プリオンが引き起こす代表的な疾患の種類とは?哺乳類プリオンと真菌プリオンの違いとそれぞれの疾患の具体的な特徴
前回の記事で書いたように、プリオンとは、
細菌やウイルスといった一般的な感染性の病原体とは異なり、DNAやRNAといった核酸によって構成される遺伝物質を一切持たずに、タンパク質のみによって構成されている感染性病原体として定義されることになるのですが、
こうしたプリオンと呼ばれる病原体の種族は、まずは、大きく分けて、
酵母などの菌類に対して感染する真菌プリオンと呼ばれる種族と、哺乳類プリオンと呼ばれる二つのグループへと分類されることになり、
後者の哺乳類プリオンは、さらに、主に人間以外の動物について病原性を示す種族と、人間に対してのみ病原性を示す種族とに分けられることになると考えられることになります。
人間以外の動物に病原性を示すプリオンが引き起こす代表的な疾患の種類とは?
まず、
はじめに挙げた真菌プリオン(Fungal prion)と呼ばれるプリオンの種族は、酵母などの菌類の細胞に感染していても、通常の場合は、あまり明確な病状は引き起こさずに、むしろ、菌体に対して有益な役割を果たしている可能性があるとも考えられているのですが、
それに対して、
後者の哺乳類プリオン(Mammalian prion)と呼ばれるプリオンの種族は、一般的にプリオン病と呼ばれるような、中枢神経系において重大な神経変性を引き起こすといった強い病原性を持つプリオンの種族として位置づけられることになると考えられることになります。
そして、
こうした哺乳類プリオンによって引き起こされる中枢神経疾患は、前述したように、プリオン病あるいは伝達性海綿状脳症といった疾患として総括されることになるのですが、
こうした伝達性海綿状脳症に分類される中枢神経疾患のうち、主に人間以外の動物について病原性を示す代表的な疾患の例としては、
スクレイピー、ウシ海綿状脳症、ネコ海綿状脳症、伝達性ミンク脳症、慢性消耗病、 外来性有蹄類脳症
といった疾患の種類が挙げられることになります。
こうした伝達性海綿状脳症においては、脳組織を中心とする中枢神経系に存在する神経細胞を構成しているタンパク質が、異常な形に折りたたまれた立体構造を待ったプリオンと呼ばれる病原性タンパク質との接触によって、
徐々に自分自身もそうしたプリオンと同様の異常な立体構造へと変性していってしまうことによって、脳組織全体が海綿すなわちスポンジ状に崩れていってしまうことになり、
それによって、ふらふらと小刻みに震えるような足どりや舌打ちをするような動作といった不随意運動や運動失調、神経過敏といった神経症状を引き起こしたのち、数か月から1年程度といった比較的短い期間の内に死に至ることになると考えられることになります。
そして、
上述した人間以外の動物について病原性を示すプリオンを原因とする中枢神経疾患のうち、
スクレイピー(scrapie)はヒツジやヤギ類に対して感染するのに対して、
ウシ海綿状脳症(BSE、狂牛病)の場合はその名の通り牛に対して感染を広げていくことになり、
それに対して、
ネコ海綿状脳症(FSE)は猫に対して、
伝達性ミンク脳症(TME)は、イタチ科に属する哺乳類であるミンクに対して、
慢性消耗病(CWD)は、エルクやオジロジカ、ミュールジカやアカシカといったシカ科の哺乳類に対して
外来性有蹄類脳症(EUE)は、ニアラやオリックス、クーズーやアメリカバイソンといったウシ科の哺乳類に対して病原性を示す
哺乳類プリオンの種族として位置づけられることになると考えられることになるのです。
人間に対して病原性を示すプリオンが引き起こす代表的な疾患の種類とは?
それに対して、
人間に対して病原性を示すプリオンによって引き起こされる代表的な疾患としては、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt–Jakob disease、CJD)が挙げられることになります。
そして、
こうしたクロイツフェルト・ヤコブ病と呼ばれる中枢神経疾患においても、前述したウシ海綿状脳症(BSE、狂牛病)などの動物における伝達性海綿状脳症の場合と同様に、
神経細胞を構成するタンパク質が、異常な構造をしたタンパク質である病原性プリオンとの接触によって徐々に異常タンパク質へと変換されていって組織破壊が進んでいくことによって、脳組織にスポンジ状の穴が形成されていくことになり、
不随意運動や認知症、運動失調や行動変化や人格変化といった症状が現れた末に、最終的には、症状が出てから1年から2年ほどの短期間のうちに死に至ることになってしまうと考えられることになるのです。
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次回記事:狂牛病とクロイツフェルト・ヤコブ病の関係とは?牛由来の異常プリオンによって人間の中枢神経疾患が発症する仕組みとは?
前回記事:プリオンとは何か?細胞内における増殖と伝染のメカニズムとプリオンという言葉自体の語源と定義
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