論理学におけるアブダクションの語源と具体的な意味とは?ラテン語のアブドゥクティオの意味と論理学との関係
英語におけるアブダクション(abduction)という単語は、日本語では通常、「拉致」や「誘拐」といった言葉で訳される単語であり、
特に、魔術や錬金術、超能力や宇宙人といった超自然的な現象についての探究を行ういわゆるオカルトの分野においては、
宇宙人やUFOによる人間の誘拐や人体実験のことを指してアブダクション(abduction)という言葉が用いられることになります。
それに対して、論理学やコンピュータ科学といった学問分野においては、同じアブダクション(abduction)という言葉が、仮説形成と呼ばれる推論のあり方を示す用語として用いられることになるのですが、
今回は、こうした論理学におけるアブダクション(abduction)という言葉がもつ具体的な意味について、この言葉の古代ギリシア語やラテン語における語源までさかのぼって詳しく考えていきたいと思います。
古代ギリシア語のアパゴーゲーとラテン語のアブドゥクティオ
アブダクション(abduction)という言葉の大本の語源は、
古代ギリシアの哲学者であるアリストテレスが書き記した論理学に関する著作群の内の『分析論後書』という著作の中に出てくる
apagoge(アパゴーゲー)という古代ギリシア語の言葉にあると考えられることになります。
そして、
この古代ギリシア語のapagoge(アパーゴーゲー)が、ローマ人がギリシア哲学を解釈していく際に、ラテン語のabductio(アブドゥクティオ)という言葉として訳されたのが、
英語のアブダクション(abduction)という単語の直接的な語源であると考えられることになります。
ラテン語におけるabductio(アブドゥクティオ)の意味と論理学との関係
それでは、こうしたラテン語におけるabductio(アブドゥクティオ)という言葉は、具体的にどのような意味をもつ言葉であると考えられることになるのか?ということについてですが、
この言葉は、もともと、「分離」や「除去」を意味する接頭辞ab(アブ)に、
「導く」「引き出す」といった意味を表す動詞duco(ドゥーコー)から派生したductio(ドゥクティオ)という名詞が結びついてできた言葉であり、
全体としてabductio(アブドゥクティオ)という言葉は、その言葉自体の本来的な意味としては、あるものの内から何かを引き離したり取り出したりすることを意味する言葉であったと考えられることになります。
そして、論理学の分野においては、こうしたabductio(アブドゥクティオ)という言葉がもつ本来的な意味に基づいて、
現実の世界の内で生じている様々な現象を合理的に説明するするために、そうした現象が成立するための前提となる普遍的な仮説理論を個別的な現象の内から引き離して取り出すという推論のあり方のことを指して、
ラテン語のabductio(アブドゥクティオ)および、そこから派生した英語のアブダクション(abduction)やドイツ語のAbduktion(アプダクツィオーン)という言葉が用いられるようになったと考えられることになるのです。
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以上のように、
論理学におけるアブダクション(abduction)という言葉の語源は、
「分離」を意味する接頭辞ab(アブ)に、「導く」を意味するラテン語の動詞duco(ドゥーコー)が結びついてできたラテン語のabductio(アブドゥクティオ)という単語に求めることができると考えられることになります。
そして、こうした論理学におけるアブダクション(仮説形成)の具体的な意味とは、一言でいうと、
現実の世界の内で生じている様々な現象を合理的に説明するために、個別的な現象の内からそうした現象が成立するための前提となる普遍的な仮説理論を導き出すことにあると考えられることになるのです。
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次回記事:仮説形成(アブダクション)の具体的な意味と演繹的推論(ディダクション)との推論の方向性の違いとは?
前回記事:演繹法と帰納法の具体的な違いとは?必然的な論理展開と実証的事実に基づく両者における推論の進め方の違い
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