篤な肝炎の状態である劇症肝炎を発症するリスクも高まっていってしまうことになるほか、
感染の慢性期においては、肝硬変へと至るまでの病状の進行のあり方が平均して10年ほど加速されてしまうといように、肝硬変や肝臓がんといったより重篤で致命的な肝疾患への病状の進行を加速させてしまうことになると考えられることになるのです。
⑤E型肝炎ウイルス
そして、最後に挙げたE型肝炎ウイルスと呼ばれるウイルスは、ヘペウイルス科に属する直径36ナノメートルくらいの小さな正二十面体の構造をしたRNAウイルスであり、
具体的な感染経路としては、冒頭で挙げたA型肝炎ウイルスの場合と同様に、汚染された水や食品などを介して感染が広がっていくことになり、
特に、豚レバーの生食、あるいは、加熱が不十分な豚肉やイノシシ肉などが原因となって感染が引き起こされるケースなどがある経口感染を引き起こすウイルスの種類として位置づけられることになります。
そして、
こうしたE型肝炎ウイルスの感染においては、3~8週間程度の潜伏期間の後に、腹痛や発熱、吐き気や嘔吐といった消化器系を中心とする症状に加えて、黄疸や肝腫大といった症状を呈する急性肝炎の症状が現れることになり、
通常の場合は、4~6週間ほどで肝機能が回復することによって自然に治癒していくことになるのですが、
E型肝炎の場合には、妊娠中の女性において劇症肝炎への移行が進みやすくなることが知られていて、妊娠後期の女性における死亡率が20%にもおよぶことになるほか、
通常の成人患者においても、A型肝炎と比べてE型肝炎の方が10倍ほど重症化するリスクが高くなるというように、
こうしたE型肝炎ウイルスと呼ばれるウイルスは、実際に感染してしまった場合には、前述したA型肝炎ウイルスの場合よりも病状の変化に細心の注意を払うことが必要なより危険性の高いウイルスの種族として位置づけられることになると考えられることになるのです。
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次回記事:サテライトウイルス(衛星ウイルス)とは何か?不完全なウイルスとしての定義とヘルパーウイルスとの間に成立する共存関係
前回記事:D型肝炎ウイルスとB型肝炎ウイルスの関係とは?衛星ウイルスとしてのD型肝炎ウイルスと重複感染による肝炎リスクの増大
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