知性とは何か?②ピタゴラスの哲学思想における数学的な原理としてのヌースの存在の位置づけ
前回の記事で書いたように、知性という言葉は、その大本の語源となる意味においては、ギリシア語におけるヌースという言葉に起源を持つ言葉であると考えられることになるのですが、
哲学史の流れのなかでは、まずは、ソクラテス以前の哲学者として位置づけられているピタゴラスやアナクサゴラスといった古代ギリシアの哲学者たちにおける哲学思想のなかで、
こうしたヌースとしての知性の存在のあり方についての哲学的探究が進められていくことになります。
ピタゴラスの哲学思想における数学的な原理としてのヌース(知性)の存在の位置づけ
以前に書いた「ヘラクレイトスの哲学におけるロゴスとしての理性の存在」の記事では、
理性としてのロゴスの存在のあり方が哲学における重要な原理として取り上げられるようになったのは紀元前6世紀の古代ギリシアの哲学者であるヘラクレイトスの哲学思想においてであったと書きましたが、
このように、
ロゴス(理性)と呼ばれる原理のあり方をはじめて哲学における中心原理として位置づけた哲学者がヘラクレイトスであったとするならば、
それに対して、
ヌース(知性)と呼ばれる原理のあり方を哲学史においてはじめて重視した哲学者は、ヘラクレイトスと同じ紀元前6世紀の古代ギリシアの哲学者にして数学者や宗教家でもあったピタゴラスであったと考えられることになります。
そして、
ピタゴラスの哲学思想においては、
オクターブあるいは完全五度や完全四度といった音階同士の間にみられる周波数の比例関係や、天体の運行の規則性といった音楽や天文学の分野における学問的探求を通じて、
この宇宙の内にあるすべての存在は、数学的比例関係とその調和によって成り立っていると考える万物の根源を数学的な原理のうちに求める思想が展開されていくことになるのですが、
こうしたピタゴラスの哲学思想においては、
万物の根源に存在する数学的な比例関係や数の原理を司っている根源的な力や働きのあり方は、
ギリシア語におけるヌース(nous)、すなわち、知性と呼ばれる概念として捉えられていくことになるのです。
ピタゴラスにおける数の意味の割り当てに基づく「1」と「知性」との関係
そして、
ピタゴラスの哲学思想においては、前述したような宇宙の内に存在するすべての存在の究極の原理を数学的な原理のうちに求めていくという数理的な思想に基づいて、
数学における基本的な原理であると同時に万物の構成原理としても位置づけられることになる数の存在のあり方について、
1から10までといったそれぞれの数に対して、具体的な意味や概念の割り当てが行われていくことになるのですが、
こうしたピタゴラスにおける数の意味の割り当ての議論においては、
あらゆる数のなかで最も特権的で根源的な数として位置づけられることになると考えられるはじまりの数である「1」に対して、ギリシア語におけるヌース(nous)すなわち「知性」の存在が対応づけられていくことになるのです。
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以上のように、
こうしたピタゴラスの哲学思想においては、
この宇宙の内にあるすべての存在は、数学的比例関係とその調和によって成り立っていると考える数学的な原理に基づく宇宙観が示されたうえで、
そうした万物の根源に存在する数学的な原理を司る力のあり方がヌースとしての知性の存在のうちに求められていくことになると考えられることになるのです。
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次回記事:知性とは何か?③アナクサゴラスの哲学思想における宇宙全体の秩序を司る根源的な原理としてのヌース(知性)の位置づけ
前回記事:知性とは何か?①ギリシア語とラテン語におけるヌースとインテレクトゥスの具体的な意味
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