ヘラクレイトスの哲学の概要

ヘラクレイトスHerakleitos、前540年頃~前480年頃)は、

紀元前6世紀後半古代ギリシアの哲学者で、

小アジア(現在のトルコ)、イオニア地方
エペソスエフェソス)の王家の血筋に生まれながら、

政治などの世事を嫌い、
自ら隠棲して、孤高の生涯を送ったことと、

箴言Aphorismアフォリズム、人間の生き方や真理について、簡潔で短い形でまとめられた深い含蓄を持つ言葉)

を多用する、難解な文体から、、

暗き人」(skoteinosスコテイノス)や「謎かけ人

などとも呼ばれています。

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箴言」という簡潔でありながら、謎めいたところもある
表現形式からも分かるように、

ヘラクレイトスは、

論証説明の長大な積み重ねによって、

緻密な論理的整合性をもった
哲学体系を築き上げていくタイプの哲学者ではなかったので、

その哲学の全貌を一つのまとまった思想として
統一的に捉えることは難しいのですが、

そもそも、

深遠なる真理などと言われるように、

真理とは、それがあまりにも深く難解で、
通常の論理的思考では汲み尽くすことができないがゆえに、
人類はそれについて、終わりなき探究を続けてきたとも言えます。

したがって、

哲学的真理は、通常の論理では、
その全体を一挙に指し示すことはできず、

ヘラクレイトスの箴言のような断片として、
一部分を切り取って垣間見るような形でしか、
その姿を捉えることができないとも考えられるのですが、

このように、

多数の短い謎めいた箴言アフォリズム)によって、
躍動的な生きた真理表現しようという点において、

ヘラクレイトスは、
古代のニーチェのような存在だったと言えるかもしれません。

ヘラクレイトスの哲学の概要

ヘラクレイトスは、その箴言のなかの一部分で、

宇宙は、永遠に生きる火である。

(ヘラクレイトス・断片30)

と述べていて、
また、別の箴言では、

万物火の交換物であり、
万物の交換物である。

(ヘラクレイトス・断片90)

とも述べています。

つまり、

ヘラクレイトスは、

万物の始原アルケー元となるもの根源的原理)はであり、

それを生命の原理でもあると考えていたということです。

こうした始原アルケー)に関する考え方は、

アナクシメネス
空気の循環に基づく生命論的宇宙観を引き継ぐ思想であると考えられますが、

ヘラクレイトスにおいては、
その循環と相互転換の基点が、空気から生きる火へと移されたことによって、

より動的で生命論的な部分が強調された宇宙観が展開されている
と考えることができます。

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また、

ヘラクレイトスは、

同じ川に二度入ることはできない

(ヘラクレイトス・断片91)

と語ったとされています。

つまり、

川の刻々と流れ去っていくので、

以前入ったことがある川にもう一度入るとき、足に触れる水は、
以前に触れた水とはまったく別の水になっているということになりますが、

川の中を流れる水全く別のものに変わってしまったのならば、
そもそも、水の流れの全体である川自体についても、正確には、
同じ川と言うことさえもできない

ということです。

この箴言は、のちに、プラトンによって、

万物は流転るてんする」(panta rheiパンタ・レイ

つまり、

すべての存在は、一つの状態にとどまることなく、
常に移り変わり、変化し、すべては流れ去っていく

という表現として定式化され、

絶え間ない生成と変化こそが、世界の本質であり真理であるとする
ヘラクレイトス哲学の中心思想の一つともされています。

しかし、その一方で、

ヘラクレイトスは、

万物は一つであり、

一なるロゴスlogos論理理法比率)によって万物は成り立っている、

とも語っています。

つまり、

現実の世界におけるすべての事物は、絶え間なく生成・変化し、
一つの状態にとどまることなく、他の多くの状態へと次々に変化していきますが、

その絶え間なく移り変わっていく事物の変化背後にあり、
変化自体を司っている

ロゴス論理理法)自体は、
不変であり、一つであるということです。

そして、

その不変なる一なるロゴスによって、
世界には秩序と調和がもたらされているのですが、

その調和のあり方は、

ピタゴラスが考えたような
数式で表せる整然とした静的な調和であるとは考えませんでした。

ヘラクレイトスは、

弓という武器全体の調和が、
弓の胴体部分と、その両端に張り渡された弦との間に働く
反発力によって成り立っているように、

対立するものがせめぎ合い、
正反対の方向へと働く2つの力が拮抗する

逆向きに働き合う調和

こそが、世界の秩序と調和の真の姿であると考えたのです。

つまり、

ヘラクレイトスは、

現実の世界においては、「万物は流転」しているが、
その絶え間ない生成と変化の全体は、
不変なる一なるロゴスによって司られていて、

その一なるロゴスによって、

対立するもの同士がせめぎ合う

動的な調和がもたらされていると考えたということです。

・・・

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