ヒスタミンによる食中毒が細菌性食中毒ではなく化学性食中毒に分類される理由とは?毒素型の細菌性食中毒との特徴の違い
前回の記事で書いたように、化学性食中毒の一種として分類されることになるヒスタミンを原因とする食中毒においては、
生魚などの食品が腐敗していく際に、ヒスタミン生成菌と呼ばれる細菌のグループが生産する化学物質であるヒスタミンが人体にとって有害な毒素として働くことによって、
下痢や腹痛、嘔吐や発熱といった一般的な食中毒の症状のほかにも、頭痛や舌や顔面の腫れ、蕁麻疹(じんましん)といったアレルギー反応のような症状をともなう食中毒の症状が引き起こされていくことになると考えられることになるのですが、
そもそも、
こうしたヒスタミン生成菌と呼ばれる細菌のグループがつくり出す毒素によって引き起こされる食中毒は、
なぜ、細菌性食中毒ではなく化学性食中毒に分類されることになると考えられることになるのでしょうか?
毒素型の細菌性食中毒とヒスタミンを原因とする食中毒の類似点と相違点
冒頭でも述べたように、
ヒスタミンを原因とする食中毒は、ヒスタミン生産菌が生産するヒスタミンと呼ばれる化学物質が毒素として働くことによって引き起こされる食中毒であると考えられることになるので、
そういった意味では、
こうしたヒスタミン生産菌と呼ばれる細菌のグループがつくり出す毒素によって引き起こされる食中毒は、
以前の記事でも取り上げた毒素型の細菌性食中毒のなかでも、人間の体内ではなく、食品や飲料水の内部において細菌が生産した毒素によって食中毒の症状が引き起こされることになる食物内毒素型食中毒菌を原因とする細菌性食中毒の一種として捉えることもできないわけではないと考えられることになるのですが、
その一方で、
こうしたスタミン生産菌がつくり出すヒスタミンを原因とする食中毒においては、一般的な意味における毒素型の細菌性食中毒との特徴の違いを見いだすこともできると考えられることになります。
例えば、
O157に代表されるような腸管出血性大腸菌の場合であれば、そうした特定の大腸菌が生産するベロ毒素と呼ばれる毒素によって腸管の粘膜細胞や腎臓の毛細血管の破壊が進行していってしまうことによって重篤な食中毒の症状が引き起こされていくことになりますし、
食物内毒素型食中毒菌の代表的な種類である黄色ブドウ球菌の場合はエンテロトキシンと呼ばれる毒素によって、ボツリヌス菌の場合はボツリヌス毒素あるいはボトックスと呼ばれる毒素によって、それぞれの細菌に特有の食中毒の症状が引き起こされていくことになると考えられることになります。
ヒスタミンを原因とする食中毒が細菌性食中毒ではなく化学性食中毒に分類される具体的な理由
このように、
一般的な毒素型の細菌性食中毒の場合には、本来は食品の内部には存在していないはずの特定の細菌が生産する毒素によって食中毒の症状が引き起こされることになるのですが、
それに対して、
ヒスタミンを原因とする食中毒の場合には、そうしたヒスタミンと呼ばれる化学物質を生成する役割を担う細菌のことを意味する言葉であるヒスタミン生成菌という言葉は、固有の細菌の種族のことを示す特定の細菌の呼び名として用いられているわけではなく、
こうしたヒスタミン生成菌と呼ばれる細菌のグループの内には、魚が釣り上げられる前に暮らしていた海洋由来の細菌や、日常的な生活の場においてありふれている腸内細菌に由来する細菌などに分類される様々な細菌の種族が含まれていくことになります。
つまり、そういった意味では、
一般的な毒素型の細菌性食中毒においては、本来は食品の内には含まれるべきではない病原体となる特定の細菌が生産する毒素によって食中毒の症状が引き起こされているのに対して、
ヒスタミンを原因とする食中毒においては、それぞれの食品の内部にもともと住み着いているような、言わば、常在菌のような立場に近い不特定の種々雑多な細菌の種族によって食中毒の症状が引き起こされることになるといった点において、
こうしたヒスタミン生産菌がつくり出すヒスタミンと呼ばれる化学物質によって引き起こされ食中毒は、
細菌性食中毒ではなく、単なる食品の腐敗によって引き起こされる食中毒、より正確には、化学性食中毒の一種として分類するほうが、医学的あるいは生物学的な知見に基づくより適切な分類のあり方となると考えられることになるのです。
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次回記事:重金属と軽金属の違いとは?両者に分類される代表的な金属の種類と区分するための基準となる「比重」の具体的な意味
前回記事:ヒスタミンによる食中毒が起こる具体的な仕組みと症状の特徴とは?ヒスタミン生成菌によるアミノ酸からのヒスタミンの合成
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