サテライトウイルス(衛星ウイルス)とは何か?不完全なウイルスとしての定義とヘルパーウイルスとの間に成立する共存関係
以前に「ウイルスは生物か無生物か?」の記事などで詳しく考察したように、生物の四つの定義として挙げられることになる
「自己と外界との境界」「エネルギーと物質の代謝」「自己複製」「恒常性」という四つの要素のうちの
「自己と外界との境界」「自己複製」という二つの要件は満たすものの、
「エネルギーと物質の代謝」と「恒常性」という残りの二つの要素を満たさないという点において、
ウイルスは、生物と無生物の中間に位置する存在であると捉えられることになるのですが、
広義におけるウイルスのなかには、こうした「自己と外界との境界」「自己複製」というウイルスの定義すらも十分には満たすことができない、いわば、不完全なウイルスとして、
サテライトウイルス(衛星ウイルス)、あるいは、欠損ウイルスと呼ばれるウイルスの種族の存在も挙げられることになります。
サテライトウイルスの定義と不完全で半人前なウイルスの種族であるサブウイルス粒子としての位置づけ
そもそも、
ウイルス(Ⅴirus)と呼ばれる構造体の具体的な定義としては、
自らの遺伝情報を記録するRNAやDNAといった核酸と呼ばれる構造体と、そうした核酸を取り囲むカプシドと呼ばれるタンパク質の殻を持ち、
寄生する宿主細胞に自力で自らの遺伝子の複製を実行させる能力を持っているといった特徴が挙げられることになるのですが、
それに対して、
サテライトウイルス(Satellite virus)と呼ばれるウイルスの種族は、
宿主細胞に寄生しても自分自身の力だけでは自らの遺伝子の複製を実行させることができずに、自己増殖のために同じ宿主細胞に寄生している他のウイルスの助けを必要とするウイルスの種族として定義されることになります。
したがって、
こうしたサテライトウイルス(衛星ウイルス)、あるいは、欠損ウイルスと呼ばれるウイルスの種族は、
上述したような宿主細胞に自力で自らの遺伝子の複製を実行させる能力といったウイルスの定義を完全には満たしていないという意味において、
ウイルス学上の厳密な定義においては、そうしたウイルスとしての定義を完全には満たしていない不完全なウイルス、あるいは、半人前のウイルスの種族であると考えられることになるのですが、
そういった意味では、こうしたサテライトウイルスと呼ばれる種族は、
一般的なウイルスからは区別される形で、サブウイルス粒子(Subviral particles)と呼ばれる広義におけるウイルスの分類の内に位置づけられることになると考えられることになります。
サテライトウイルスとヘルパーウイルスとの間に成立する共存関係
それでは、
こうした、サブウイルス粒子と呼ばれる広義におけるウイルスの一種として分類されるサテライトウイルスは、宿主細胞に対して自力では自らの遺伝子の複製を実行させる能力を持たないにもかかわらず、
いったいどのような仕組みによって自己増殖を行っていくことができるのか?ということについてですが、
それについては、
そうしたサテライトウイルスにおける自己増殖を助ける役割を担うウイルスであるヘルパーウイルス(Helper virus)と呼ばれるウイルスの存在が挙げられることになります。
通常の場合、
サテライトウイルスには、自らの自己増殖を助けるのに都合のいい働きを持った固有のヘルパーウイルスが存在していて、
そうしたそれぞれのサテライトウイルスに固有のヘルパーウイルスと対となるような形で自己増殖を行っていくことになるので、
こうしたヘルパーウイルスに対してサテライトウイルスと呼ばれる不完全なウイルスの種族は、ヘルパー依存ウイルスという呼び名でも呼ばれることになります。
そして、具体的には、
ヘルパーウイルスがサテライトウイルスに自らの遺伝子を複製するのに必要な特定の酵素を提供することによって、サテライトウイルスの自己増殖を助けていくことになる一方で、
それに対して、
サテライトウイルスの側も、ヘルパーウイルスとセットになって自己増殖を繰り広げていくことによって、宿主となる生物の免疫系をかく乱しながら、ヘルパーウイルスがより広範囲の細胞に感染を広げていくことを可能とするという形で、
こうしたサテライトウイルスとヘルパーウイルスの間には、ある種の共存関係が成立することによって、両者のウイルスの増殖がより強力な形で進められていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:サテライトウイルスに分類される代表的なウイルスの種類と具体的な特徴とは?植物および動物や人間に感染する代表的な種類
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