プリオンとは何か?細胞内における増殖と伝染のメカニズムとプリオンという言葉自体の語源と定義
宿主となる細胞に寄生して自らの遺伝子の複製を実行させることによって自己増殖していくというウイルスとしての性質を持ちながら、
DNAやRNAといった核酸、あるいは、そうした遺伝物質を包み込んでいるカプシドと呼ばれるタンパク質の殻と持つといったウイルスとしての定義を十分には満たしていないサブウイルス粒子と呼ばれる病原体の種族のなかには、
前々回の記事などで取り上げたウイロイドと呼ばれる植物細胞に対して寄生する病原体の種族のほかに、今回の記事で取り上げるプリオンと呼ばれる病原体の種族も挙げられることができると考えられることになります。
プリオンの語源と定義とは?タンパク質性の感染性病原体としての位置づけ
そもそも、
プリオン(prion)と呼ばれる病原体の存在がはじめて提唱されたのは、
1960年代に、イギリスの放射線生物学者であったティクバー・アルパーと生物物理学者であったジョン・スタンレー・グリフィスによって行われた
スクレイピー(scrapie)と呼ばれるヒツジやヤギなどの動物に感染して、脳などの中枢神経に神経変性を引き起こす病原体についての共同研究においてであり、
彼女たちの共同研究においては、
こうしたスクレイピーに代表されるような伝達性海綿状脳症と呼ばれる中枢神経疾患の原因が、
細菌やウイルスなどのDNAやRNAといった遺伝物質を持った通常の病原体によって引き起こされているのではなく、
そうしたDNAやRNAなどの遺伝物質を持たないタンパク質のみによって構成されている未知の感染性病原体によって引き起こされるという仮説が打ち立てられることになります。
そして、その後、
1982年に、アメリカの生化学者であったスタンリー・プルシナーにより、それまで仮説上の存在に過ぎなかった感染性のタンパク質の分離が行わることによって、そうした未知の病原体についての実証がなされることになり、
それによって、
こうしたスクレイピーや伝達性海綿状脳症の病原体となる感染性のタンパク質の存在が、
proteinaceous infectious particle(プロテネイシャス・インフェクシャス・パーティクル)、すなわち、「タンパク質性の感染性粒子」という言葉から、
protein(プロテイン)のprと、infection(インフェクション)のiとonの部分が抜き取られてprion(プリオン)という言葉として命名がなされたのが、
こうしたプリオンと呼ばれる感染性のタンパク質のことを意味する言葉の具体的な名前の由来であると考えられることになるのです。
動物や人間の細胞内におけるプリオンの増殖のメカニズムとは?
そして、
こうしたプリオンと呼ばれる感染性のタンパク質は、
細菌やウイルスといった他の一般的な感染性の病原体のように、DNAやRNAといった核酸によって構成される遺伝物質を一切持たないため、
細菌のように自分自身の力だけで増殖することもできなければ、ウイルスのように宿主となる細胞の遺伝子複製システムを乗っ取ることによって直接的に自分自身の複製をつくらせることもできないと考えられることになります。
それでは、
プリオンは、いったいどのようにして感染相手となる動物や人間の細胞の内部において感染を拡大して増殖していくことになるのか?ということについてですが、
それについては、まず、
動物や人間の細胞の内部におけるタンパク質の合成の仕組みについて考察していくことが必要であり、
通常の場合、動物や人間の細胞の内部において合成されたタンパク質は、すぐに自らのアミノ酸配列に応じて、そのタンパク質が持つ固有の立体構造へと折りたたまれていくことによって固有の機能を発揮することになると考えられることになります。
そして、それに対して、
プリオンと呼ばれる病原性のタンパク質は、そうした立体構造のあり方が、いわば、誤った形で折りたたまれているという異常な立体構造の状態にあることによって、細胞内において異常な機能を示す状態にあると考えられることになり、
プリオンの増殖と感染の拡大のメカニズムにおいては、
細胞内において同種類のタンパク質が合成されていく際に、新しく合成された正常なタンパク質が、そうした異常な構造をしたタンパク質であるプリオンと直接接触することにより、
プリオンにおいて保持されていた異常な立体構造が、鋳型や型枠のようなものとして働くことによって、新しく合成されたタンパク質も異常な構造をしたプリオンへと次々に変性していってしまうことによって、
こうしたプリオンと呼ばれる病原体における異常なタンパク質構造の伝播と細胞内における感染の拡大が進展していってしまうことになると考えられることになるのです。
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次回記事:プリオンが引き起こす代表的な疾患の種類とは?哺乳類プリオンと真菌プリオンの違いとそれぞれの疾患の具体的な特徴
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