過度なウイルス検査によって感染者が増加していく仕組みの図解:ウイルス検査を受けに行く患者の側の危機感の意識の必要性
前回の記事で書いたように、通常の風邪の可能性も高いような軽症者を含むあらゆる疑い例に対して無制限にウイルス検査の対象を拡大していくことは、
検査を受けにやって来た未感染の軽症者に対して新たなウイルス感染を引き起こすことによって、かえって、ウイルス検査に由来する感染爆発を誘発する危険性があると考えられる。
今回の記事では、そうした過度なウイルス検査によって感染者が増殖していく具体的な仕組みを改めて図解していく形でもう少し詳しく説明していきたいと思う。
過度なウイルス検査によって感染者が増殖していく具体的な仕組み
上記の図において示したように、
新型コロナウイルスのように、治療法が存在しないうえに感染力も強いウイルスによって引き起こされる感染症に対してウイルス検査を行う場合には、
軽症者をウイルス検査の対象から除外して感染疑いのある軽症者には自己隔離を促した場合と、
軽症者を含むあらゆる疑い例に対して無制限にウイルス検査を拡大していった場合とでは、その後のウイルス検査を介した感染の連鎖の広がり形に大きな違いが生じていくことになると考えられる。
そもそも、社会の内には、
通常の風邪やインフルエンザの患者なども含めて新型コロナウイルスの初期症状によく似た症状を呈している軽症者は、常にある程度の数は存在していると考えられる。
そして、そうした未感染のケースも含まれる数多くの軽症者たちは、感染しているかどうか分からない不安な状態のまま自宅やホテルの一室などで自己隔離を行って無為な時を過ごしているよりも、
ウイルス検査を受けに行くことによって、自分が新型コロナウイルスに感染していないことを確認して早く日常生活へと復帰したいと考えることになるが、
ここで問題となるのは、
そうした感染の有無を調べるためにウイルス検査を受けに行くという行為そのものが、最もウイルス感染の危険性が高い行為となるという点にある。
そもそも、普段の生活においても、
ちょっと熱があるので念のため病院に検査に行ったらただの風邪という診断を受けたが、検査を受けに行った病院でインフルエンザにかかってしまったらしく、
数日後に高熱が出たので、再び病院に検査に行ったところ改めてインフルエンザの診断を受けて治療薬を処方してもらうことになったというような事態はよくある話である。
こうしたインフルエンザや今回の新型コロナウイルスといった飛沫感染や接触感染による感染力が強いウイルスを対象として行うウイルス検査において、
検査の際の感染のリスクを限りなくゼロへと近づけていくためには、
本来は、ウイルス検査を行う検査医師は、検査対象となる患者ごとに、医療用手袋とマスクはもちろん、フェイスシールドから防護服に至るまで、装備一式をすべて使い捨てにして総取り換えしなければならない。
また、患者が検査を受ける前に待機している待合室や待機場所、さらには、そうした検査場へと向かう際の移動経路においても、ウイルス検査を受けに来た感染者から未感染者への新たな感染の連鎖が起きてしまう危険性は十分にある。
隅々まで管理が行き届いた専門病院の清潔で静かな検査室のなかで、経験豊富な専門医によって行われる慎重で丁寧な検査であるならば、そうした待合室や検査室の内部での感染のリスクは最小限に抑えられるかもしれないが、
検査場に次々と現れるウイルス検査を受けに来た軽症者を大量にさばいていくような、いわゆるドライブスルー検査と呼ばれるような簡易的な検査方式においては、正直に言って、そこまでの徹底した衛生管理が行われているとは到底思えない。
患者ごとに、せめて、医療用手袋とマスクくらいは交換しているとしても、フェイスシールドや防護服が使い回しとなっていって、少しでも消毒が不十分であれば、
ウイルス検査を行う際に、担当の検査員のフェイスシールドや防護服に付着した感染性の飛沫が風で飛ばされて次に検査を受けに来た人の口の中に入ることによって、その場ですぐに、ウイルス検査を介した新たな感染者が発生してしまうことになる。
しかも、
ウイルス検査を介して発生した新たな感染者は、当然のことながら、その場のウイルス検査では陰性判定を受けて検査にパスしてしまうことになるので、
そのまま自分はウイルスに感染していないと信じ込んで、すぐに日常生活へと復帰してしまうことによって、職場や家庭や旅行先などにおいて、さらなる感染拡大を広げていってしまう危険性まで高くなるとも考えられるのである。
ウイルス検査を受けに行く患者の側の危機感の意識の必要性
上記の図における軽症者に対するウイルス検査を強化した場合に想定されることになるウイルス検査を介した感染者数の増加のシミュレーションにおいて示したように、
軽症者を含むあらゆる疑い例に対して無制限にウイルス検査を拡大していった場合には、どこまで検査を拡大して行ったとしても、
常に新たな検査を介して新たな感染者が生み出され続けていくことによって、ウイルス検査による感染者発生の無限ループが形成されていってしまう危険性があり、
そうした検査を介したウイルス感染の連鎖がいつまでも続いていくと、どこかの時点で、より大規模な集団感染が発生してしまうことによって、ウイルス検査誘発性の感染爆発が起こってしまう危険性まであると考えられる。
また、今回の記事では割愛したが、
以前にも「新型コロナウイルスの検査を軽症患者に広く行わない方がいい理由」の記事などで詳しく考察したように、
ウイルス検査を行う際の偽陽性や偽陰性の問題もあるので、軽症者に対して無制限にウイルス検査を強化していくことによって生じるデメリットは実際にはさらに大きくなると考えられる。
そもそも、
今回の新型コロナウイルスのように、治療法が存在しないうえに感染力が強く、致死率もそれなりに高い(WHOの発表では2~3%)という深刻な感染症のウイルス検査において、
コンビニやファーストフード店に行くような気分で、心理的な安心感を得るためだけに受けることができるようなお手軽な検査などは存在し得ないのであり、
検査を受けに行く患者の側も、検査を行う医師たちと同じように、一歩間違えれば、いま自分が行おうとしているウイルス検査が直接的な引き金となって自分や相手の命が奪われることになるかもしれないという命懸けの危機感をもって一回一回の検査へとのぞむべきなのである。
もちろん、
肺炎を発症しているケースなどの軽症以外の疑い例についてのウイルス検査と、集団感染の拡大を防ぐために行われる既知の感染者との接触者に対する積極的疫学調査としてのウイルス検査は感染拡大の防止のために不可欠であり、
そうした重症者の対症療法的な治療と集団感染の拡大防止のために必要十分なウイルス検査についてはできる限り迅速に行うべきであるが、
その一方で、
軽症者を含むあらゆる疑い例に対して無制限の検査拡大を進めていく場合には、前述したようなウイルス検査による感染者発生の無限ループの発生や、ウイルス検査誘発性の感染爆発が引き起こされてしまう危険性があるので、
あくまでも、軽症者を含むあらゆる疑い例に対して無制限にウイルス検査を拡大していくのではなく、
肺炎や数日間続く発熱といった中等症以上の患者と集団感染の防止のための積極的疫学調査などに対象を絞り込んだ精密で丁寧なウイルス検査を行っていくことが感染拡大を抑え込むためには最も適切な措置となると考えられるのである。
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次回記事:国内での感染症の流行にパンデミックという表現を用いるのは間違いなのか?WHOの6つのフェーズを基準とする定義
前回記事:ウイルス検査における観察者効果に基づく無制限の検査拡大のリスクとウイルスとの戦いにおける光と闇の本質的な認識
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